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悪夢に飲み込まれる・3

ミッツェの過去の続きです。

【剣聖】ギフトは、ミッツェが生まれる以前に2人居た。50年くらい前の頃に1人。130年くらい前の頃に1人。ミッツェは、記録の残っている中で3人目にして、初めての女性だった。それも貴族の娘。通常貴族の子として産まれた場合、長男は跡取り。次男はスペアで、長男に何か有った場合の跡取りだ。長男が無事に跡目を継げば、跡取りの居ない家に婿入りや養子に行く。三男以降も同じで、婿入りか養子だ。

その行き先が無かった場合、ギフトを元に職に就く。


それに対して娘は、長女だろうが須らく嫁入りだ。男子が産まれなかった家で有れば、婿取りをするだけ。貴族の娘が職に就く事は稀で、適齢期を過ぎた女性や、事情があって嫁入りが出来なかった女性に限り、王城の侍女や高位貴族家の侍女、或いは家庭教師になるのである。

大抵の場合、女性に与えられるギフトは【支援】や【芸術】で、【芸術】を与えられた貴族の娘は、結婚した家で優れた美的センスでその邸内を華やかにする。庭園しかり、邸内に飾る花や家具しかり。だから【芸術】ギフト持ちの女性は、結婚相手としてかなり人気だった。


それから考えればミッツェのギフトなど、貴族の令嬢にとって何の役にも立たない。


だからドレイン伯爵にとっては無用の長物。こんな役にも立たないギフト持ちなど、養育費でさえ無駄である。放置して勝手に死んでくれれば一番良いが特殊ギフト持ちだから、厄介だ、というのがドレイン伯爵の率直な気持ちだった。まぁ良い。跡継ぎは既にいる。あんな厄介者など居ないものとすれば良い。王家への報告は、身体の弱い息子としておけば良い。


学園に通わせる程度の勉強はさせる必要が有るが、家庭教師を呼ぶのも金がもったいない。書庫の本でも読ませておけば良いだろう。学園は全貴族家の子女は通う必要があるから仕方ない。服はミハイルのお下がりで十分だ。あんなのに掛ける金など無い。

そんな事を考えながら、ドレイン伯爵は愛人の元へ向かった。愛人に息子を産んでもらい、三男として報告しつつ、実際には次男の扱いにすれば良い。あの化け物は成人したら家から放り出す。


そうしてミッツェは息子として、育てられた。ミハイルも最初は本当に弟だと思っていたが、両親と使用人達の目を掻い潜ってミッツェに会いに行き、共に遊ぶうちに、ある日水を被ったミッツェの着替えを見て、その正体に気付いた。ミハイルは、自分の勘違いを正すために、ミッツェを“妹”として可愛がる事にしたが、それが高じて、成長した今は単なるシスコンへ変わったのは、まぁご愛嬌である。

そんなわけで、ミッツェとラティが出会った時、ラティもミッツェを男の子だと思っていたが、成長していくに従い、ミッツェが女の子だという事に気付いた。


それと同時に、ラティと出会った事によって前世の記憶を思い出したミッツェは、精神年齢が大人びたせいで、両親が自分を愛していなくても気にも留めなくなった。別に両親に愛されずとも、自分を愛してくれる兄とラティの存在に気付けたからである。また、貴族令嬢として生きるより、令息として育てられている現在の方が、かなり楽だという事にも気付いたので、ラティに出会って以降、進んで現状を受け入れた。


そんな事すらもちろん、気付いていないドレイン伯爵。そして、ある事に気付いた。自分が、殺す事はしない。だが、他人に殺されるなら構わない、と。ドレイン伯爵には何の関係も無いのだから。そこに気付いた時、ミッツェが生まれて7年の月日が過ぎていた。

そして、それを躊躇い無く実行するドレイン伯爵。裏家業の人間に情報を流せば、そのギフト欲しさにミッツェの命を狙う者が現れ始めた。


特殊ギフトを殺す者は、自分のギフトを奪われるが、殺した相手のギフトを手に入れる事が出来る。自分のギフトと特殊ギフトを天秤に掛ける者など、そうは居ないだろうが、そうまでしても欲しいと思う者もいる。

ミッツェのギフトが有利になるような者達は、ドレイン伯爵自らの許可を得て、ミッツェを狙う。だが、ミッツェもむざむざとやられたくは無く、そのギフトを活かして返り討ちにした。最初にミッツェを殺しに来た相手の剣を奪い取った瞬間から、ミッツェのギフトは発動した。


ドレイン伯爵は、ミッツェが死んでいない事に歯軋りする日々を送ることになる。


ミッツェは、それすらも納得して受け入れた。とはいえ、それと両親に罵倒されていたり父親が裏で糸を引いて命を狙われる日々の記憶を忘れる事は別である。


「ミッツェ!」


ラティの強い呼びかけで目を開けたミッツェは、漸く悪夢から現実へと戻って来た。

ミッツェの過去はここで終わります。次話は目覚めた後の話か、閑話にするか、まだ迷ってます。

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