次なるランクアップ達成は手合わせ・4
「ねぇ、クラン、一応手合わせなんだけど」
コソッと耳打ちしてみたが、クランは暗殺者の雰囲気を消さない。ミッツェルカは、わぁ面倒、と天を仰ぐ。
「おぅ、この俺に殺気を向けてくるとはいい根性だ。その意気を買ってやろうか」
当然ながらギルドマスターのマンザスはクランの殺気に気づきニヤニヤしている。いや、煽ってる。クランは暗殺者というより戦闘狂なんじゃないの、とミッツェルカは思う。強敵にあったら好戦的になるって暗殺者っぽく無いんだけど。
クランは素早くダガーナイフを手にした。
その素早さは流石である。おそらく、戦闘要員ではないミハイル・ニルク・ラティーナは視認出来ず、いつの間にかナイフを持ってた、と思っていることだろう。ミッツェルカは見えてたが、懐から出してたけど暗器は袖に隠してるのか、と頬が引き攣る。ダガーナイフ出すときに、チラリと前世日本人のミッツェルカからすると忍者の持つクナイみたいな武器が袖の中にあるのが見えた。
それ、仕込んだまま手合わせするの? って気持ちだ。突っ込むのが面倒だったので見て見ぬふり。
「大丈夫。こっちは使わないから」
ミッツェルカが暗器に気づいたことに気づいたクランが、そう言う。まぁそう言うのならそれを信じておこう。
「おっ、そういえばもう一人居たな。戦闘要員。そっちのお嬢さんだろう。背中の獲物は飾りかい」
このギルドマスターは、もしや冒険者を煽って闘争心を剥き出しにさせて手合わせさせるタイプなんだろうか、とミッツェルカは考える。まぁこんな程度で乗せられることは無いが、もし、ミッツェルカの考える通りに闘争心を引き摺り出すのが目的なら、わざと乗ってあげる方がいいか、とも考えた。
まぁ、手合わせはミッツェルカもしなくちゃならないし。
「ギルドマスターさん、二人同時でも構いませんか」
ミッツェルカはのんびりと声をかける。おう、と力強い返事をもらったので、それじゃ、と自分の背よりやや短いだけの剣の柄を掴んだ。
もちろん、ギフト・剣聖のスイッチオンってやつである。というか、剣聖のギフトを使わずに、剣は振るえないので当たり前だが。
ギルドマスター・マンザスは、剣に手をかけた少女が途端に闘志を剥き出しにしてきたことに、久々に背中がゾクゾクした。
オーリーからランクアップ希望の冒険者パーティーの判定をしたけれど、更にランクアップさせたい、と相談を受けたときに話を聞いたが。
男も良い腕だが、少女の剣を持つ姿は冒険者としてというよりは、戦時の際に出てきそうな剣士として、という雰囲気があるから、もし、何かがあったら彼女は戦場にて前線に立たせる方が良い、と言っていて。
雰囲気は良いところのお嬢さん、おそらく貴族出身と聞いていただけに、オーリーの話を話半分でしか聞いていなかったのだが。
これは確かに、戦場ならば最前線に立たせるべき人物だ、とワクワクした。
戦争になって欲しいわけじゃない。
平和なのが一番だ。
とはいえ、何があるか分からないことも確か。
一たび何かあれば、この目の前の少女を最前線に立たせるだけで士気は上がる。
そう、確信出来るほどに剣を手にした少女は、剣士の言葉がピッタリだった。
正直なところ、手合わせをしなくても、少女も男の方も腕が立つことは理解出来たし、ランクアップさせても大丈夫だ、とギルドマスターとしては判断出来るが、一介の冒険者だった頃の血が騒いで、手合わせしない、という選択は出来なかった。
尚、オーリーは分かっていたことだが、もう一人の見届け人であるハントは、クランの実力は何となく気づいていたが、ミッツェルカの実力は全く読めておらず、精々クランの補助的な存在だとばかり思っていたので、ミッツェルカの剣を持った姿に、魅せられ、やはりワクワクした気持ちを抑えられなかったのは、余談である。
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