怪しい護衛任務・2
「ふぅん。断れることを考えていたのならどう懐柔しようと思ってたのさ」
ミッツェルカに問われて肩を震わせる依頼人二人。しかしマリと名乗った侍女は気丈に振る舞う。
「金で片が付くのなら、お望み通りの金で。しかし命を失うことへの怯えならば冒険者の剥奪を」
「つまり、それだけの権力がある、と。でもそれは教会に逃げたい相手にも知られることでは?」
マリの金での懐柔か脅しでの懐柔、という明け透けな答えにラティーナが更に問いかける。マリもグッと黙ったことから、その可能性も考えていたのだろう。
「そうなったらこの身を擲ってでもお嬢様を守り切るだけです」
悲痛な決意、のようだが、小さな主人への忠誠心は強いらしい。
「うんまぁその決意は分かった。取り敢えず、もし断っていたらの話だし、引き受けた以上は無意味だし、とっとと教会まで送るよ」
ミッツェルカはマリの悲痛を滲ませた強い決意も肩を竦めて受け流すだけで飄々とした素振りで、じゃあ行こうか、と立ち上がった。
「ま、待って、ください! あの、お金!」
「報酬は成功してから支払うんだよ、お嬢様。前払いは失敗してもいいって冒険者に言っているようなもんさ。依頼を受けるも断るも冒険者次第だが、私達は受けると答えた。なら、成功してから支払ってくれ」
立ち上がってさぁ行くか、と気負わないで言うミッツェルカにお嬢様が、言葉を詰まらせながらも言うから、ミッツェルカは報酬は後回しだ、と諭す。
「併し、この任務は大変で! 命の危険も分かったのでしょう? あなた達は相手が誰か知らないから、そんな呑気なっ」
侍女のマリが言い募るが、ミッツェルカは肩を竦めてラティーナが不敵に嗤う。
「あのね、マリさんとやら。そしてお嬢様。あなた方は物凄い運が良い。大丈夫。お嬢様もマリさんも無事に教会に行けますから。だって、私の相棒は凄く強いからね。冒険者登録したのが遅かっただけ」
ラティーナの自信満々な言葉は、何故か新人冒険者なのに何を言って……というマリの言葉を封じ込めるくらいの威圧があって、小さな主人と侍女は顔を見合わせて「お願いします」 と頭を下げるだけだった。
「「任せといて」」
ミッツェルカとラティーナが声を揃えて了承する。
メゾフォンテ王国に来て数日間、ミッツェルカは語学勉強をしながら地理を叩き込み、ラティーナもミッツェルカに教えながら地理を叩き込んでいたので、教会の場所は既に頭に入っている。だから気負うこともなく二人を促して、この依頼を受けるよ、と受付嬢に正式な依頼届けをした後、受理されてギルドを出た。……途端に、ミッツェルカがお嬢様を抱き上げ、ラティーナとマリを振り返る。
「走れ」
マリはお嬢様に何を、と叫ぶ間もなくそんなことを言われて目を白黒させつつ、ラティーナに手を引かれて前を走るミッツェルカの後を追って走り出した。
その後ろからやはり走る足音が聞こえて来て、マリもミッツェルカに抱き上げられているお嬢様も身体を震わせた。
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