vs悪どい金貸し・3
そんなわけでクランに道案内してもらい、お嬢様はマリとミッツェルカとラティーナで交互に抱き上げて道を急ぐ。夜明けと共に動いているから懸賞金目当ての配下たちもまだ寝ているか、仮に起きていてもどこから探すか考えているだろう。ミッツェルカは背負った剣とお嬢様を抱き上げている時点で力がある、とマリは気付いたようだが、実は既にギフトを使用している。それ故に剣を背負ってお嬢様を抱き上げても重さも感じず疲れていない。そのまま走り出すことも出来れば、クランよりも速いかもしれないがそこは制御していた。
「ここ?」
クランが足を止めた場所は街外れの大きな塀に囲まれついでに鉄柵も付けて囲われた屋根しか見えない屋敷。鉄で出来た門の中には人の気配がする。どうやら夜番の護衛というところか。まぁ別にどうでもいいな、とミッツェルカは思う。
「どうする?」
「正面突破」
クランには引き返してもらってエンゾとやらの三番目の妻の腹の子の父親を連れて来るように指示。ミッツェルカとラティーナは互いの顔を見る。ラティーナの問いかけにミッツェルカは簡潔に答えた。
「マリさんとお嬢様は相棒から離れないで」
ミッツェルカの指示にコクリと頷く二人。
「お嬢様は強いね。怖いだろうに」
「お母さんを助けてくれるんでしょう?」
「そのつもりだよ」
「だから頑張る」
母のためなら怖くても頑張るらしいお嬢様の頭をラティーナは撫でる。ミッツェルカは行くよ、と気負うことなく呟き背中の剣を抜き去ったと思ったらスッと一閃。鉄のはずの門扉が綺麗に切れた。お嬢様とマリは目を丸くするがミッツェルカが中に侵入し、ラティーナに促されて足早に中に入る。
門扉が壊された音に気付いた男達がワラワラと寄ってくるよりも前にミッツェルカが軽く一振りして三人の男の胸元がパックリと切れて血が噴き上がるのが視界に入るより先に、今度は駆けてくる十数人の男たちの間を走り抜けたと思ったら、男たちは足を抑えて呻き声を上げて崩れ落ちた。
よく見れば、全員足から血を流している。足止め程度なので、マリとお嬢様に気づいた者は痛みを堪えて二人を取り押さえようとしたけれど。
「止まれ」
ラティーナの一言で身体が止まり身動きが取れなくなった。これはラティーナもギフトを発動しているからであり、彼女のギフトは【皇帝】という。このギフトはその名称通り、国を治める統治者のギフトでありギフト発動中の命令は聞かざるを得ない。それは一国の国主である国王ですら対象。国王よりも皇帝の方が権力は上だから。彼女のギフトが発動対象にならないのは、彼女自身がこの者は発動対象から外す、と決めた者。それと彼女と同じ立場……本当に皇帝の地位に着いている者くらいだ。
現在、この世界に一国ではなくて多数の国を手中にした帝国という存在がある。そのトップは皇帝と呼ばれている。その皇帝はラティーナのギフトが発動しても対象にはならない。
つまりまぁ、現状ここで彼女のギフトが効かないのはミッツェルカとマリとお嬢様のみである。
そんなわけでラティーナのギフトが発動している今、男たちは命じられたように動けないでいた。そんな男たちの間を悠々自適に通り過ぎたラティーナとお嬢様とマリは、前方で死角から不意打ちだというのに関わらず難なく仕掛けてきた護衛の男たちを容赦なく切っていくミッツェルカの後に続く。
ある者は胸を切られある者は手首を切り落とされある者は膝下を、足首を切り落とされていく。恨むならエンゾとかいう男に仕えることになった自分の人生を恨むのがいいだろう、とミッツェルカは男たちの怨嗟の声などに動じることなく切り捨てていく。自分が決めてこんな仕事をしているからには、返り討ちにあっても仕方ないと割り切って欲しいものだ、とミッツェルカは思った。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
次話は来月




