従姉妹との邂逅・3
えっ? じゃあ、伯爵令嬢がヒロインなのかって? それは分からない。私の記憶は、悪役令嬢と言われたラティの事と、自分に兄と妹がいたことくらいだからさ。ただ、ラティがバカに婚約破棄をされるのは覚えていたよ。だから……
「は? ミッツェ、何その冗談」
学園に入った頃に思い出した記憶を、ラティに正直に打ち明けた。
「だから前置きしたじゃないか。信じられないような事を話すよって。それを聞く前に信じるわ、と言ったのは君さ、ラティ」
「そうだけど。だって、ミッツェが突拍子も無い事を言うのよ? 殿下に愛する女性が現れる。まぁこれについては、別に構わないわ。王族に限らず、義務を果たして愛人を持つなんて、男女問わずに当たり前だし。だけど、その愛する女性とやらのために、私との婚約を破棄するっておかしいじゃない。何の夢?」
「夢は夢だね。私が5歳でラティに会った時、倒れただろう?」
「ああ、その時、悪役令嬢って言われたわね」
「忘れてって言ったのに、覚えていたんだ」
「忘れられるわけないわよ。勝手に倒れた挙句、人を悪役だなんて」
「まぁそうだね。その倒れた時に、予知夢みたいなのを見た。だから、ラティがニルク殿下の婚約者になる事を話したし、出来れば回避しろって言ったじゃない」
ラティは、そういえば……という表情になる。
「てっきり、ミッツェが殿下を好きで私に嫉妬したのかと思ったけれど」
「は? 私が? あんなのを好きになるわけないじゃないか!」
「そうよねぇ。私も直ぐに否定したわ。だから、従姉妹の私が誰かに盗られるのが怖いのか、と思ったわ」
「それもある。ラティは私の天使だから」
ラティがそう予測を立てた事は、今度は肯定する。ラティは私の天使だ。誰かに、特にあの王太子に盗られるのはムカつく。私が素直に首肯すれば、珍しくラティが頬を染めた。照れているこの天使が可愛い。
「ゴホン」
ラティ、咳払いじゃなくて、言っちゃってるよ。そういうとこも可愛いよね!
「話を戻すわよ! それで。その予知夢で私は殿下に婚約を破棄されるって見たのね?」
「ああ」
「解消ではないの?」
確かに同じ婚約を無くすにも、破棄という一方的に悪人のような対応より、双方が納得した上で白紙にする解消の方が外聞は良い。だが。
「あのさ。ラティ。あの、自分の都合の良い事しか見えない・聞かないバカ殿下が解消なんて頭の回る対応をすると思う?」
「……そこまで周りを気遣ってくれるなら、そもそも苦労しないわね」
私の指摘に、ラティは溜息を吐き出した。何しろ、ラティの外見だけで婚約を取り付け、ラティの内面が出る度に、それはラティじゃない、と理想を押し付けられているのだから、疲れているのだろう。
「そういうこと」
「それで? 愛する女性って誰?」
「そこまでは予知夢で見てないよ」
「あら。適当な予知夢ね」
「そもそも私のギフトは予知夢じゃない事を知っているじゃないか。私だって、困っているんだ」
「そうね。ごめんなさい。それじゃ、いつ、どこで、とかは分からないわよね?」
「うーん……。場所は大勢が居たな。学園の制服を着ていたから、学園内の可能性は高い」
「そう。大勢が居るという事は、学園祭か何かのパーティーか……」
そんなわけで、この話以降、ラティは学園祭と年に数回あるパーティーでは、神経を尖らせた。ごめんよ、ラティ。私の前世の記憶が疎かになっていて。




