今更ながら兄の優秀さを知る。
ミハイル活躍編。
「じゃあ、行こうか」
悲愴な面持ちの兄上を放って、私はラティに手を差し伸べる。ラティが「うん」と頷いて手を取った。ヤダ! 可愛い! ラティが可愛い。やっぱこの娘天使よ!
脳内で叫び、奇声を上げないよう唇を噛んでやり過ごしている私の後ろから、兄上の声が聞こえて来た。
「ミッツェ。ラティ。兄様を置いて行かないで」
何故か悲しそうな声音だ。
「……兄様じゃなくて、お兄ちゃんって呼んでいい?」
ふと、私は気付いた。兄様って貴族っぽい呼び方じゃない? と。そんなわけで提案したら、兄上改めお兄ちゃんは、上下に首を高速で動かし、満面の笑みを浮かべて、ライネルヴァ王国を出るために、通行許可証を出した。……えっ、そんな便利な物、いつの間に準備したの。しかもそれ、旅人専用通行許可証っ⁉︎
他国では冒険者と呼ばれる職業や、商人や、旅人が持っている、どこの国でもフリーパスなヤツ! 身分証明書も兼ねているそれは、1人1枚有れば、どこでも行きたい放題の前世で言うパスポート的な存在!
知っていたけど、さすが【支援】ギフト持ちのお兄ちゃん……。優秀です。
残念な兄とか思っていてごめんね。今度からはきちんとお兄ちゃんを尊敬するよ。
そんなわけで、特に何の問題も無く、私達3人はライネルヴァ王国を出ました。ホント何も無かったよ。一応、公爵令嬢に、伯爵令息と伯爵令嬢だよ? しかも、ラティは、あのバカに惚れられていたバカの婚約者だよ? 良くあのバカの邪魔が無かったなぁ……。とりあえず、国外に出たからと言って、油断しているわけにはいかないので、少しでも遠くに行こう、と歩き出す。
日が落ちる手前で、野宿をする事にしたけれど、ここでもお兄ちゃんの優秀さを見せ付けられた。
防水加工がされている厚手の布を太い樹木と樹木の間に紐を通して、その上に被せてあっという間に簡易のテントを作った。器用だね。前世の記憶がある私でも、そんな簡単にテント擬きは作れないよ。
しかも、ちょっと奥の方へ行ったと思ったら、枯れ枝拾って来て、焚き火を作った。ああ、うん。焚き火って大事だよね。でも獣が来るよ? という事で、お兄ちゃんには悪いけれど、簡易テント擬きから少し離れた位置に焚き火を作るようにお願いした。直ぐ側に焚き火が有ったら、不意を突かれちゃうからね。
私がそう言ったら、お兄ちゃんは「ミッツェは頭が良いんだな! 妹が可愛くて頭が良いなんて、最強だな!」と笑顔になった。うん、まぁ貴方の妹は、割と強いよ。ギフトのおかげで。
そんな事を思いつつ、焚き火の火加減を見ていたら、お兄ちゃんは夕飯の支度を始めていた。ちなみに、ラティも何かしたい、と言うので、お兄ちゃんの手伝いをしてもらうように言う。お兄ちゃんは、そのギフトのおかげで、家事全般が得意だ。……お兄ちゃんが居なくても食料は有ったけれど、お兄ちゃんのおかげで豊かな食生活を送れそうだ。マジ重宝。
私? 作れないわけじゃないと思うよ。やった事が無いから分からないけど。何となく朧気に前世では、カレーやうどんなんかを作った記憶が有るし。ラティは、全くの未経験。普通貴族のご令嬢って、家事全般の経験が無いからね。お茶ですら淹れた事が無いのが貴族令嬢だね。
えっ? それを言ったら貴族令息のお兄ちゃんが家事全般得意な事は、可笑しい? まぁそうだねぇ。でも【支援】ギフトをもらっているお兄ちゃんは、興味ある事は何でも直ぐに出来る人なんだよ。但し、誰かを補佐するためだけに、そのギフトの能力は発動するけど。
だからさ。多分、お兄ちゃんは私とラティのお世話をしたいから、ギフトが発動したんじゃないのかな。それ故に家事全般が得意なんだと思うよ。
おおっと。のんびりとしていたら、お兄ちゃんが夕飯だ、と呼んでいる。温かいうちにご飯は食べるに限るよね。
なんだかんだ言いつつ、やっぱりミッツェは、お兄ちゃん大好きです。




