現れた元王太子サマ・7
「じゃあこのおバカ殿下の特殊ギフトって」
ミハイルの問いには、ミッツェが首を振る。
「それは聞いてない。ニルクには話すな。聞いたらニルクを抱え込む事になる。私はラティとお兄ちゃんだけが大事だ。ニルクを抱え込む気は無い。ただ、ラティやお兄ちゃんがニルクを抱え込むなら、私もそうする。どうする?」
「私は嫌」
ラティが即答してニルクはドン底に落ちたような顔になる。
「俺は……暫く見守りたい。それから決める」
「分かった。じゃあラティ、諦めてニルクを受け入れて」
ミハイルの答えにミッツェはラティに言う。
「なんで⁉︎」
「私はラティが大事。だからラティが嫌だって言うなら、ニルクをここで捨ててくつもりだった。でも。お兄ちゃんは、支援ギフト持ち。そのお兄ちゃんの勘は無視出来ない。という事は、ニルクの存在は少なくとも私達の足枷にはならないってこと」
「それは……。じゃあミハイルの決断が出るまでは受け入れるわ」
ラティは渋々受け入れる。途端に天国まで行ったような歓喜の表情をニルクは浮かべた。
「というか、お嬢様。俺には聞かないんですか……」
「ああ、クラン。居たんだっけ。クランは勝手についてきてるだけだから」
「お嬢様、ひどい……」
「だって私がどういう態度を取っても勝手に着いてくるでしょ。あ、ニルク、もう喋っていいよ」
適当にクランを扱ってミッツェはニルクへ雑に許可を出した。
「感謝する。ラティ。私は……俺の世界は、君と君以外なんだ。それは俺の特殊ギフトが関係している。俺の特殊ギフトは研究者というんだ」
「けんきゅうしゃ?」
ラティは初めて聞くギフトだし、それはミハイルもクランも同じだった。だから首を捻る。だがミッツェは「ああ、納得」と頷く。
「ミッツェ。どういうこと?」
ラティに促されたミッツェをニルクも驚いたように見た。
「学者ギフトは知っているよね?」
この問いかけにミハイル・ラティついでにクランが頷く。
「学者ギフトって、自分の得意分野を人に教える事が好きなギフトなんだ。所謂学園の教師にこのギフト持ちが多いのは、そういう特性。研究者というのは、得意分野を人に教えるより得意分野を極めたいって事だよ。教える事も出来るけど、人に教えるより得意分野の勉強をずっとしていたいってギフト、だと思うよ」
ミッツェはおそらくギフトの特性がそんな感じだろうと予測を付ける。前世のミッツェの中での研究者は、そんなイメージ(偏見かもしれないが)だったから。
「良く……解ったな?」
ニルクは更に驚いた。やはりそういう特性のようだ。
「まぁ勘。それならラティにしか興味ないのも納得。ラティに興味が有るからラティを研究したいんだろうけど、ラティに執着しないでよ? あんまりにもラティが嫌がる事したら私が殺すからね」
研究対象としてラティを認識したニルクのギフトが発動している、という事だろう。恋愛感情的なものも含まれているだろうが、とにかく、ニルクの興味がラティになってしまった時点で、多分ラティは逃れられないのだと思う。ラティの事を知り尽くしたい、という研究者のギフトからは。ミッツェはそう判断したので、行き過ぎた研究をしてラティに迷惑をかけたら、自身のギフトを発揮してでも、ニルクを排除する事に決めた。
「分かった。ラティが嫌がる事はしない」
「それならいいよ。それにしても、ニルクのギフトがそういうヤツじゃ、確かにラティが王妃じゃないと国王にはなれなかったね。ラティを研究対象にしちゃったのなら、そりゃあ国も国民も何もかもに興味が無いわけだね。寧ろ迷惑者が王にならなくて良かったかもね」
ミッツェは、ニルクをこんなの呼ばわりしつつ、ニルクが国王にならなくて良かった、と
のたまった。その言葉に激しく同意したのは、こんなの呼ばわりされたニルク自身であった。
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