更なるランクアップ・6
「地図を見ると、あっちかな」
ミッツェルカが指差す方へ一行は歩き出す。のんびり穏やかというよりは、警戒心を忘れずキビキビとした動き。更なるランクアップのために高揚していることが動きに出ている。
「この分かれ目はそっちだね」
クランが地図を見て右を指差す。ミハイルはリーダーだからといって、道案内を頼んでいるのに先頭に立つことはしない。間違うくらいなら任せた方がいい。
「君がリーダーなのに、任せっきりでいいの。引っ張っていく立場では?」
ハントがニヤニヤと笑いながらミハイルに声を掛ける。ミハイルは首を傾げた。
「リーダーではあるけれど、土地勘の無い場所で地図の見方も怪しい自分が先頭に立ち、間違った方を進んで迷う方が時間のロス。迷って戻れる範囲ならまだしも戻れなくてメンバーを危険に晒すのは、リーダーの素質がどうこう以前の問題ではないか、と」
それならばリーダーの面子に拘る必要などない、とばかりの言い方にハントは頷く。
オーリーから、冒険者に成り立てだがランクはもっと上を狙えそうだ、という報告をギルドにしているのを聞いて、興味が惹かれた。
ハントよりランクは下とはいえ、口数は少ないが実力のあるオーリーを、ハントは認めている。何しろハントが冒険者を始めた頃、尋ねれば答えてくれる良い先輩冒険者だったので。自分が彼を追い抜いた時は、ちょっとだけ申し訳ない、と思ったくらいだ。
そのオーリーが珍しく新人冒険者のパーティーを褒めているのを聞いて、それもオーリーの方が熱心に進めて、更なるランクアップをするパーティーを見たい、と思っていた。
だからその判定を下す審判役を買って出た。
特にリーダーを褒めていたオーリーを思い出すと、どうしても自分の目で確かめたくて、ミハイルを煽るようなことを口にしたのだが、煽り耐性が身についているのか、鈍い性格なのか、全く動じずにそんな答えをしてきた。
なるほど。オーリーが好みそうなタイプだ、とハントは理解した。
「確かにそうだ。君の言うとおりだね。そういう冷静な判断が出来る人間がリーダーに向いているから、君がリーダーであることは間違いないね。ところで、オーリーさんの報告だと、戦闘要員は二人で三人が支援員みたいだけど、あの二人が戦闘要員?」
ハントの問いかけに、ミハイルはあっさりと頷く。クランとミッツェルカが戦闘要員というか、獣討伐で活躍した二人だ、と。実際に何かあった時に戦うのはあの二人。
「ほー。あのお嬢さん、そんなに強いんだ。まぁあの外見なのに背負った獲物は確かにゴツくて、扱えるのか心配になりそうだけど」
ミッツェルカが背負う剣。ミッツェルカの身長だと剣を佩くのは少々足りないから危険度を考えて、背負っている。その大きさから、ミッツェルカのような可憐なお嬢さんが扱えるのか疑問だとハントが言う。
まぁそう思うのも無理はないのも確かだ。だが、ハントは筋力がありそうなことも理解出来た。見た目で下に見ていると、痛い目に遭うようなタイプだ。
「大丈夫。世界一可愛い妹は、可愛いし、とても強いので」
可愛いのと強さは全く比例しないのに、ミハイルは可愛くて強いから問題無い、と言い切った。
ちなみにラティーナは聞いていて、どこまでもシスコンなミハイルの通常運転って第三者視点で聞いていると、かなりドン引きなんだなぁと他人事の感想を抱いた。
後ろでそんな会話をしているのを流し聞いていたミッツェルカとクランは、サクサク歩いて、目的地付近にまで皆を案内してきた。
「見えてきたよ。ほら、大きな岩」
絵で見るより実際に見た方が実感するのは当然だけども、本当に岩が見えて、かなりの大きさに報告したミッツェルカ自身がちょっと驚いた。
尚、クランの予想通り、ミッツェルカとラティーナの足でおよそ三時間の道のり。いや、三時間より二十分ほど短いから三時間弱の道のりだった。
試験後は疲れて、もう少し時間がかかる、かもしれないが。
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