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隣国・トルケッタ公国公都リノーヴ・3

ラティの心境編

そんなわけで、魔物ならば血抜きして解体して食材確保をするが、まぁ普通の獣は美味しくないと聞いているので放置だ。えっ? 食べてみないの? だって? 逆に聞くが、不味いと聞いていても試してみたいかい? これが食料難なら食したかもしれないが、美味しいご飯を食べたのに、不味い物は食べようとは思わないよ。


さて。準備を終えたので、歩き出す。何、急ぐ旅でも無い。可愛いラティと美味しいご飯を作るお兄ちゃんと3人。のんびりと行こう。


「ラティ」


「何?」


「眉間に皺が寄っているよ?」


ラティは慌てて眉間の皺を伸ばした。


「一体何を考えていたのさ」


「……婚約破棄をされた事は、ね?」


「うん」


「素直に嬉しいのよ。私を見ないバカ。更に結婚前から浮気して」


「うん」


「だけど。王太子妃……ゆくゆくは王妃として国を守り、民を慈しみ、平和の礎となるために、貴族と国民の模範となり愛される王妃になるために、他国にも付け入られない完璧な王妃になるために、私は王太子妃……王妃教育に人生の大半を捧げて来た。王妃様が他国へ外遊に行っている間も、勉強してきた」


「うん」


「唯一の息抜きが、ミッツェと平民の暮らしを覗く事で。それすら短い時間で。そうまでしてきて、正直辛かったし、泣いたし、何だったらこんなに勉強ばっかりでもう嫌って思ったし、完璧さだけを求められて“私”という個人が居なくなっても誰も気にも留めないと思ったくらい追い詰められたし」


「うん」


「だけど、婚約破棄されて、その全てから解放されたのに」


「うん」


「無駄だったな……って」


ラティの最後の言葉の重みに、私は相槌を打たなかった。簡単に相槌を打てるものじゃないし、多分ラティも私の相槌など望んでない。ラティが気持ちの整理をするために、吐き出しているのだから。


「無駄になってしまったけど。でも、あの教育は私の糧になった、とも思う。それも分かってる。だけど、活かしたかったとも思う」


「……うん」


「国に民に貴族に王家に申し訳ない気持ちが有るの。でもそれは傲慢なのよ。だって、私は確かに重責から逃げ出したかったし、それ以上に私を認めないバカニルクと結婚なんかしたくなかったんだもの!」


段々と泣き顔から、怒りの顔へと変わっていくラティ。

泣くという悲観的で後ろ向きな考えから、怒りという前向きで未来を見る考えに変わる姿を、私はただ見続けた。

今、ラティは自分の気持ちと必死に折り合いをつけようとしている。無理に折り合いをつけなくても良い。だけど、それをしないと、戻る事も進む事も出来ない。停滞してしまうのだろう。


だから私は見守った。

私達の会話を……いや、ラティの独白を後ろで聞いているお兄ちゃんも、黙って見守っていた。

次話もリノーヴまでの道中です。

ちょっと戦闘が入ります。

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