怪しい護衛任務・6
「つまりそれ……こんな小さな子に婚姻を押し付けようとする身内や暴力を振るう身内が居るということになるわよね」
ラティーナの確認にマリは躊躇いつつ頷く。
「お嬢様に無理やり婚姻を押し付けようとしているのは、旦那様です。お嬢様の実の父」
マリが堰を切ったように話し始める。実の父親がこんな幼い子に婚姻を押し付けるとは……とラティーナもミッツェルカもミハイルも絶句する。ミハイルは口出しはしない、と宣言して同席しているため辛うじて言葉を発しない。
「えっ、メゾフォンテって成人してない子との結婚を認められるの⁉︎」
衝撃からいち早く立ち直ったミッツェルカがマジで? と声を上げる。マリはまじで、という言葉を理解出来なかったが驚いているところから察するに成人してない子と結婚出来るのか、と信じていないようだと判断する。
「実際にはお嬢様が成人したら直ぐに婚姻するということで婚約者という形ですが」
「いやいや、それでもこんな小さな子と婚約なんてさぁ……。逃げ出すってことは、訳ありだろ? 相手も同じくらいの年齢ってこと……では、無さそうだな?」
ミッツェルカの確認にマリは頷く。これが貴族の政略結婚で年齢も五歳くらいまでの歳の差であればマリも何も言わなかっただろう。逃げ出すことも無かった。
併し、お嬢様と呼んでいるが、彼女は平民の子で富裕層の家柄。政略結婚なんてお貴族サマの世界とは関係ない所で生活している。……はずだった。
ところが、お嬢様の父親は男爵家や子爵家相手に商売するだけでは飽き足らず、高位貴族を相手に商売をしようと考えた。その取っ掛かりとして少年少女という年齢の子ども達を愛玩具としていると噂される伯爵に娘との婚姻を持ちかけた、というのが今回、お嬢様とマリが逃げ出す直接的な原因となったのであった。
マリの説明にラティーナは難しい表情を浮かべる。その話が本当ならば倫理的にどうなのか、という問題はあるものの、法的には何の問題もないように思える。
「伯爵とやらは結婚は……」
ラティーナの問いにマリは首を振る。
「かの伯爵様は独身で年齢も三十六歳です」
独身なのはまぁ百歩譲ってヨシとすることが出来たとしても、年齢はどうにもならない。
お嬢様を養女にするならば兎も角、結婚相手にはならないだろう。年齢差が有り過ぎる。
「そりゃ逃げ出すなぁ。その話、身内は誰も反対しないのか」
聞いていたミハイルがついつい口を挟む。
「お嬢様のお母様は旦那様の二人目の奥様でしたが既に離婚され、現在の奥様は三人目でございましてお嬢様に躾と称して……」
そこからは口籠ったが、先程マリが暴力を振るうと言っていたので、おそらくその継母が暴力を振るっているということだろう。
「手を上げる、か」
マリとお嬢様が座るソファーの後ろから問いかけたのは寝ている、と言われていたニルクである。マリは驚いて肩を震わせて振り返り……固まった。
ラティーナ、ミッツェルカ、ミハイルは、ああそういえば……とニルクの顔面を見る。
ライネルヴァ王国の王族ってみんな顔はイイんだよな、顔は、と三人共に失礼なことを思い出した。
つまりまぁ、ニルクも顔はイイのだ、顔は。
当の本人はいつも視線を集めていた所為なのか、三人の視線も驚いて固まるマリのことも全く無視しているが。一応ライネルヴァの王族の顔を初めて見る人間は大抵、こうして一度は固まる。その顔の良さに驚いて。
尚、ミハイルも国王と王妃を見て固まった人間だが、ラティーナとミッツェルカは無い。
というのも、ミッツェルカは前世の日本人の記憶が蘇った折に前世の兄弟の顔すら思い出せないのに関わらず、何故かアニメのオープニングの映像は覚えていたために、ラティーナもニルクも覚えていたので顔がイイことを予め知っていたから驚かなかった。
ラティーナの場合は生まれた時からずっと顔を合わせていたのだから気付いたら常に見ているために驚くも何も慣れていたに過ぎない。抑々ラティーナも王族の血を引くので顔がイイ上に似ているので、気にならないのかもしれない。
そんなわけで、マリの反応は三人にとってもニルクにとっても珍しくないものであった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




