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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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075 天摩晶は痩せたい

 ついにクラス対抗戦が開始された。最初にダンジョンに入るのは俺が参加する到達深度グループだ。五つの種目の中では点数配分が一番高く、出場してくる生徒も各クラスの精鋭。後方から大きな声援に後押される形で次々に突入を開始する。

 

 といっても、ここ1階は前も後ろも冒険者だらけなのでモンスターなんて一匹もいない。いたとしてもスライムが跳ねているだけなので、しばらくは流れに沿って進むのみである。

 

 先頭には世良さんが一門に囲まれながらゆっくりと優雅に歩く。余程喋りたいのか色んな人に声を掛けており、護衛の貴族が睨みを利かせ追い払うということを繰り返している。自重しろとの視線は彼女にまるで効いていないようだ。

 

 その後ろにはBクラスの周防とその取り巻き達が煌びやかな防具を着て歩いている。こちらも全員が貴族なのだろう、装備にかけている金額は相当なもので宝石や貴金属が(まばゆ)い。もしかしたらあれらもAクラスに負けたくないという意地の現れなのかもしれないが、今のところは喧嘩を売ったり暴れたりする様子は見られず至って平穏。こんな混雑しているメインストリートで何かを仕掛けるはずもないか。

 

 続くCクラスは鷹村君のお付きのおでこちゃん――物部(もののべ)芽衣子(めいこ)という名前らしい――が中心になって動いている。仲間からメイちゃんと呼ばれ親しまれており雰囲気はかなり良さそうだ。一方でクラス一番の実力者であろう鷹村君の姿は見えず、データベースを見る限りでも最高戦力を出してきているわけではない模様。学年屈指の世良さんや周防と無理に争うよりも、他の種目に回して点数を稼ぐ作戦なのだろうか。ある意味Eクラスと同じ戦略とも言える。

 

 最後方にいるのはDクラスの四人グループ。よく間仲と一緒にEクラスを馬鹿にしてくるので、うちのクラスからは評判がすこぶる悪い奴らだ。最近では間仲を(おだ)てて取り入ろうとする姿をよく見かけるがソレルにでも入りたいのだろうか。


 そのDクラスが先ほどから俺をチラチラと見てくる。恐らく背に持った荷物を持たせたいのだろうが今は絡めない理由もある。

 

『その糖質制限って、そんなに効くの?』

「えぇと。まぁ多分……」


 俺の隣にはウンウンと頷きメモを取る天摩さんがいるからだ。


 彼女は入学式の時に俺の太っていた姿を覚えていたようで、どうしてそんなに痩せることができたのか、一体何をやったのか秘訣を教えてくれと逐一聞いてくる。そのためにわざわざ到達深度のグループに割って入ったのだという。

 

『でもこんな短期間でそこまで痩せられるのかなー。初めて見た時は体幹が弱そうだったけど筋肉も凄くなったよねー。ウチ、二度見しちゃったもん。明らかに何かやってるよねー?』


 日頃どんなトレーニングをしているのか。何階で狩りをしているのか。全て吐き出せと言ってくる。

 

 確かに最近は亡者の宴で長時間ハンマーを振り回しているせいか、ますます筋肉が付いてきた。またリサから教えてもらった対デバフスキル《フレキシブルオーラ》のおかげで異常食欲もそれなりに抑えられ、最近はデブからぽっちゃり系男子に変貌を遂げている。細かった目も痩せたことでパッチリおめめとなっており、案外イケメンなのかもしれないと鏡を見る度に驚いているくらいだ。


『あ、もしかして秘密の狩場とかあったりして。ねぇねぇウチだけにこっそり教えてよー』

 

 重そうなフルプレートメイトで器用にくねくねとする天摩さん。もちろん秘密の狩場なんて言えるわけないので何とか誤魔化したいところであるが、彼女もダイエットというものを長らくやってきた身。適当な話ではごまかされず納得もしてくれない。


(さて、何と言えばいいか。というかまず天摩さんのダイエットはそう簡単な話ではないのだけども)

 

 今までに様々なダイエットを試したけど効果がでないというのも当然の話で、原因は精霊の祝福という名の“呪い”のせいだからだ。痩せるためには食事制限や運動などではなく、自身に宿っている精霊の考えを改めさせるか取り出して倒すかしかない。


 そのイベントは主人公である赤城君と天摩さんが仲良くなっていけば自ずと発生する。難度は高めだがクリアすれば天摩さんは無事に痩せて可愛らしい少女に戻り、ヒロインとして赤城君を支える強力な仲間となる。

 

 もしかしたら俺でも発生させることはできるかもしれないけど、赤城君の成長の機会を奪ってしまうことになるし、何より天摩さんが関与するメインストーリー全てが捻じ曲がり、プレイヤー最大の武器である“未来予測”が使えなくなってしまう可能性すらある。そうまでして彼女を助ける覚悟は……今のところ持ち合わせていない。

 

 しかし目の前ではこんなに明るく振る舞っていても呪いのせいで醜く太り、老化までしてしまった姿に毎日泣くほど苦しんでいることは知っている。その常時着用しているフルプレートメイルもその姿を覆い隠すためということも。早く救ってあげたい気持ちは当然ある。どうしたものか。

 

「皆様。まもなく2階に到着しますので、20分の休憩をとりましょう」

 

 1階の終着広場が見えてきたところで世良さんが休憩の提案をしてくる。ダンジョンに入ってからすでに1時間以上経っているのでトイレ休憩も必要だろう。


『それじゃウチもトイレいってくる。20分後にまたねー』

「あ、うん」


 その鎧はトイレでどうやって着脱するのだと密かに疑問に思ったが、後方には例の黒ずくめ達が控えていることだし問題はないのだろう。それでは俺も一応いっておくか。

 

「おい豚っ! ツラ貸せや」

 

 天摩さんと別れるや否やDクラスのグループの一人が襟首を引っ張ってきて、人気のいなそうな方向を親指で差し「付いてこい」と言ってくる。ダンジョンに入ってからずっと俺に絡みたかったようで後ろにいる奴らも頻りにガン垂れてくる。君たち、トイレは大丈夫なのかね。

 

(面倒事はさっさと終わらせるか)

 

 1階と違って2階は訓練場として利用する冒険者はほとんどおらず、数百mも歩けば人の気配はほとんどなくなる。どこまで行くのかなと思いながら歩いていると、後ろからパンチを繰り出してきやがったのでとりあえず躱しておく。素直に殴られてやるつもりはない。

 

「いきなり何ですかね」

「お前、なんで荷物持たなかったんだよ!」

「何発か殴らせろ!」

「ここから先は俺達が()き使ってやるから覚悟しろよ?」


 あまりの理不尽にオラびっくりだ。今まではやってこなかった暴力も躊躇なく振るうようになってきたか。もしかしたらBクラスから何か指令が出ているのかもしれないけど、そんな要求を受け入れるつもりは毛頭ない。そも、こいつらはEクラスいじめの主犯格で、過去にMPKをしたりもしていたりと俺の粛清対象リストの上位に位置している悪人共。俺の方こそ何発か殴らせてほしい。それにしても――

 

(やけに苛立っているな)


 汗をかき目を血走らせ興奮状態なのが見て取れる。俺に絡みたいというだけでここまで感情が高ぶるものだろうか。薬物使用、もしくは何らかの精神操作の影響が疑われる。対デバフスキル《フレキシブルオーラ》は簡単な状態異常なら広範囲に抑え込めるので試しに使ってみようかね。


 再び殴りかかってくるのを横に躱しながら相手の胸に手を当てスキルを発動。すると魔力が何かにぶつかる感触があった。やっぱり何かやっていたな。

 

「テッ、テメェ!」

「囲んでやるぞっ!」

 

 だがスキルを使った男子生徒の顔色に何ら変わった様子がない。手応えはあったはずなのにおかしいぞ。もしかしたら継続的な精神操作を受けているパターンが考えられるな。例えば呪いのアイテムを装備しているとか。

 

 四人で俺を取り囲んで一斉に攻撃を繰り出してくるが、全て認識できているし見えてもいる。データベースではレベル7前後だったしこんなものか。

 

 目の前の男が拳を振りかぶる直前に懐に入り込み鳩尾に一撃をお見舞い。斜め後ろから髪の毛を掴もうとした右隣の男の手を逸らして、側頭部に手刀。左から来る蹴りを半歩後ろに下がって空振りさせ、お返しにこちらも回し蹴り。顎へ滑らすように当てればあっさりと崩れ落ちる。残りは後一人だ。

 

「お、お前、一体なんなん……」

 

 会話するつもりなんてない。問答無用で後ろに回り込みチョークスリーパーで締め上げればあっという間に居眠り小僧の出来上がり。レベル差がこれだけあると四対一くらいでは負けようがないな。

 

「さてと。何を隠し持ってるのやら」

 

 目の前に並べて一通りポケットや荷物の中身を見たものの、怪しいアイテムは見当たらない。面倒なので防具を全部剥がすことにしよう。

 

「これは[狂い(ねずみ)の牙]か。この段階から使っているのかよ」

 

 小さな歯のようなものを数珠つなぎにした首飾り。《簡易鑑定》で見てみると「20階以降の湿地帯でポップするネズミ型モンスターの牙」と出るので間違いない。知能や理性が落ちる代わりに力と動体視力を上げる、いわゆる“バーサーカー状態”になるマジックアイテムだ。

 

 ゲームでは周防が主人公らと戦うために配下の戦闘力を向上させる目的で使っていたが、長時間使用すると精神汚染が始まる危険なアイテムでもある。こんな序盤ですでに用意していたとは……実験目的で持たせたとしても一体誰と戦うことを想定していたのか。

 

 こいつらがどうなったところで別に構わないという気持ちはあるものの、周囲から悪しき思想や差別的な考え方を叩き込まれ、ここまで曲がってしまったという見方もある。ましてやこのような危険なアイテムを恐らく何も知らない状態で渡され実験台にされていたのだ。哀れというほかない。

 

 まだ使用してそれほど時間も経っていないので後遺症はでないだろうけど、そのまま復帰されては面倒なので君達にはここでリタイアしてもらおうか。

 

 背中に抱えていた“小さな”バッグから“巨大な”ブーストハンマーを取り出し、はぎ取った武具の上に「よっこらせ」と振り下ろして破壊する。後は適当に縛り上げて放置でいいだろう。そこらを歩いているゴブリンに殴られるかもしれないが。手頃な罰として丁度いい。


 そろそろ休憩時間が終わってしまう。世良さんの待つ集合場所へ戻るとしよう。


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