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更なるランクアップ・2

 ゴクリ、と唾を飲み込む音が自身の耳に聞こえてくる程に緊張するミハイルに対し。


「えっ、いやぁ、別にどうでもいいかなぁ」


 ミッツェルカは拍子抜けするほどあっさりと気にしてない、と口にする。本当に心底名前などどうでもいい、という雰囲気で。


「だが、その名は我が家の恥とも言える男の名だし」


 こうもあっさりと、どうでもいいと言われるとミハイルの方が本当に良いのか、と焦る。言い募れば、ミッツェルカは首を傾げた。


「あの家のことを捨てた時点で、伯爵家の人間って自覚もポイって捨てたし。自分は平民って思っているから家の恥だった男とか知らんし。ミッツェルカじゃなくてルカって呼ばれた時点で、私はルカ。それでいいじゃん。って思っているし。ミッツェルカでもいいんだよ別に。一応名ばかりの父親が名付けた意味は、それこそあの伯爵家の恥だった男の名前を付けて、私を貶めたつもりだったんだろうけどさ。その名前を付けられた私は、その名前通り貶められても良い存在ではないし、あの家じゃ、そんな扱いされていても、お兄ちゃんはそんな扱いしなかった。そんで、今は誰も貶めてくることは無い。つまり、その程度なんだよ。あの家に関わる人たちだけが、貶めたつもりってだけ。名前の由来を知らない人は、私の名前を呼んでも貶めていることにならないんだよ。だから本当に、どうでもいいし、お兄ちゃんとラティーナが私の家族で、二人が私の名前を呼んでくれるから、嫌いじゃないし」


 淡々と口にするミッツェルカ。

 名前に関する自分の気持ちを長く語るのは、自分を案じる兄のため、とばかりに、気にしてないと真摯に言葉に込めた。


「えっ、妹が天使だった!」


 ミッツェルカの話にミハイルが壊れた。

 いや、何を言っている兄よ。人外になったつもりは無いのだが。……いや、定期的に人外にされてたな。

 ミッツェルカはまたもや可笑しなことを言い出した兄からソッと目を逸らした。ラティーナがミッツェルカの気持ちに感動していたのに、ミハイルがまたもそんなことを言い出して、苦笑いを浮かべつつ、ミッツェルカ同様に視線を逸らす。

 ニルクはそんなラティーナから当然のように視線を逸らさず、というか一心不乱に見続けていてある意味怖い。

 クランがため息を吐いて、話を戻すことにした。


「お嬢の気持ちを理解したところで、お嬢のお兄様、話を戻すけど。更にランクアップするんだよね。二つ上だっけ。となると中級ランクだね。その一つ上だともう高ランクに入ってくるわけだけど。あ、ちなみに俺のランクってその中級ランクなんだよね。そこからランクアップする気が無かったから、適当に手を抜いているわけだけど。このパーティーは、高ランクまで手を伸ばす感じでいいのかな」


 クランの真面目な話にミハイルは、ハッと我に返り頷いた。


「最終的には高ランクに食い込めればいい、と思っているよ。そこまで来れば、どこの国に行ってもあまり手出しされないから」


 高ランク冒険者が国にいれば、その国に箔が付く。おまけに他国の交渉ごとにおいて有利な条件を付けられる。

 それは一応伯爵家の跡取りとして教育されていたミハイルの知識。貴族の中では、冒険者という職業は差別的なものというか、嘲笑に価するようなものという考え方ではあるが、それが高ランクであることが分かった途端に掌を返すようになる。

 というのも、高ランク冒険者は、それだけ危険な獣討伐も難なくこなすと言われているからだ。

 ミハイルも本当のところは知らないが、国によっては狼みたいな獣どころか、異形の獣……魔力を体内に溜め込んで異形化した魔獣なる獣もいるらしく、高ランク冒険者ではないと、その魔獣は斃せない、という。

 その他にも国どころか大陸を跨いだ商いをする商人たちの護衛を務められるのも、高ランク冒険者のみだとかで、国同士で貸し出しもあるのだとか。それゆえに国に高ランク冒険者がいることは、それだけでその国に箔が付くという。

 だから、高ランク冒険者だと分かれば、下手な手出しはされないので、ミハイルはそこを目指したかった。


「まぁ手出しはされないけど、囲い込もうとはしてくるよね、どこの国でも」


 クランの発言は、つまりミハイルの話の補強と言えた。


「それは蹴散らせばいいだけ」


 ミッツェルカが肩を竦める。囲われる気など毛頭無いので、その辺りの心配はしていなかった。クランもまぁそうだね、とミッツェルカの発言に同意する。

 そんなわけで、どうせ更なるランクアップを目指すのなら、高ランク冒険者パーティーを目指すことに決まった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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