ランクアップするために・1
「はじめまして。ギルド職員のオーリーと申します。本日はランクアップを目指しているとか。ランクアップするためには、依頼を二つ以上こなす必要がありますが、それは今日の依頼達成で大丈夫ですね」
見た目年齢で三十代前半に見える男性が待ち合わせ場所であるギルドで待っていた。
自己紹介しながら今日の目的を確認してくる辺り出来る職員なのかもしれない。
「五人パーティーでリーダーは誰ですか」
リーダーなんて決めていなかったが、ラティーナとミッツェルカで視線を交わしミハイルを指差す。
「えっ、俺? そうだっけ?」
「すみません、オーリーさん。リーダーは決めていなかったので今決めました」
ミハイルが動揺するところにすかさずミッツェルカがフォローする。
オーリーはなるほど、と頷きながらリーダーを決めておくメリットとデメリットを説く。簡単に言えば、ギルドとの交渉や他のパーティーとの交渉をする役割らしい。ただ、傲慢なタイプだとパーティーの仲間割れになるというデメリットがある、とも言われたが、その辺りは問題無いので、ミハイルに決めた。
実際、ギルドに依頼のことを尋ねるのはミハイルの役割だし、だからと言ってミハイル一人に任せないので形式上のリーダーということでミハイルを説得して了承させる。改めてオーリーにミハイルがリーダーだと伝えた。
「では、どのように依頼を行いますか」
オーリーからそんな質問が出る。
ミハイルは普段、人のサポートをすることが得意で表に出るタイプではないとはいえ、元は伯爵家の跡取りとしてそれなりに勉強にしても人間関係にしても、言葉の裏を読み取る術にしても教えられてきたので、この質問が自分のリーダーとしての資質を問うものであるだろうことは理解出来た。
「この二人が獣討伐で俺を含めた三人で薬草採集をします。二人には周囲を警戒してもらいます」
オーリーがふむ、と頷く。五人全員が薬草採集をしながら野生の獣討伐もするパーティーもあるだろうし、ミッツェルカたちのように二手に分かれて依頼をこなすパーティーもあるのだろう。特に何も言わずに納得しただけだった。
ちなみに、当然ながらミッツェルカとクランが獣討伐で、ミハイルとニルクとラティーナが薬草採集である。ニルクはラティーナがやるのなら、と乗り気だし、ラティーナとミハイルは戦闘向きでは無いのだから必然そうなる。
そんなわけで、先ずは二日程かけて領地の北を目指すことにした。
依頼の薬草は領地の北に自生しており、群生では無いから見かけたら採集していくスタイルになるわけだが、その場所は歩いて二日程かかるらしい。
到着してから採集を始めて、依頼達成の数に到達するまで何日かかるのかも分からない。
だから、依頼書には随時、と記されていた。頻繁に使われる薬草であると同時に、一日や二日で達成出来る数ではない、ということの表れであろう。
「オーリーさんは、冒険者ですか」
北を目指す旅なので、なぁなぁにする気は無いがそれなりに相手のことを知らなければ、と考えたラティーナが尋ねる。
「ええ。職員と兼業です。職員は臨時という形で普段は冒険者の仕事をしています。こうしてランクアップしたい冒険者の審判役で臨時職員として採用されてます。あとは、ギルドで何か起きた時に召集要員として」
オーリーは無骨な第一印象通り、物言いも率直だが嫌な顔もしないで答える辺り、根は良い人なのかもしれない。或いは話しても差し支えのない範囲で話しているだけか。どちらにしても、素っ気ないということは無さそうだ。
「冒険者に成り立てなのでよく分からないのですが職員になるにはランクも関係しますか」
「そうですね。ランクアップしたい冒険者の審判役は、高位ランクではないと出来ません」
つまり、オーリーは高位ランク持ちということだろう。ランクまでは話さなかったので聞かないで、更なる質問をする。
「ちなみにオーリーさんはソロ活動?」
「基本は。場合によってはパーティーを組むこともあります」
場合によっては。おそらく召集がかかるような何かが起きれば、ということだろう、とラティーナは判断した。
そんな具合で野宿をして二日目の午後に、薬草が自生しているという北の街に辿り着いた。
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