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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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082 Eクラスの現状 ②

 ―― 立木直人視点 ――

 

 クラス対抗戦4日目。

 

 朝に発表されたばかりのクラス成績データを端末に取り込み、上位クラスとEクラスの現状を一覧にして前半戦を総括する。結論から言えば現時点では大きく出遅れて最下位。

 

(しかも、Dクラスに引き離されている)


 クラス対抗戦の試験場所は日が経つにつれ深い階層へと移っていく。僕らの指定クエストもすでに5階がメインの戦場となっており、オークやゴブリン上位種との戦闘に時間を取られ自由に動けなくなりつつある。平均レベルが低いEクラスは今後ますます不利になっていくことだろう。

 

 だからこそ、この4日目までにDクラスと同等以上の点数が欲しかったのだが……手元のデータを見る限り目標に全く届いておらず、種目によっては目を背けたいほど悲惨な状況である。

 

「磨島の報告ではそれなりにモンスターを倒して点数も稼げていたはずだが、上位クラスと差が全く縮まっていない」

「Dクラスの指定モンスター討伐グループは刈谷君が率いているんだっけ。Cクラスを上回るとは凄いよね~」


 端末を高速でタップし状況確認していた参謀の新田が、微笑みながらいつもの柔らかい口調で答えてくれる。この厳しく絶望的ともいえる戦いの中で我を失わずにいられたのは冷静沈着な新田がいてくれたおかげ。感謝しかないが、それはさておきだ。

 

 Dクラスは刈谷含む精鋭を到達深度に集めるのかと思いきや、磨島の指定モンスター討伐にぶつけてくる作戦できた。ユウマを倒した刈谷の実力は並ではなく、Cクラス相手でも互角以上に渡り合えているというのも納得のいく話である。

 

 だが、Eクラスの精鋭を集めた種目が潰されてしまったのは非常に手痛い。この影響を最小限にするにはどうすべきか。

 

「磨島達の指定モンスター討伐は、明日から7階のモンスターも討伐対象になるが」

「Dクラスに追いつくことが望み薄なら~トータル魔石量のサポートに移ってもらったほうがいいかしら」


 6階においてもかなりのペースで倒し続けている磨島達なら、7階であっても狩りを続行できるかもしれない。しかし7階は見通しが悪い森MAPである上に魔狼がリンクしやすく、経験がなければリスクも跳ね上がる。6階と7階では狩りをする難度に雲泥の差があるのだ。

 

 そのリスクを承知で無理に狩りを推し進めたとしても刈谷率いるDクラスに追いつく可能性は限りなく低い。ならば、新田の言う通り指定モンスターは捨てて他の種目に賭けたほうがベターだろう。磨島達にとってこの判断は屈辱だろうがクラスのために飲んでもらうしかない。

 

「では磨島には僕の方で伝えておこう……ふぅ。次にユウマたち指定ポイント到達だが、こちらも絶望的だ。負傷者まで出ている。おまけにDクラスの助っ人がこの種目をサポートしていることが先ほど確定した」

「やっぱりモンスターを引き受けていたのかな~?」


 指定されたポイントまでの着順を競う種目で、Dクラスは経路のモンスターを倒しているとは思えない速度で何度も順位を上げてきた。

 

 必ず裏があるはずだとユウマが調査を行ったところ、同一クランと思わしき複数人の人物が手伝っている現場を確認したとのこと。その助っ人の写真もこちらに送られてきている。


「この胸に付いている太陽のマークだけど、ソレルに間違いないわね~」

「ソレルか……ふむ。それともう一つ、カヲルから送られてきたこの写真も見てくれ。この男だ」


 昨日、サクラコのグループがオークロードのトレインに襲われた事件があった。そのトレインを先導していたと思われる人物の写真がカヲルから送られてきている。

 

 先ほどユウマが送ってきた写真と見比べてみると、服装は違えど顔や髪型の特徴が一致している男がいることが分かる。走りながら撮影したせいか少しブレもあり断定はできないが、同一人物の可能性が非常に高い。

 

「やっぱり~昨日のトレインは作為的にぶつけられたってことなのかな?」

「あぁ。そう考えるのが自然だ」

 

 トレイン自体は別に珍しいことではない。逃げる際に不幸が重なりモンスターが連なってしまうことなんて日常茶飯事だからだ。しかしサクラコ達がいた場所はオークロードが出没するエリアから2km以上も離れている。逃げるにしてもそんな長い距離を引き連れてくるものだろうか。

 

 それ以前にトレインを先導していたソレルの男はサポート対象であるDクラスから離れて、あの場所で一体何をしていたのか。偶然オークロード部屋まで行き、トレインを作ってしまったとは考えにくい。どうみてもわざと連れてきてぶつけにきている。

 

 故意のトレインは悪質な殺人未遂事件として実刑が課せられる重罪でもある。これは冒険者資格を取るときに誰でも教わる一般常識だし、仮にも攻略クランに所属する者が知らないわけがない。昨日は数十のオークがサクラコ達の前で一斉に放たれたというし運が悪ければ、いや、普通に死者が出ていてもおかしくない状況だった。許しがたい行為である。

 

「でもこの段階でそこまでしてくるんだ~想定外だったかも。何かあったのかな」

「この写真を報告すべきか」

「うーん。被害はでなかったし追及は大変だと思うよ~?」


 確かに被害はでなかった。けれどそれはタイミングよく“助っ人”が来てくれたからだ。何とか懲らしめてやりたいという気持ちはあるものの、被害も無いなら立件できない可能性もある。無駄足は避けるべきか。

 

 そして、この助けてくれたという人物についてどうすべきかという問題もある。

 

 見た目は木製の仮面にボロボロの皮マントを着た小柄な女らしいが、オークの殲滅速度から見るに最低でもレベル10。もしかしたらレベル15に届くかもしれない実力者というのがカヲルの見立てだ。

 

 ただその人物は近くに立っていても存在感が極度に希薄で、目を離せばどこにいるか分からなくなってしまうという異常報告まで付いてきている。何らかのスキルかマジックアイテムを使っている可能性が高い。どこかの部隊、あるいは有名な攻略クランに所属している冒険者だろうか。どちらにせよそこらにいる普通の冒険者ではないことは確かなようだ。

 

「この仮面の人物について大宮から何か情報は入っていないか? 知り合いと聞いているが」

「身元の詮索はしないという条件で手伝いに来てくれたんだよ。だから、ひ・み・つ♪」


 新田は緩い雰囲気の割にガードは固く、どうにも情報を掴ませてくれない。あれほどの強者が僕らの味方についてくれるのなら今からでも様々な手段が取れるというのに。見守りに来てくれただけでも安全性が増したとはいえ、このまま遊ばせておくのは無駄がありすぎる。

 

「それにね~。助っ人の力でDクラスに勝ったとしても、Aクラスなんて夢のまた夢だよ」

(ぐっ……考えを読まれてたか)

 

 しかし新田の言う通りかもしれない。実際に戦ってみて分かったことだが刈谷率いるDクラスとの実力差は嫌でも認識させられた。仮にソレルが助っ人に来なくても勝つことは困難だっただろう。実力も無いのに助っ人の助力で勝ったところで、その地位は砂上の楼閣に過ぎない。

 

 だからといって今回の試験を諦めてもいいというわけではない。勝てないまでも一矢報いることができれば次へと繋がる希望になるからだ。それは劣等と(さけす)まれた僕達に一番必要なものでもある。

 

「ふふっ。私達はまだやれるよね~?」

「もちろんだ。たとえユウマや磨島達が駄目だったとしても活路はまだある」

 

 当初の作戦の柱であったユウマと磨島グループの失敗は認めなければならない。僕らがどんな作戦の立案をしたところでこの二つの種目に逆転の目は無いだろう。だが予想外に上手くいったこともある。あのトレインの結果、レベル6の魔石が大量に手に入ったことだ。

 

 本来ならばあれだけの魔石を集めるのにトータル魔石量グループ総出でも丸一日はかかる。危険な目には遭ってしまったとはいえ、これを活かさない手はない。幸い怪我人もなく魔石集めも続行できると聞いているし、磨島達をサポートに付けて勝負する価値は大いにあるだろう。

 

 僕達の指定クエストも今のところDクラスに食らいつけている。新田がクエスト内容を予測し先回りするという神業的なことをやってのけているからだ。学校の指定するクエストにどんな規則性があるのかは分からないが、このまま彼女の助言に従い効率よく点数を積み重ねていければ勝機もでてくるはず。


「あと何か忘れている気がするが、まぁいい。朝食を済ませたらすぐに次の準備に移ろう」

「ええ。でもソウタはどこまで行くつもりなのかしら……」

 

 残るは後三日。一種目だけでもいい。Dクラスに勝てるよう僕らにできることを精一杯やるまでだ。


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