ギルドマスターとの話・1
「取り敢えず、どこの街が安心なのか分からないからね。暫く一緒に旅をするけどこの街が良い、とかあったら遠慮なく言って欲しい」
朝ごはんを食べ終えてサッサとギルドに行き依頼達成報告をしたところで、ギルドの方から話があると言われたのでギルドマスターの空き時間を待つまでの間に併設されている昼は食堂。夜は酒場の店でミッツェルカはユノラに改めて話した。ギルドマスターとやらとの話は多分今朝の襲撃の一件だろう、とはユノラもミッツェルカとラティーナも思っている。マリとユノラの娘であるヨンナはミハイルとクランに託してきた。依頼達成報告なのだから心配することもないので。
「はい。ありがとうございます」
「でも本当に家族とか連絡は取らなくていいの?」
ラティーナの心配そうな表情にユノラは少しだけ困った顔で。
「この街の出身ではないのです、私。隣街でして」
「じゃあ隣街に行けば大丈夫じゃないの?」
ユノラの答えを聞いたラティーナがそう言えば、ミッツェルカが首を振った。
「隣街にエンゾが行ったのか、ユノラさんがこの街に来たのか知らないけど、ああいう手合いは隣街程度じゃ部下か知り合いが居るよ」
ミッツェルカの言葉に同意するユノラ。ラティーナはそうなのね、と項垂れた。とはいえ自分に置き換えてみればなんとなく理解出来たのか、少ししてからもう一度「そうなのね」と頷いてその話は終わった。
そこへ受付嬢が呼びに来た。
ギルドマスターの部屋に案内された三人。
「ユノラさん、エンゾのところから逃げ出したというのは本当だったんだな」
中年の無精髭の生えた男がユノラを見て一安心したような顔を見せた。知り合いだとユノラが言っていたのは嘘では無かったらしい。
「ええ。このお二人に助けてもらいました」
ユノラに言われ、ギルドマスターは改めて二人を見る。先ずは礼を言わせてくれ、と頭を下げられた後でギルドマスターは二人を観察する目を向けた。
「君たちは何者だ」
「ただの新人冒険者」
ギルドマスターの問いかけにミッツェルカは端的に答える。素直に口を割らないか、とギルドマスターは嘆息して今度は威圧を浴びせた。ラティーナは不愉快そうに眉を顰め、ミッツェルカはニイッと面白そうに不敵な笑みを浮かべた。
長らく冒険者をやっていた……それもAランクで活躍していた彼の威圧をそんな風に流せる新人冒険者など、それも歳若い女性で居たことなどこれまで無かった。怖いもの知らずな若い男の冒険者なら数人受け流せる者は居たが、それも更に殺気を加えると怯えた。それ以外の者は威圧で怯えるか冷や汗を掻くか逃げ出そうとするか、だ。女性に至っては泣く者も居た。
ギルドマスターは殺気を浴びせたが途端にミッツェルカがラティーナの前に出て彼女を守るような姿勢を取りながら、ミッツェルカも殺気を放つ。
その殺気は実際に自分の手を血の色に染める……人の命を奪うことをして来た者にしか出せない殺気で、この若さでそれも品の良い印象を与えるところから良いところのお嬢様だと思う娘が、と分かればやはり只者とは思えなかった。
同時にどうやらエンゾの屋敷に早朝から襲撃をした若い少女の冒険者らしき二人、とはこの二人に間違いないこともギルドマスターは理解した。
……正直なところ誤報だと思っていたのだが。
ユノラが少女二人の冒険者と共に現れた、と聞いて正しかったことを知ったので、話をしようと呼び止めた。
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