従姉妹との邂逅・4
そんな日々だったけれど、別に警戒だけじゃなかったよ。ラティも私も穏やかに、のんびりとした日も有ったさ。お互い、家は心地良い場所では無かったからね。学園は楽しかった。頭が良いラティと勉強をして、昼食は学食でのんびり。バカとはクラスが違ったおかげで、会う事も殆ど無かったし、ね。
そうして私とラティとバカは最終学年を迎えた。ここで、例のバカが愛する女性とやらが現れたのさ。年齢は私達より2歳年下で。前年度から何かとバカの周りをうろちょろしていたんだが……。バカの目の前で躓いて転ぶ、なんて、古典的手法でバカの気を引いてねぇ。そこから、バカの視界が入るところで、ちょくちょくドジっ子を演出し、バカはそれを信じて、目が離せないとか何とかで、絆された、と。
いやぁ、今どきあんな風化した古典的手法で騙されるバカが居るとは思わなかったよ。それが自国の王太子だって言うんだから、この国の将来を悲観するよね。
更にバカを引っ掛けた伯爵令嬢は、調子こいてバカにぶりっ子作戦で気を引いてさぁ。えっ? ぶりっ子作戦? 例えば? めんどくさいけど、1個紹介するなら。ある日バカの目の前で、学園の中庭にある噴水に落ちた伯爵令嬢が、目に涙を浮かべて「殿下。助けて頂けますぅ?」と、ね。上目遣いで、甘ったるい声で助けを呼ばれりゃ、下心満載のバカ男子が鼻の下を伸ばして助けないわけが無いよねぇ。
そんな場面をうっかり見た私は、笑わないで通り過ぎるので精一杯だったけれど。……まぁ、そんな調子でバカを虜にしていった愛する伯爵令嬢とやらは、とうとうバカに婚約破棄をさせて、自分が王太子妃になる事をバカに願ったのさ。
伯爵令嬢……ああ、アンジュリーとかいう名前だったかな。リモア伯爵家の令嬢だが、きちんと淑女教育を受けさせたのかなぁ。まぁ私みたいな令嬢も居るから、何とも言えないけどね。私の場合は、淑女教育など受けさせてもらえなかったから仕方ない。
それはさておき。
バカは、ラティを好きだから、ラティを王太子妃にする事は変える気は無かった。ただ、浅はかだったよ。
婚約破棄を言い渡せば、ラティが自分に捨てられる事を憂えて、自分に従順な妃になるんじゃないか、と考えた。
これが、今回の騒動の動機さ。
もちろん、それに私は気付いていたよ? 何しろ、バカに協力しろ、と命令されたからね。無論断ったが、バカは断られるなんて想像もしていないからねぇ。私が命令通りに協力する、とばかり思っていたはずさ。
それを訂正する気が無かったのは、確かだ。
だからこそ、あの婚約破棄の場面で、バカは私に助け舟を出すよう、視線で訴えて来たのだから。
私はバカを助ける気など端から無かった。だから、ラティを庇いながら、婚約破棄を成功させるように話を仕向けたよ。あの時、バカが目を白黒させていたのは、本当に笑えたね。
まぁこれが、今回の騒動の顛末と、私とラティの足跡だね。




