情報交換・2
「私が知っているのは、弟であるセラクが分かり易く王位を狙っていたこと。母上が急な病に罹り倒れたこと。母上の分まで父上が公務に邁進する事により俺たちに目が届かなくなった。という事だけだ」
ニルクが話す。
「本当に、それだけ?」
もっと知っている事が有るだろ……とミッツェが煽る。それでも黙っているニルクをさておき、ミッツェは取り敢えずチラリとクランに視線をむけた。クランは何とも言えない表情で、ニルクとラティを交互に見た。ミッツェに煽られるニルクと複雑そうな表情のラティ。そして、さぁ知っている事を話せ、とばかりに自分を見るお嬢様……。ミハイルだけはただ静かな表情。クランはどうするか考えることを放棄した。
暗殺者の仕事だけならば、自ら考え、状況の判断もこなしていたが、今はミッツェと共に在る。だからミッツェの望む通りにするのが良い。
「俺がその道の情報屋にこの元王太子サマを迎えに行った後に聞いたのは」
ニルク(と、ニルクを狙っていた第二王子の手の者)を此処に連れて来た後、クランは足早に情報屋から情報をもらって戻って来ていた。
「王妃様が病から回復して、お姿を貴族達にお見せになられた、ということだが」
「母上は元気に?」
「多分?」
クランの情報にニルクが飛びつくようにクランを見る。必死の姿にクランも確定ではないが認めた。
「そうか。母上は元気になられたか」
「という事は、ニルク、隠していることを話してもいいんじゃない?」
「何故、私が隠している事に気付いた」
「うーん。気付いたというか。ニルクがラティに婚約破棄を突き付けて、それからニルクが国外追放されるまでが早い。早過ぎた。それもニルクの身体は子を生せない身体なのに、追放しといて護衛に暗殺させようとしていた。……まるでニルクを狙っている事を誰かに知られたくないように」
ミッツェの推論にニルクは苦笑した。
「そうか。ミッツェと呼んでいいのか?」
「どうぞ」
「ミッツェは、私が……俺がラティに婚約破棄を突き付けてから国外追放されるまでの流れは父上以外の誰かが勝手に独断専行した、と思うのだな」
「そうだね。国王陛下が一番。法は有るけど国王の心根一つで白が黒になる事も黒が白になる事もある。ニルクのやらかしはやらかしとして。それを何の調査も無くニルクが国外追放の罰を与えられるとは思えない。仮にニルクの思考・言葉・行動に問題が有る、と判断して証拠集めをしていたとして。でもニルクに話を聞き、私やラティは出奔したけど、当事者達の話を聞き、場合によっては裁判を行って処罰のはず。でもこの速さだと?」
「一方の話だけを聞いて証拠を捏ち上げて陛下が俺を刑に処した。もしくは……陛下の名を語って勝手に罪人を処罰した、と言いたいのだろう」
ニルクが苦笑して自身の考えを話す。本当にラティが絡まなければ冷静になって物事を見られる男である。
「それは、随分と変ね。ミッツェとそちらの元王太子サマの発言から考えるに、それを行った可能性が高いのは、第二王子であらせられるセラク殿下。でも、あの方は聡明な方で、そんな事をするようなお方では無いわ」
ラティは王太子妃……ゆくゆくは王妃の座に着く女性だったので、その教育を受けるために登城していた。ニルクとの交流はもちろん、他の王族との交流もそこそこ有った。当然セラクも、だ。良く知っているとは言えないが、それでも聡明さは理解出来ていた。
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