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vsギルドマスター・1

 マンザスは冒険者時代、斧を使って戦うスタイルだった。双斧の異名を持つくらい有名で、ギルドマスターになってからは斧は持たなくなったが、その頃の逞しい両の二の腕は今も健在だ。新人冒険者や下級ランクの冒険者相手ならば、素手でも勝てる。

 中級と上級ランク相手は両手に斧はさすがに無いが、利き腕である右手に斧を持って相手をする。相手が武器を持ってないのなら肉弾戦で相手をするが、大抵は武器を持っているため、マンザスが素手では怪我をしてしまう。

 そして、マンザスはクランとミッツェルカと手合わせをするために、現役時代に使用していた斧を右手に持って来た。


「へー。ギルドマスターがアレを出してくるってことは、やっぱり強いんだな、あの二人」


 ハントがオーリーの隣で呟く。観戦場に待機している二人と、ミハイル・ニルク・ラティーナ。ミハイルがハントの呟きを拾って問う。


「どういうことですか」


「ギルドマスターの現役時代使用していた斧を持って、手合わせするっていうのは中級以上の冒険者じゃないと有り得ないから。新人や下級だと素手で相手するよ」


 ハントがあっさりと答える。

 少し前に冒険者になったはずで、最下級から一つ上のランクアップ試験を受けただけの冒険者のはずなのに、マンザスがあの斧を出してきた、というのなら、とハントは続ける。

 オーリーの見立ては間違ってない、ということ。

 まぁ、自分も納得出来るともハントは言った。


「怪我しちゃうかなぁ」


 ラティーナが困惑したように言って、ニルクがメモしている。そんなニルクのことを放置して、ミハイルがラティーナに安心するように声をかけた。


「怪我しないように手加減するから」


「それもそうか」


 二人の会話を聞いたオーリーとハントは、クランとミッツェルカが怪我をしないか心配したのだろう、と微笑ましく思ったが、一拍置いて、何かおかしいことに気づいた。

 ハントはその違和感に気づけないが、オーリーは見抜いて、ミハイルとラティーナを信じられない、という表情で見る。


「今の会話だと、ギルドマスターが、二人に対して怪我をしないよう手加減するから、ではなく、二人がギルドマスターに対して怪我をしないように手加減するから、と言っているように聞こえたのだが」


 普段無口なオーリーが、よく喋るなぁ……と思ったハントも、その指摘された内容に愕然としてミハイルとラティーナを見た。


 そう。

 ミハイルは「怪我しないように手加減するから」と言ったのだ。あの二人が怪我をしないか心配しているのなら、ミハイルは「(ギルドマスターは二人が)怪我しないように手加減してくれるから」と言うはず。

 決して「(二人はギルドマスターが)怪我しないように手加減するから」ではない。


「えっ、だって、可愛い可愛い妹は強いですよ」


 オーリーの質問に、何を当たり前のことを言っているのか、と不思議そうな顔でミハイルは答える。

 ミッツェルカがマンザスに勝てる、或いは有利に立てると思っていないと出来ない発言だ。


「君は、冷静に状況判断が出来るリーダーのはず。個人個人の能力も把握している、良いリーダーのはず。それなのに妹に対してはそんな贔屓目で見てしまうのか」


 オーリーは、ミハイルの発言に尚も信じられない、と困惑する。

 いや、だが。思い直す。

 あの狼の群れを探し当てた能力や、仕留めた腕前から考えると、マンザスに勝てなくても有利に立てるかもしれない。

 マンザスも中級以上の腕前だと思ったからこそ、斧を出してきたわけだし。


「いや、そうだな。君たちがそう思うのも分かる。あの狼の群れを仕留めた腕前や、ギルドマスターが斧を出して手合わせをするつもりであるのだから、そう考えてもおかしくないな」


 オーリーは自分の発言を自分で否定した。


「そうでしょう? 私の相棒は強いんですよ」


 オーリーが納得したようだ、と分かったラティーナが、フフンと得意げに胸を張ってミッツェルカのことを自慢した。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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