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更なるランクアップ・5

「なんであんな怪しげな露天商の言葉に乗せられて、そんな怪しげな物を買ったの」


 ラティーナが不審そうな目でミッツェルカを見る。


「勘」


「勘って」


「このマジックアイテム、本物だよ。呼ばれた気がした」


 まさか。

 そんな目で見るラティーナに不敵に笑うミッツェルカ。ミハイルとクランとニルクで抱えている荷物を、収納バッグに入れてみる。


「えっ、嘘、全然膨らまないのに買った物が入って行くんだけど。ロープとか手袋とか、まだ膨らまないのは分かるけど、靴も服も入れているのに、バッグに膨らみが無い。買った時と同じなんだけど」


 ラティーナが目を丸くする。

 バッグからこぼれ落ちているということもない。

 見事にバッグの中。


「えっ、取り出せるの?」


「大丈夫だと思う。試しにロープを思い浮かべて手を入れてみたら」


 ラティーナの疑問に、ミッツェルカが答えるので、ロープを思い浮かべて手をバッグの中に入れる。何かに触れて掴んだ。取り出したら、ロープ。


「えっ、本当に本物?」


 嘘、と呟くラティーナ。露天商に視線を向けてさらに驚く。そこに先程まで居たはずの露天商が居ない。姿形が見えない。


「えっ、露天商は」


「ふぅん。私も消えた気配が分からなかった。ということは、あの露天商、ソルリアの魔術師なのかもね」


 ラティーナが目を瞠る。ミッツェルカも面白くない様子で鼻を鳴らして、でも、手元に残ったマジックアイテムは気に入ったようにご満悦。


「妹が天使なだけじゃなく、買い物上手だった!」


 ミハイルは安定のシスコンを発揮しているが、ニルクもそしてクランでさえも、言葉を失っていた。

 そんな男たちは放置して、買い忘れが無いか確認して宿に戻る。それからさっさと支度をして早めに就寝することに。体力温存しておく方がいいことが分かっているのに夜更かしをするなんて阿呆なことは出来なかったので。


 そうして翌日早朝。

 ギルド前で高ランク冒険者と落ち合った。


「よろしく。おっ、可愛い女の子が二人もいる。いいねぇ。女の子がいるだけで華やかになるよね! 俺もこのパーティーに入れてもらおっかなぁ」


 オーリーよりランクが上だという彼は、真っ赤な髪に茶色い目をしたハントと名乗った。そのチャラい性格は、ニルクがむくれて。ミハイルが警戒心マックスで。クランが鼻で笑って。ラティーナとミッツェルカは完全に無視して、挨拶だけに止めた。


 高ランク冒険者なら、チャラい性格に惑わされるときっと痛い目に遭うだろう、という女性二人の冷静な判断である。

 女性二人に冷静な対応をされたハントは、その後、ニカッと悪気ないような笑みを浮かべたくせに、一瞬、こちらを値踏みするような視線を向けてきたことを、五人はきちんと気づいた。

 クラン以外は元王子と元貴族だ。値踏みするような視線を向けられることは良く経験していたし、クランは暗殺者として培ってきた経験則から気づいていたので、やはり高ランク冒険者、気が抜けない、と理解した。


「ハントさん、今回の依頼場所は知らない場所なので道案内をお願いすることは可能ですか。それとも、もらった地図を見て、自分たちで辿り着くこともランクアップ試験のうちですか」


 ミハイルが尋ねると、ハントは自力で辿り着くのもランクアップ試験のうち、と答える。


「正確に言えば、試験そのものには関係ないけれど、判定の補助にはなる」


 ハントは、自分のチャラい性格に惑わされなかった女性二人に敬意を払い、その上できちんと自分を敬うように尋ねてくるミハイルに、真摯に返答した。

 それならば、と自分たちで地図を見て岩場の方へ足を向けることにする。

 こういうときは、リーダーの自分よりも冒険者歴の長いクランや勘の良いミッツェルカを頼る方がいいだろう、とミハイルはあっさりと二人を頼んだ。


「お兄ちゃんに頼まれたら断れない」


「まぁ、素直に頭下げられたら断れないからね」


 ミッツェルカは快諾するし、クランもなんだかんだで、ミハイルを気に入っているので頷いた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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