それは、そう、確かに。
ラティとの落ち合う場所には、未だラティは来ていなかった。私の方が準備が早かったのだろうか。いや、それにしても、そういう事を差し引いて、落ち合う場所はラティの公爵家から近い場所にしたのだが。……平民に見える格好で、と言ってある。どんな服装なのかも買ってあるから分からないなんて、無いと思うんだけどな。
「ミッツェ」
ラティに呼びかけられて振り返る。うん、似合うなこういう服も。ドレスじゃなくてワンピース。それもシンプルな型のグレー。長めの袖で、色白が隠れ、キャスケットを被って髪をその中に隠しているから、髪の色も分からない。ついでに少々大きめサイズで顔も隠れるから、仮に誰かが探しに来ても分からないだろう。
私? 私はいつも通り、白シャツにパンツスタイルだ。胸はささやかだが、一応サラシを巻いて隠している。……サラシを巻かなくても平気だ、と、どこかから声が聞こえて来そうだが、私にもプライドくらいある! 断固として巻くぞ! それから髪は切って来た。もう“令嬢”では無くなるから、髪など惜しくない。ここまで変われば、私だと分かる者は、そう居ない。
「ねぇ、黙ってるけど、どこか変?」
「可愛い」
「は?」
「ヤダ、可愛い。ラティが可愛すぎて死ぬ。ラティってば何を着ても似合う。こんなにシンプルなワンピースが似合うのは、ラティの他に居ない!」
ラティがみるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。ヤダ、ホント可愛い。ちょっと誰か、デジカメをっ!
「ありがと!」
真っ赤になりながらヤケになってのお礼、頂きましたー! この娘、やりおる。ツンデレ属性も有ったのかー! よし、もう死のう。ありがとう。私のドルオタ魂に、悔いなし!
「み、みつ……けた」
ハァハァと息が上がっている声が聞こえて、私の思考は即座に変態が現れた、と冷静になった。……違った。ミハイル兄上だった。ハァハァ言ってるから、このラティの可愛さに我を失ったどこぞの変態かと思った。
「なんだ、兄上か。なんでそんなに息が切れてんの?」
私が冷たい視線を向けると、兄上が顔を上げた。そして、悲愴な面持ちになった。
「なんで、ミッツェ、髪が短いの⁉︎」
「なんでって、もう自由にして良いじゃん。ってことは、令嬢に戻らないんだから良いでしょ」
「それは、そう、確かに、その通り、なんだけどっ! 俺の可愛いミッツェの髪がぁあああ。これからは毎朝、ミッツェの髪を梳かせると思って、櫛を用意しておいたのにぃいいい」
叫ばないだけ、兄上に未だ理性が有る事を褒めるべきか、そんな事を妄想していたのか、と引くべきか。どっちだろう、と遠い目になってしまった。
この兄にして、この妹アリ。
と言うべきか。
この妹だから、この兄なのか。
と言うべきか。
まぁ、要するに似た者兄妹です。
但し、ミッツェの場合は、ラティ推しだから、ラティにしか、こういう思考に。
ミハイルの場合は、妹と妹分への愛情表現過多だから、2人にしか、こういう思考に。
……やはり似た者兄妹です。
そして、妹バカで妹分バカなミハイル君は、ミッツェの思考パターンから、おそらくこの辺だろう、という勘で落ち合い場所に走って来ました。追いつくために。




