隣国・トルケッタ公国公都リノーヴ・6
短いですが、キリが良いので。
ラティがサッサと私に塗り薬をくれたので、お兄ちゃんとの不毛な攻防は幕を下ろした。全く無駄な遣り取りで時間を食ったよ。
「万が一傷痕が残ってお嫁に行けなかったら、どうするんだ」
とブツブツ呟くお兄ちゃんに呆れ果てたが、私はお兄ちゃんの機嫌を取る言葉を使ってみた。
「そうしたら一生お兄ちゃんに面倒を見て貰おうかなぁって思ってたけど、お兄ちゃんは嫌だよね?」
お兄ちゃんは、目を瞬かせた後、満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。
「いいや! そうか! 嫁に行けないって事は、ずっと俺の可愛い妹で居てくれるのか! うん、良いなそれ。よし、ミッツェ、とことん傷痕を残せ!」
……とことん傷痕を残せって言われても。嬉しいとは思えないのは何故だろう。まぁ何にせよ、やっとお兄ちゃんが鬱陶しく無くなったから、これ以上は何も言わずに先へと足を速める事にした。
ちなみに、この遣り取りでラティがずっと黙っているのは、お兄ちゃんが鬱陶しい事は分かりきっている上に、ここで口を挟んで、自身にその鬱陶しい愛情を向けて来たら……と考えたから、だろう。
うん。ラティ、その判断は正しいよ。
さて、森を抜けて暫く平坦な一本道を歩いていたところ。
「助けてくれ、誰か!」
という声が聞こえてきた。なんだ? 脇道を見れば、お兄ちゃんより年上に見える男性が地面に倒れていた。
「どうしました?」
お兄ちゃんが近寄る。私とラティも近寄った。見れば、足が怪我をしているようだ。
「ああ……良かった。いえ、見ての通り足を怪我してしまい……。この通り何も無い場所だから、誰かが通りかかってもらえればいい、と思いながら叫んでいました」
男の言い分に。ふぅん、と警戒心が高まる。叫び続けていた割には、声が良く通る。擦れても居ない。どういう事かなぁってお兄ちゃんとラティに目配せした。




