怪しい護衛任務・10
前話読み返して、クランの登場シーンが全てニルクの名前だったことに気付きました。訂正しました。
夜が更けて月が中天に差し掛かった頃、ただいま〜と気の抜けた声でクランが帰還した。
「お帰り、クラン」
「お嬢様、ちょっと時間かかって悪いね」
飄々とした声のクランに焦りはまるで無いし待たせたとも思って無いだろう。
「成果は」
「デートしてもらえるからには頑張ったよねぇ」
「この件が片付いたらギルドに併設されている食堂でデートしてあげる」
「そんだけ⁉︎」
「デートはするんだ。構わないじゃないか。……それで?」
「お嬢様、人使い荒い……。でも、まぁお嬢様の予想通りだよ」
クランが調べ上げて来たのは、侍女のマリが仕える小さな主人の義母とその他である。
「先ず、あのお嬢ちゃんの名前ですが」
「それは要らないや」
クランが切り出すとミッツェルカが速攻でぶった斬る。クランは「えー」と不満げに唇を尖らせるがまぁいいか、と切り替えた。
「じゃあお二人の依頼人であるお嬢ちゃんとマリのことは置いといて。俺が護衛している男の家族について。一番目との間に子どもはいない。お嬢ちゃんの母は二番目。で、三番目の妻の子だけど、お嬢ちゃんの父親の子じゃないよ。お嬢ちゃんもあの男の子じゃない」
「あら。そこは予想外」
クランの報告にラティーナが意外だと言う。
「別にお嬢ちゃんの母親が浮気したわけじゃなくてさ。二番目の人は元々別の男と結婚していたの。それを今、俺が護衛している男……面倒だから名前で呼ぶね。エンゾって言うんだけどさ。エンゾはお嬢ちゃんの母親に一目惚れして結婚していた男……これがお嬢ちゃんの本当の父親なんだけど……に借金背負わせて借金のカタに妻を差し出せってね。抵抗したらお嬢ちゃんの母親の目の前で男に暴力振るって、お嬢ちゃんの母親自ら、エンゾの妻になることを承諾させたわけ」
あー、そういう……。
ラティーナもミッツェルカも口にはしないが顔に有り有りと嫌悪感が浮かんでいた。貴族として育てられたのに表情を取り繕うのは止めたのか、と突っ込む者は誰も居ない。
さらにクランが続ける。
「そんで、二番目との間にお嬢ちゃんが生まれたけど、エンゾは自分の子であるか疑っていた、と。それが原因で二番目の奥さんに暴力を振るい、精神的に追い詰めていたってとこ」
「はぁ……。疑うも何も非道なことをしておいて、生まれた子が自分の子じゃないと疑って暴力を振るうとか、阿呆なのか」
ミッツェルカはエンゾとやらいう男の所業に呆れ果てる。ラティーナも同じ。
「まぁそれでも一応、自分の子かもしれないって思ってお嬢ちゃんを大切にしていたわけだけど。ある日三番目の妻に一目惚れ。こっちは夫も居ないから二番目を追い出して三番目を迎えた。で、二番目追い出す時に二番目から娘も一緒にって言われたのが気に入らなかったらしくて、お嬢ちゃんを手元に置いた、と」
「はぁ? なんで娘も一緒に、というのが気に入らなかった?」
ミッツェルカが訳分からんと首を捻る。
「一応、自分の子かもしれないって思ってたから、取り上げられたくなかったらしい。この辺は古くからエンゾの側にいる奴らに聞いた」
「なるほど? つまり、その男は自分の子に執着心がある、と」
ミッツェルカは頷く。
「そう。だけどつい十一日前に三番目が子を身籠ったもんだから、自分の子か疑わしいお嬢ちゃんより三番目の子の方がいいよねってお嬢ちゃんを追い出そうとした。そんで、この三番目が性悪で。エンゾに伯爵のことを教えたのが三番目」
「へぇ……。貴族の裏の顔を知っているってことは只者じゃないよね」
クランの報告にラティーナが目を鋭くさせる。
「そりゃ、三番目が伯爵の愛玩人形だったからさ。成長して追い出されたけど、マトモな生活を送れなくなった三番目は当然裏の世界に入り浸る。で、エンゾに気に入られた、と。三番目はエンゾの妻として成り上がるために邪魔なお嬢ちゃんを追い出し、エンゾの子を妊娠しないから他の男の子を身籠ったわけだ。で、お嬢ちゃんをかつての自分と同じ目に遭わせようと画策。自分が伯爵の餌食になったことをお嬢ちゃんにもって思う辺りがもうマトモじゃないよね。そんで今回のことに繋がった、と」
ミッツェルカもラティーナも元は貴族。ラティーナは今も、かもしれないが、さておき。こういった話を知らないわけじゃない。だが聞いていて気持ち良いものではないことではある。
それなりに思い描いていたとはいえ、現実は中々に厳しいものだった。
「取り敢えず、お嬢様の母親を探すのが先かな」
ラティーナの意見にミッツェルカが首を振る。
「いや、エンゾとかいう男を何とかするのが先」
クランもお嬢様に賛成、とミッツェルカの意見に同意した。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
次話更新来月です。




