表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/117

vs悪どい金貸し・4

 さて。退屈さえ感じる屋敷の護衛たちを叩きのめした否、切り倒したミッツェルカは次にやって来た犬十数匹もあっという間に血の海に沈めていく。そうして屋敷のエントランスのドアも切って壊して、騒ぎに起きて来ただろう使用人たちも片っ端から切って捨てる。バトラー服を着ている屈強な男が襲い掛かって来たがそれも喉元に刃を突き付ければ動きが止まった。


「このお嬢様の母親はどこにいるのか案内しな」


「ふ、ふん、この程度のことにビビって案内などするか! おい! お前ら、あの女の首をへし折ってこい!」


 ミッツェルカに剣を突き付けられようともバトラー服の男はまだ元気な使用人たちに声を張り上げて命じる。聞いていた使用人たちは男女問わずそちらの方へ行こうと一斉に動いたその瞬間。バトラー服の男の喉を切り裂き、それなりの力で駆け抜けて後ろから男女問わず背中やら脇腹やらすり抜ける度に切っていき、先頭の男の背後に立った。

 男は驚愕の表情を浮かべつつ、ミッツェルカの背後で蹲り呻き声を上げたり物言わぬ骸に成り果てたりした先刻まで何とも無かったはずの仲間たちを見てしまう。蒼白どころか土気色になった顔色など気にも止めずにミッツェルカは男に顎をしゃくった。


「早く案内しろよ」


 その一言だったのに、男は背後に立っていた少女を恐ろしく感じた。振り返って状況を確認しなかったなら、少女のことを見下していただろうに。実際のところ、ほんの少し前までは見下していた。

 だが今はどうだ。

 自分が蛇に睨まれた蛙どころか、次元の違う怪物に睨まれた心境に陥っていた。蛇の方がまだ可愛いだろう。

 男はエンゾの下で働いていたから、それなりに修羅場も見て来た。その経験が物を言う。

 この少女に逆らっては危険だ、と。

 震える全身に鞭を打つような気持ちでエンゾの二番目の妻の元に向かう。こんなことになるのなら、エンゾはさっさと二番目の妻と離縁しておくべきだったのではないか、と思いながら。

 男には心底理解出来ていた。

 この少女は、この街を裏で牛耳っているエンゾでも敵わないことに。

 軟禁していた二番目の妻の部屋の前に男が立つ。


「案内ご苦労」


 その声が男の耳に届くのと同時に自分の背中が急激に熱くなって鋭い痛みも伴って。温かな血液が出て行く感覚を少し遅れて感じ取って切り付けられたのだと悟った。


「お嬢様の母親かい」


 部屋のドアをノックもせずに開け放って視界に入った男女の、女の方を真っ直ぐ見たミッツェルカはなんの気負いもなく確認する。合ってるのか間違っているのか、本当にそれだけの確認の言葉と声音には、男のことなど一切視界に入ってないようだ。

 男がエンゾであることもきっとどうでもいいのだろうし、その男が女の首元に小型のナイフを突き付けていることすら見えてないかのよう。

 女が口を開くより早く。


「おいおい、お嬢さんよ。その得物は手放せや。この状況が目に入らないのかい」


「別に」


 エンゾは自分が居ないモノとして扱われたことに山より高いプライドを傷つけられて、甲高い声で怒鳴り散らす。その声が地声なのか裏声なのかはさておき。厳つい顔に刃物傷まで付けているのだが、その顔に見合わぬ声で、場の雰囲気がシリアスでは無かったら失笑するに値するような声だな、とミッツェルカはどうでも良さそうに考えた。

 まぁ考えていたことは口にはしないで尋ねられたことに短く答えておくけれど。


「べ、別に、だと? この状況を見てよくそんなことが言えるな!」


 キーキー喚く猿のような男だ。地声なのか? と思いながらもエンゾをチラリと一瞥して、エンゾがフンと胸を張ったのを見たけれど、ミッツェルカはまた興味無く視線を女に向け直した。

 ーーエンゾは自分が無視されたことが信じられず、呆然とした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。


次話は来月の予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ