vs悪どい金貸し・2
朝日が昇ったと同時に起床する。ニルクは朝が弱い男なので置いて行く事にする。ミハイルも置いて行く事にするのは、足手纏いということではなく。
「なんで、お兄ちゃんを置いて行くんだ⁉︎」
サッと身支度を整えたミハイルが朝食の準備をしている所に、出かけて来るね、とミッツェルカが告げるとミハイルが慌てて「お兄ちゃんも行く」と言ったから、待っててと返事をしたら、コレである。
「お兄ちゃんの朝ごはんが食べたいからだよ。美味しい朝ごはんを食べたいから腕によりをかけて作ってくれる? その間にあのお嬢様と侍女さんの問題ごとを片付けてくるからさ。問題が片付いた後で美味しくお兄ちゃんの朝ごはんを食べたら幸せじゃない?」
ミハイルにとって可愛い妹のお願いは何に置いても最優先される。
それを理解しているミッツェルカがお願いするのに加えて、ラティーナも「お願い、お兄ちゃん」とダメ押し。ミハイルは呆気なく陥落した。
眠っているニルクの事は最初から三人の頭の中には入っておらず、一連の劇を見ていたクランは一国の王太子だったのに可哀想な扱いだなぁ、なんて同情してしまう。後、ミハイルのチョロさには心底心配してしまった。自分なりの美学を持つ暗殺者に心配されるミハイルのチョロさ。
併しこの三人は子どもの頃からこうなので、三人共に何も思っていない。
そんなわけで美味しい朝ごはんを作って待っているよ、と爽やかイケメンの笑顔に見送られて、クランとミッツェルカとラティーナは身支度を整える。それからマリとお嬢様を起こした。
「朝からごめんね、侍女のマリさん、お嬢さん」
ミッツェルカは客間の一室でまだ眠たそうな顔を見せるお嬢様に申し訳ない、という表情を見せながらもマリに乗り込むよ、と告げる。
「えっ、だ、旦那様の元へ向かうのですか⁉︎ そんなっ。折角お嬢様を逃がせるのにっ」
悲鳴を上げる侍女を説得しようとラティーナが口を開く前にクランが端的に告げる。
「だってそのお嬢様と侍女であるアンタ。二人共に懸賞金を掛けられて探すように命じられているよ、部下の人達」
マリはヒッとまた悲鳴を上げる。
「懸賞金と引き換えにお嬢様をっ⁉︎」
「いや、そんなことはしないよ。それなら懸賞金のことを知った時点で二人をエンゾに引き渡してる」
マリが勘違いするのも無理はないが、ミッツェルカは首を左右に振って否定する。実際懸賞金目当てならば直ぐにでも二人を引き渡しているだろう。マリは、それもそうか、と納得する。
「では何故」
「いやだって、この街に味方がいないわけでしょ。この街から二人を逃すことは出来るけどさ、どうせ金を掛けて二人を見つけようと他の街にも人を向かわせる。いつまでも逃げ続けることになるし、いつまで逃げ切れるのか分からない。だったら、こっちから乗り込んでさ、叩き潰そうよ。その実力が私達にはある。私の強さを見たでしょう」
ミッツェルカの話にマリはなるほど、と頷く。併し旦那様の部下はとても多い。あんな大勢に勝てるとでも言うのだろうか。
「大丈夫。私はね、あまり自慢出来ることじゃないけど、修羅場には慣れてるからね。どうする? 私たちを信じて戦うかい? 必ず守るよ。でも、戦う気持ちの無い相手を連れて行くわけにはいかないからさ。ただ逃げるにしても逃げ続けるのは難しいと思うよ」
マリは少し考え、決断する。
「戦います。お嬢様とお嬢様のお母様のために」
ミッツェルカの強さと自信に掛けてみよう、と思っての決断だった。
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次話は来月。




