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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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083 Eクラスの現状 ③

 ―― 早瀬カヲル視点 ――

 

「サクラコ、メンバーはどう?」

『少し落ち着いたところです。でもオークロードがいる階は怖いと言うので4階に戻ることにしました』

「……そう」


 サクラコのグループが巨大トレインに巻き込まれてしまった。メンバーは奇跡的に全員無事だったとはいえ恐怖は残る。自分よりも強いモンスターの殺意を一身に浴びてしまえば、その後も何事も無く狩りを続行するのは難しいだろう。

 

 死を覚悟しなければいけない状況に追い込まれるとタガが外れ、強くなる人もいる。でも大抵の人は恐怖で縮こまってしまうものだ。あのトレインはそれほどまでに絶望的な状況を作り出していた。

 

 4階に戻るとなると魔石収集効率が落ちてしまうけど仕方がないだろう。まずは時間をおいて少しでも自信をつけ、再起できるよう祈るほかない。

 

「わたしたちはしばらく5階で狩りを続けるわ。助っ人もきてくれたことだし」

『はい。でもその人……ううん、分かりました。何かあったらすぐに連絡くださいね。お互い頑張りましょう』

「ええ、サクラコも」

 

 朝の定時連絡を終えて通話を切る。一度折れてしまったグループを再びまとめ上げていくのは大変だろうけど、賢くも優しいサクラコならば対応を誤らず上手くやってくれるはずだ。それはそうと――

 

(あの人は何者なのか)


 大宮さんのすぐ隣に寄り添うように座っている小柄な冒険者。印象に残りにくい地味な恰好と華奢(きゃしゃ)な見た目からは想像もできないほどの戦闘能力だった。大宮さんが呼んだと言っていたけど、あれほどの実力者とどう知り合ったのだろう。

 

 昨日のトレインがどう始まってどう収束したのか、今でも鮮明に覚えている。

 

 私達は誘われるようにあの場所に行き、オークロードが率いる数十体規模のモンスタートレインに遭遇した。遠くには散り散りになって逃げるサクラコ達が見えたときのことだ。

 


 

 *・・*・・*・・*・・*・・*

 

 

 

「早瀬さん、みんなを頼んだよっ!」

 

 そういうと大宮さんは短刀を抜いてあの中へ駆け出して行った。この緊急時に即断即決の行動力。私は動揺して身動きができなかったというのにリーダーとしての器の差を感じてしまう。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「みんな、こっちよ!」

 

 避難誘導を終えたら私もすぐに駆け付けねばならない。レベル5の彼女ではオークの一部をおびき寄せるだけで精一杯だろう。ここは私が決死の覚悟で飛び込んでオークロードを引きつける必要がある。そうでなければあれは止められない。

 

 急いでグループメンバーを集め、一塊になってまっすぐ入り口広場へ向かうよう指示する。またここで何が起きたのか、学校と冒険者ギルドの両方へ通報するようとも言っておく。これ以上被害を拡大させないためにだ。

 

 次にモンスタートレインが起きているという状況証拠をヘルプセンターへ送らなくてはならないので、走り出しながら腕端末のカメラを起動する。オークロードが目を血走らせて追いかけているあの男がトレインを作った張本人だろう。責任問題となる可能性が高く絶対に逃がしてはいけない。

 

 何枚か写真を撮っていると、物凄い速さでオークに突進している大宮さんが見えた。トレインの大部分を構成するあの“武具をまとったオーク”はオークロードが呼び出した特別な上位個体で、6階にでる魔狼よりも強いとされている。だというのに彼女は囲まれて殺意を向けられながらも恐れず、怯まず、次々と切り倒している。

 

(す、凄い!)


 オークの剣筋を鼻先で躱し、すれ違いざまに反転しながら短刀で一閃。周囲のオーク達も後ろからの襲撃に気づいたのか雄叫びと共に次々と剣を振り上げて殺到している。その数、十数体。その数多の剣戟を縫うように避けつつ有利な距離を保ち、一体ずつ冷静にカウンターを決めていく冷静かつ驚異的な動き。

 

 ダンジョンの戦いにおいて、多数の味方で一体のモンスターに挑むのが絶対的なセオリー。圧倒的多数相手の戦闘なんて慣れているわけがない。それなのに命の懸かったこの土壇場であれほどの戦いを繰り広げるとは。私とてあれは真似できるものではない。

 

 必要な写真を撮り終え、少しでもオークを減らそうと私も抜刀しトレイン後方につこうとする――が、前方に逃げ遅れたクラスメイトが恐怖のあまり(うずくま)っているのが視界に入った。

 

 そのすぐ近くにまでオークロードが迫っている!

 

 邪悪な笑みを浮かべながら殺意に満ちた《オーラ》をまき散らすオークの王。一流の冒険者でなければ立ち向かうどころか相対することすらかなわない最凶のモンスター。これまでどれほどの冒険者があれに心を折られ、葬られてきたか。

 

 数十mも離れているというのに震えてしまう。果たしてあれと向き合えるだろうか。それでも行かなくてはならない。私が行かねばあの子はすぐにでも命を落としてしまう。震える足に活を入れ、歯を食いしばって走り出す。

 

 数体と交戦中の大宮さんもクラスメイトの危機に気づいたのか、無理やりモンスタートレインのど真ん中を突っ切ろうとする。

 

 しかしオークロードはもうその子の目の前まで迫り、巨大な棍棒を振り上げている。もう間に合わ――

 

 

(――えっ、なに? 一体何が起きたというの)

 

 突然、オークロードの巨体が鈍い音と共に真横に弾け飛んだ。そのまま空中で回転しながら10mほどの距離にある岩壁まで吹き飛ばされ激突。そこで魔石と化した。

 

 間を置かず周囲にいたオーク達がオークロードと同様に次々に弾け飛び、または切り刻まれていく。よく見ればオーク集団のど真ん中を高速で動き回っている黒い影が確認できた。オーク達は間近で何が起こっているのか理解できていないようで激しく動揺し浮足立っている。

 

 そんなことはお構いなしに影はなおも容赦なく切り捨てていき、僅か1分足らずで数十体もいたオーク集団は一匹残らず駆逐されてしまった。後にはお面を被りボロマントをまとっている小柄な冒険者がポツンと立っているだけ。


 圧倒的な力を見せられ思わず(すく)んでしまったけど敵ではない……はず。それが証拠に。


「来てくれたんだっ! ありがとー!」


 大宮さんが真っ直ぐ走っていって笑顔でお面の冒険者を出迎え、抱擁する。冒険者のほうも同じく抱きついているのできっと気心知れた関係なのだろう。

 

 足元には数十もの魔石が煌めいていて、先ほどまでの地獄が幻のように思えた。

 



 *・・*・・*・・*・・*・・*

 

 

 

 というのが昨日起きたことの一部始終。あわや大惨事というところだったけど、大宮さんとあの助っ人のおかげで全員無事だった。

 

 今思えばモンスターが狩られていたのも、私達をあの場所へ誘い込むための罠だったのかもしれない。トレインを先導していた男は逃げてしまったけど、証拠写真は撮れているのでナオトに状況報告と共にデータを送信し、判断は任せることにした。

 

(あの人についての報告は……どうしたらいいのだろう)

 

 危機から救ってくれたお面の冒険者は、休憩場所の片隅で大宮さんと肩を寄せ合って仲睦まじくお菓子を食べている。

 

 お面と古びたローブで体全体を覆っているので体格から判断するしかないけど多分女性だろう。ぱっと見た感じでは中学生くらいに見えるし、ローブ下には黒っぽい皮の鎧と小手――魔狼防具をしているだけなので全く強さは感じない。

 

 それでも巨体のオークロードを軽々と吹き飛ばし、上位個体のオークを一撃で斬り捨て、数十体の巨大トレインを瞬く間に壊滅させたのは夢でも幻でもない。それほどの強者なのに探そうとしないと目の前にいるのかどうか分からなくなる存在感の薄さ。何もかもがちぐはぐで素性が全く読み取れない。あの防具も魔狼製に見えるだけで、実は強大な力が秘められていたりするのだろうか。

 

 大宮さんの呼んだ助っ人だと紹介されたので、挨拶のために恐る恐る言葉を交わしたのだけど顔を背けて無視されてしまった。案外シャイな人なのかもしれない。

 

 そして謎があるのは大宮さんもだ。少なくとも何か隠しているはず。


 お面の冒険者ほどではないにせよ、あのときの動きと速さはレベル5のそれではなかった。私達のクラスで一番強いと言われているユウマより上と言われても納得できるくらいに。どうしてあれほどの力を隠していたのだろう。

 

 教室ではそれほど話す間柄ではないけれど誰にでも誠実で愛想がよく、あの颯太とも仲良くできる人格者ということは知っている。だからその大宮さんも、そしてその彼女が信じて呼び寄せたお面の冒険者も信じていいとは思っている。

 

 それにおかしなところがあったところで追及は後でいい。今はとにかくクラス対抗戦を全力で乗り越えなければならないのだから。

 

(……でも)


 あのお面の冒険者。たまに私のほうをじっーと見てくるときがあるけど何だろう。

 

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