悪夢に飲み込まれる・1
少し戦う場面があります。
お兄ちゃんが、焚き火の側で寝ようとしていた。……バカである。獣が来るっていうのにわざわざ獣に喰われそうな事をしないで欲しい。
「でも」
「でもじゃない。交代で見張りをするの。ラティにはお兄ちゃんが作った寝床で寝てもらって、私とお兄ちゃんはここで、交代で見張りをする。仮眠っぽくなるけど、お兄ちゃんが1人でここで寝る方が怖い。分かった?」
「う……分かった」
先ずは、お兄ちゃんが仮眠を取る。半々の時間で交代すれば良い。そう言えば、渋々ながらお兄ちゃんは頷いた。
お兄ちゃんは、【支援】ギフトのおかげで、私達のサポートは完璧だけど、戦う事は出来ない。そっち方面は弱い。私? 私は特殊ギフトのおかげで、余程強い相手じゃなければ大丈夫。大型の犬や日本では見ない狼くらいは、倒せる。とはいえ、せいぜい今の私では5.6匹程度だろう。
集団で来ない事を祈るばかりだ。
ラティが寝ている寝床の前で、ゴロリと横になったお兄ちゃんを眺めながら、眠気覚ましに、剣を振る事にした。私の腕の長さ程度の剣はやや細身に作られていて、手入れは欠かさないから刃こぼれはしていないが、長く愛用しているから、そろそろ買い替えたいとは思う。愛着は有るけど、コレでは、この先過ごして行けるかどうか不明だ。
獣の気配がする。
眠るお兄ちゃんとラティの側には行かせたくない。私は深く静かに長く呼吸をしながら、獣の気配をそのまま窺った。多分、狼が2匹。確実では無いから、油断しないように、こちらから距離を縮めていく。
目測通りに、狼2匹。これなら私に分がある。一気に片を付けよう。
先程、剣を振るために鞘から抜いておいたのが良かった。両手で柄を持ち、ちょっと見え難い獣の気配を感じ取る。
あと3歩の距離に1匹目。もう1匹は、その右背後2歩というところか。腰を低くして、慎重に3歩進めると同時に、上から振り下ろすのでは無く、横から薙ぐように剣を振るった。スムーズに獣に刃が当たった感触がある。
「グルグググ」
低い獣の鳴き声で、もう1匹が飛びかかって来る気配に気付いた。私の頭を狙うような高さに飛びかかって来たから、そのまま剣を頭上に突き刺した。ピチャッという音と、何やら生暖かいものが顔にかかる。拭えばヌルリとした感触でツッと落ちた。
おそらく血だろう。という事は、飛びかかって来た方にも怪我は負わせたようだ。
飛びかかって来た方は、突き刺したから、剣を抜かねばならない。ドサッと重い音がして、地面に落ちた、ようだ。目が慣れて来てよくよく見れば、剣が突き刺さったまま、痙攣している狼がいた。これを引き抜けば、その命は終わるだろう。
先に剣の犠牲になった狼は、まだ息があるのか弱々しいながらも、まだ鳴き声が聞こえる。剣が突き刺さったままの狼から、何の感情も湧かずに剣を引き抜き、弱っている狼にトドメを刺す。どちらの獣も息絶えたようだった。
再び焚き火の近くに戻って来て、お兄ちゃんとラティの方へ視線を送る。どうやら起きた気配は無いようだ。少し疲れたから、私もこのまま寝たい……。いや、ダメだ。私が寝たら見張りの意味が無い。お兄ちゃんとの交代時間まで、何とか気を引き締めて起きていたけれど、もう寝て良い、と脳が命令した瞬間、眠るラティを起こさないように気配を殺しながらも、ラティの隣で夢の世界に旅立った。
明日、次話を投稿しますが、次話は眠るミッツェの夢という名の過去の記憶です。(転生後、ミッツェとして生を受けてからの回想シーンです)




