次なるランクアップ達成は手合わせ・2
「それじゃ、どちらが相手になるか、というのは分かるものですか」
ハントの黒歴史を聞き流したミハイルは質問に戻る。
「いや、分からない。ギルドマスターが気になったから、という理由でギルドマスターが相手のこともあれば、単にギルドマスターの都合が付かなくてサブギルドマスターということもあるし、時には二人が暇だからって理由で二人が相手のこともあるし。明日手合わせって言い出すこともあるし、一週間くらい二人の都合が付かなくて試験出来ないこともある。だから先ずはその薬草を採取してきたことを報告して、あとは受付嬢に聞いた方がいい」
なるほど。
というか、暇つぶしのために二人がかりで手合わせをした冒険者は大変だっただろうな、とミハイルは見知らぬ冒険者に同情した。
そんなわけで、ギルドに戻り受付嬢にランクアップ試験として出された課題、薬草採集の対象である薬草を提出する。
「確かにこれが課題の対象の薬草ですし、量もクリアしていますが、どこで採集してきたのですか? あの岩場では無いでしょう? 別の採集場所があったのですか?」
目を丸くして、矢継ぎ早に受付嬢がやや興奮したように問い詰めて来るので、ミハイルはちょっとドン引きする。
「はいはい、落ち着いて落ち着いて」
そんな受付嬢とミハイルの温度差を直に感じ取っていたハントは、受付嬢に落ち着くように両手で彼女を押し留めるような仕草をする。
受付嬢はそれを見て、自分が興奮していたことに気づいたように咳払いをして落ち着く。
「いやぁ、嬢が興奮するのは分かるんだけども、あの岩場から採取してるんだなぁ。あの岩場で採取するのに日帰りなんて、今までの下級ランク冒険者には出来ないことだったけど、このパーティーはそれが出来る人材がいたんだよ。あの岩場で日帰りが出来るのは、中級ランク以上だったからね。下級ランク冒険者だし、どうも話を聞くとほぼ新人みたいだけど、侮るなかれ、というパーティーだ」
ハントが報告すると、受付嬢が口を大きく開けた。
相当驚いているらしい。
「驚くのは分かる分かる。でも、どうも今までソロで冒険者やってたヤツが居るんだけど、ソイツが採取してきたよ」
ハントがそこまで言えば、受付嬢がなるほど、と頷く。ギルドカードには登録した年が記されているので、長く冒険者をやっている人がパーティーに居るのなら、そういうこともあるな、ということだ。
ハントがランクアップ試験の合否を判断する立場に居たので、嘘の報告を受けることは出来ないし、ハントが実際に見ているのだから疑いようもない。
「その人はリーダーのあなた?」
尋ねられたミハイルは首を振る。
おそらく経験者がリーダーのことが多いからだろうが、性格的なものを鑑みると、クランがリーダーは向いていない。
そんなことは知らない受付嬢がそのように思うのも当たり前だろうが、ミハイルは正直に否定した。ついでにクランを指差し、採取したのは彼です、と報告する。ハントも頷いたので受付嬢は、分かりました、と頷いた。
このやり取りで、ミハイルは、あの岩場での薬草採集がこんなに早く終わるなんて受付嬢は思ってもみなかったのだろうな、と理解した。同時に、こういうところがオーリーの言うところの早く高ランク冒険者を目指せ、という話に結びつくのか、と実感した。
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