閑話・俺の妹分も可愛い。〜ミハイル視点〜
家出に関して気になること。
「そういえば、お兄ちゃん」
グハッ。今、特大の矢が心臓に刺さった。妹分が可愛い。何この子。ミッツェだけじゃなくてラティまでお兄ちゃん呼び? 俺はもう死んでも悔いは無い! ……いやいやいや。残るな、悔い。2人を見守る必要がある。ラティは従兄妹だから、俺とミッツェと顔が似てる。……そうか! 似てるならお兄ちゃんと呼ばれても、おかしくないのか! 誰にも不審がられずに、ラティからお兄ちゃんと呼ばれる! 何それ、どんなご褒美だ!
「な、なんだ? 妹よ」
妹! 俺、ラティを妹と呼んだよ? 誰も文句を言わないよね⁉︎
「お兄ちゃん、伯爵家を捨てて来て良かったの?」
その話か。俺はちょっと離れたところで火の燃え方を見ているミッツェに視線を送る。良かった。ラティの声は聞こえていないみたいだ。夕飯の支度をしながら、ラティをチラリと見て、俺は少し声を潜めた。
「ミッツェは知らないんだが。俺達の両親は、ミッツェが特殊ギフト持ちだという事を忌み嫌っていただろう?」
「うん」
うん。だって! 皆さん、見ましたか? うちのラティが「うん」って可愛くないですか? はっ。いけない。取り乱してしまった。話を戻そう。
「父上はその怒りを母上にぶつけた。まぁあの2人にはそれぞれに恋人がいる。離婚しないだけで。これ幸いと母上は別居して、父上は恋人に子を産ませていた。その子が、男でね。俺みたいに【支援】ギフトでは無かったけれど。【学者】ギフトだったからさ。文官にさせられるって大喜びで、その恋人と息子を伯爵家へ連れて来たよ。俺だけ会わせられた。ミッツェは居ないものとして扱われているからな。貴族の義務を果たせないから、今まで両親からもらっていた小遣いを全額とは言わないけど、置いて来た。あの異母弟がドレイン伯爵家を継ぐさ」
「……そっか。私も貴族令嬢としての義務を果たせないから、同じようにお小遣いを置いて来たよ。全額じゃないけど」
「おう。……多分、ミッツェも髪の毛を置いて来たんだろうな。ミッツェは小遣いも貰えて無かったから、切った髪ともう帰らないって置き手紙でもしたんだろ。明日の朝に使用人が見つけるさ」
「私もそう思う。ガサルク公爵家もお父様の息子が居るから私が居なくなっても問題無いだろうし」
「公爵は、俺達の父親と違って、ラティの事を探すと思うけどな。解ってるんだろ? 愛されていたこと」
「うん。お母様は私に興味が無かったけれど、お父様はきちんと愛してくれていた、と思う」
「うん。俺の目から見ても、そうだった。ちょっと不器用な人だけどな。俺達の両親とは全く違うさ。……ミッツェに対する態度は、俺は一生許さない」
「……私も。ミッツェルカなんて、男性の、しかもドレイン伯爵家に迷惑しかかけなかった一族の人の名前を付ける、その神経を疑う」
「俺はね。ラティ。ミッツェの名前を変えたいんだ」
「それって……」
ずっと途切れる事なく続いた会話が、ラティの驚いた表情で途切れた。俺は、ニコッと笑って「夕飯にしようか」と話題を変えた。焚き火の側で肉を焼きながらミッツェとラティと3人で夕飯を食べる。
ラティの物言いたげな視線に気付かないフリをして、俺は夜空を見上げた。
名前変更は、ミハイルの考えていた事で、ミッツェは名前に拘りは無いです。変更するかどうかは、ミッツェ次第。拘っていないからこそ、ミッツェルカの名前でも構わないのがミッツェです。
そして、ミハイルはミッツェに続いてラティにも“お兄ちゃん”と呼ばれて、俺の2人の妹、可愛すぎる! と身悶えします。
尚、ミハイルは簡易テントにラティとミッツェを押し込めて、自分は焚き火近くで寝ようとして、ミッツェに怒られる、という裏話が有ります。




