ランクアップするために・5
「寒い」
様子見に行った二人がオーリーと部屋の前で別れ、皆が待つ部屋へ入った瞬間。
そう宣ったのは、ミハイルの可愛い妹と従姉妹、ではなく。元王子として大切に大切に育てられた男。
「あーはいはい。大切に大切に育てられた結果、お坊ちゃんは軟弱になった、と」
ニルクがちょっと身体を震わせているのを横目で見ながら、クランが面倒そうに、そして呆れたように返事をする。
尚、ミハイルの可愛い妹と従姉妹はニルクのことなど存在しないかのように、綺麗に無視している。
そんな二人は固いベッドに寝転んで肌掛けを被った上で寒いと宣う男とは正反対に、いつでも動けるよ、とばかりに冒険者姿のまま解いてない。
「二人共、寒くない?」
ミハイルが尋ねると、ミッツェルカが答えた。
「寒いのは寒いけど。あんなの目の前で見せられたらそこまで寒くないだろうって、反感を覚えて、結果的にこれくらいなら大丈夫だよね、という気持ちになったというか」
ラティーナが無言で重々しく頷く。ミハイルもクランも納得した。確かに肌掛け被って寒いとか言っている、ラティーナとミッツェルカよりもやや厚着の男が目の前に居たら、呆れて、そこまで言うほどじゃないだろ、と思う。
ある意味役立ってはいるのかもしれない。
取り敢えず、被り物をしている元王子は放置して、ミハイルとクランは様子見の結果を伝えた。
「室内で冷えたなって思うわけだから、外はもちろん寒いか。この国に来たことも、首都に来たことも、この領地に来たことも、そこからさらに北のこの地に来たことも初めてだったから仕方ないけど、もう少し情報収集はしておくべきだったね」
ミッツェルカは嘆息して、情報収集不足だ、と自身を恥じた。併し、それは皆が同じこと。次は情報収集を怠らないことを念頭に置いておくことにして、ではどうするか、と考える。
「獣討伐をして欲しいというのがこの辺の人たちの気持ちみたいだね」
ミハイルがクランと共に様子を見て来た結果を伝えると、情報を集めて来た時に残りの三人も思っていたことだから、やはりそうか、と納得した。
「じゃあお兄ちゃん、どうする?」
ラティーナから尋ねられたミハイルは、可愛い従姉妹からお兄ちゃんと呼ばれたことにテンションが上がる。……そんなことくらいでテンションが上がる辺り残念さが伺い知れるがさておき。
「まだ夕飯前だから宿の人と交渉して、皆の分の外套みたいなものが借りられるか確認してみる。借りられないようだったら、明日、少し暖かくなった頃合いを見て、朝から獣討伐を優先して薬草採集。外套みたいなものが借りられたら、夜間で申し訳ないけれど、夜のうちに獣討伐というのはどうかな」
ミハイルの提案に、獣討伐で活躍する気満々のミッツェルカとクランがあっさりと了承する。
ミハイルはオーリーにその点を伝えてから、宿の主人に外套を借りられるか確認した。
結論から言えば、人数分は無い、との返答だったので、夕飯は食堂を利用するけれど、明日の朝食は獣討伐を早くから行いたいから、手軽に持ち運べる物に出来ないか、と交渉し。
それは了承されたので、再びオーリーに状況を伝えて、明日気温が上がり次第、獣討伐と薬草採集を行うことを伝えて、皆の元に戻って方針を伝えた。
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