首都へ・3
景色を見ながら進む馬車旅。ヨンナはあちこちが見られるのでずっと興奮していて昼休憩などは駆け回っていた。昼寝をしそうだな、とユノラもマリも思っていたが余程楽しいのか昼寝もせず、夕方くらいになると眠過ぎてグズリ出した。
「早めに宿を取れる街へ入ってもらわないと、皆さまにご迷惑をおかけしますね……」
ユノラが申し訳なさそうに俯くが、急ぐ旅でもないし子どもがグズったからといって不機嫌になるような者もいない。元王太子のニルクでさえ、だ。尤も彼の場合はラティーナさえ居ればそれでいいので気にならないのかもしれないが。
「そうは言っても御者さんもこちらを安全に運ぶ必要がある。急がせても仕方ないし、グズったからといって不愉快でもないから気にしないでくれ」
ミッツェルカがそう言えば、ユノラがありがとうございます、と頭を下げた。一緒に旅をしているので相身互いである。
そうこうしているうちに、長距離旅向け辻馬車対応の宿がある街に入ったのか、賑やかな人の往来が窓から見えた。街に入って直ぐに馬車停めのある宿に馬車が停まって。御者が「本日はここに宿泊ですよ」と声をかけてくる。それにミハイルが了承の声を上げて、男三人。ラティーナとミッツェルカの二人。ユノラ・ヨンナ・マリ。そんな振り分けで三組分の部屋を御者に取ってもらう。だが、御者が交渉から直ぐに戻って来て、女性は一部屋にならないかと言って来た。どうやら大部屋が一つと二人部屋プラスソファーの部屋が一つしか空いてないらしい。
二人部屋というのはベッドが二つということなので、男三人はそこを借りてもらい、一人はソファーで寝てもらうことにするらしい。女性組は大部屋ではダメだろうか、ということなので了承した。
尚、御者は御者で専用の部屋が宿にあるらしいのでそちらに泊まる。その御者用の宿泊費も客持ちだが、長距離を運転してもらうので、それくらいは構わないのが、大抵の客の考え。もちろん、ミッツェルカたちもそのつもりで居た。
「まぁ、追ってはこないだろうが万が一を考えると一部屋で寝起きする方がいいのかもしれないな」
というミッツェルカの言葉に、ユノラが身体を震わせる。エンゾが追ってくる可能性は失念していたから。
「まぁそんなに怖がる必要も無いさ。私がいる」
ニヤリと笑うミッツェルカ。ユノラは、そういえば強い人だった、と思い出して力強く頷く。ぜひ、お願いします。という気持ちで頭を下げた。
元々一緒に旅をしているのは、彼女たちの護衛ということである。だから冒険者としての仕事だから気にしないでいい、とミッツェルカもラティーナも言う。
「気楽にいきましょう。ヨンナちゃんみたいに楽しんで、ね」
ラティーナがそんな風にフォローして、宿に夕食代と湯浴み代を支払い、全員その夜はグッスリと眠った。翌朝、出立時刻より四半刻ほど前には出立準備を終えた八人は、今日もヨンナが興奮しながら旅を楽しむのだろう、と思いつつ馬車に乗り込んだ。
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