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宝物になる日  作者: momo
本編
59/96

二人の王太子



 カイザーから語られた真実は、傷付き荒んでいたキアラの心を癒してくれた。

 恋した人の裏切りは辛かった。しかし本心はキアラを想ってのことであると聞かされ、突き刺さっていた杭が抜けたような感覚になり、心が晴れたのだ。新しい人が心にいるというのも大きな後ろ盾になってくれている。種族も生きる時間も異なる相手だが、叶わない可能性が大きいと分かっている分、苦しくてどうしようもない状態に陥ることもなかった。


 また今回の事件についてはラシードから説明を受けた。

 キアラの誘拐にアデリナは関わっておらず、ミアの独断であったらしい。

 魔力なしをカラガンダのものにするというよりも、アデリナのキアラに対する心遣いを無下にさせないための強硬だ。ミアとの会話でキアラも予想はしていたが、ミアはアデリナに心酔しており、カラガンダの騎士オレムも同じであった。

 キアラはオレムという名の騎士を知らないが、ミアに意識を失わされた後、キアラを袋に詰め荷物として城の外に出し、廃業した宿に運んだのは彼だ。

 本来なら早々に都から出る予定だったらしいが、薬の効き目が想像よりもはるかに強かったため、動かすのは命に危険が及ぶとオレムが判断し、念のために手配していた宿に監禁したのだが、そのあと直ぐに検問や監視が厳しくなって動きが取れなくなった。

 お陰でキアラは無事に戻ることができたわけである。


 意識を取り戻してカイザーと話をしたキアラは、薬を飲んでたくさん食べて、衰えた筋肉を取り戻すために歩く練習をした。

 付き合ってくれるのはセオドリクだ。

 明るい彼は笑顔でキアラを励まし、時々ミアやキアラの誘拐に関わったオレムという騎士の文句を言いながら、手取り足取り、まるで恋人同士のような距離で時間を過ごす。

 けれど期待はしないし望んだりもしない。カイザーにも言われたが、生きる時間が異なるもの同士であることがキアラを踏みとどまらせてくれていた。


 そんな日が十日も続くと、こけた頬も膨らみを取り戻し、一人でも普通に動けるようになって、誘拐される前よりも元気になっているようにすら感じてしまう。手足の傷も疼きはするがかさぶたになり、膿が出ることはなくなっていた。

 魔法による回復が見込めないため、大事を取って騎士団の医務室で寝起きをしていたが、体力を取り戻したこともあり自室に戻る。

 久し振りに自分の寝台に横になって眠ってたが、扉を叩く音に目を覚まして眠い目を擦った。


「キアラ、すまないが起きてくれ」


 しっかりとした呼び声はロルフのものだ。キアラは乱れた髪を手櫛で整えながらショールを羽織って扉を開いた。


「大事が起きた、君の力が必要だ。すぐに準備をしてくれ」

「分かりました」


 魔力なしとして呼ばれたのだ。

 何があったのか知らないが、従うことになれたキアラは直ぐに着替えて長い髪を簡単に束ねる。さほど待たせずに扉を開くと、ロルフに付いて暗闇の中を急いで歩いた。


 人目を掻い潜って辿りついたのは王族専用の居住地だ。焦った様子の衛兵に道を開けられ、案内された見知らぬ部屋に入る。さらにその奥へと通じる扉はカイザーの寝室らしい。

 寝室の扉の前にはカイザーとその護衛、そしてラシードが待ち受けていた。


「鍵がかかって開かない。魔法による頑丈な鍵だ。キアラ、できるな?」


 高貴な人が住まう場所で、寝室の鍵を開けろとラシードに命令される。こんな役目は初めてだったので緊張したが、キアラが何かしなくても触れるだけで魔法は解除されてしまうのだ。燃え盛る炎に飛び込めと言われる方が怖いのだが、カイザーの寝室に異変が起きていると分かって、恐る恐るドアノブに手をかけた。


「あの……開かせていただきます」


 カイザーもラシードも、そしてロルフも緊張した面持ちだ。背後で見守る彼らの緊張を受け心音が早くなる。この先に何があるのだろうと不安に感じながら重い扉を押し開いた。


 暗い室内には小さな灯りが灯されていた。目を凝らすと正面には豪華な寝台があって中央は盛り上がっている。誰かが寝ていると気付いた時、背後からぞろぞろと人が入り込んだ。


「誰だ、そこで何をしている?」


 誰何する声はラシードのものだ。答えるように蠢いた掛布の下から体を起こした人物の姿にキアラは瞳を瞬かせた。


「カイザー様?」


 寝台の上で身を起こしたのは部屋の主であるカイザーである。

 真冬だというのに何も身に付けておらず白い肌を曝して、けだるそうに金色の前髪をかき上げたのはカイザーで、瞳を瞬かせていたキアラはラシードの傍らに立つ人の後姿に目を移す。

 この人もカイザーだ。

 いったいどういうことかと首をひねっていると、寝台にもう一人、人がいる事に気付いた。


 小さな灯りに金色の髪が浮かび上がっている。

 人の声に目を覚ましたのだろう、ゆっくりと起き上がったその人も裸で、きゃしゃな肩を曝し、掛布が胸元までずれていた。

 彼女はぼんやりと目を開いて、隣にいる夫に手を伸ばす。


「どうしました?」


 夫に腕を伸ばしたアデリナだったが、その腕を払いのけられて、眠そうにしていた青い瞳を瞬かせ、「カイザー?」と夫の名を呼んだが、周囲に人がいると気付いて小さく悲鳴を上げると掛布を引き寄せ肌を隠した。


「なっ、何!? いったい……え、カイザー?」


 アデリナの青い瞳が隣にいるカイザーと、衣服を着てラシードの隣に立つカイザーとの間で目まぐるしく動き回る。

 側で見守るキアラも何が何だか分からなかったが、護衛たちが腰の剣に手をかけたせいで一気に緊張が高まった。


「どういうことですか?」


 混乱していたアデリナだったが、何事かと真顔でラシードに問う。キアラも理由が知りたくて、前に立つラシードの背に視線を向けた。


「王太子殿下が部屋に戻ったところ、すでに妃殿下と共に寝室に入られているということでした。確認のために私が呼ばれましたが、寝室には鍵がかけられ、扉を叩いて呼びかけても反応がなく、何者かが王太子殿下を騙っていると判断して魔力なしに鍵を解除させました」


 ラシードの説明を聞いたアデリナの顔がみるみる青褪める。


「どちらが……どちらが本物なのです?」

「向こうだよ」


 アデリナの問いに答えたのはラシードの隣に立つカイザーではなく、アデリナと肌を曝して寝台に並ぶカイザーである。「向こうだよ」と言ったカイザーの声はカイザーそのものだが、キアラには別の人の声に聞こえた。


「嘘です、そんなっ。嘘です!」

「触らないでよ、気持ち悪い」


 縋るアデリナを無情に跳ね除けたカイザーは、その視線をラシードの隣に立つもう一人のカイザーに向けてにっこりと微笑む。


「これで好きにする理由ができたね」

「いったい何のつもりだ!」


 微笑んだセオドリクに怒りをあらわにしたのはラシードだ。話しかけられたカイザーは唖然としてその場から動けない。


「あの者を捕らえよ。何をしている、あれは王太子殿下の偽物だ!」


 ラシードの命令に護衛の騎士たちは戸惑いを見せたが、見た目が仕える王太子であるので当然だ。戸惑う面々を前に寝台の男は楽しそうに笑うと、きらきらとした何かを放出させながら瞬く間に姿を変化させる。


 さらりと流れる銀色の髪、世界中のどの宝石よりも美しく輝く神秘的な瑠璃色の瞳。白い肌は磨き上げられた大理石のように美しく、産まれたての赤子よりもきめ細かい。ふわりと穏やかに微笑む様は全てを惹きつける魅力に溢れていて、隣で驚愕していたアデリナは意識を失ってしまった。


「どうしてこんなこと――」


 ヴァルヴェギア王太子の寝室で王太子妃と裸で何をしているのだ。

 キアラにはセオドリクが何をしたいのか、理解も予想もまったくできなかった。








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