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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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070 新・マニュアル発動

「指定モンスター班、俺についてこいっ」

「みんな行こー!」「おうっ!」


 ホームルームが終わり放課後になるや否や磨島君が「ダンジョンに行くぞ」と声を上げ、クラスに号令をかける。後に続くは磨島君と一緒にダンジョンに潜っているEクラスの精鋭達。常日頃からパーティーを組んでいればどう動けばいいか理解が進み、連携も取りやすくなる。強敵相手でも好成績が期待されているグループだ。

 

「あたしも磨島君と一緒のグループが良かったなぁ~」

「あんたレベル足りてるの? 指定モンスターって指定ポイントの次くらいに大変みたいだし」

「なら立木君がリーダーやってる指定クエストとか狙い目だったのかなぁ」 

 

 近くで座っている女子が愚痴を(こぼ)す。磨島君はレベルが高く、リーダーシップもあるためクラスではとても人気が高い。彼の所属するパーティーに入りたいという人が後を絶たないのもそのせいだ。

 

 もう一つの人気パーティーである赤城君達はどうしたかというとメンバー四人を各種目に分散させ、それぞれグループリーダーをやってもらうことになっている。責任感が強く、頭もよく回る彼らには適任だろう。そのグループリーダー達の席の周りにクラスメイト達が集まっている。

 

 指定クエストは立木君。指定ポイントは赤城君。トータル魔石量はピンクちゃんとカヲルのところにメンバーが輪になってミーティングだ。

 

 ちなみにリサは指定クエスト、サツキはトータル魔石量へ配属された模様。各種目の参加者の顔ぶれを見る限り、レベルや能力を上手く考慮して振り分けているように思える。事前に種目希望用紙を配っていたがそれは建前で、裏で立木君あたりが決めていたのかもしれない。

 

 その立木君はなんだか元気が無く上の空。ぼーっとしているところ、頬をリサにつつかれ慌てている。普段の彼は裏で色々と動き回ることが多いので、多少の気の緩みは温かい目で見守ってあげるべきだろう。

 

 

 と、いうような感じで放課後の教室はクラスメイト達が作戦や練習方法を積極的に提案し合い、活気に溢れている。勢い余ってこれからダンジョンに入ろうとするグループもあるようだ。

 

 一時期はどん底まで叩き落とされ一様に暗い目をしていたというのに、今の皆からは必死になって奮い立とうとする気概を感じる。そんな姿を見ていると陰ながら応援したくなるものだね。

 

 で。一方の俺はといえば。


 種目をこなす上で特にやることはなく、かといって期待されているわけでもなく。このまま帰っても誰にも気づかれることもなく。つまりは以前と同じくボッチ状態なのである。

 

 なーんてね。今日は色々とやることがあるので忙しいのだ。別に独り身が寂しいとかそんなのではない。ほんとだよ。

 



 *・・*・・*・・*・・*・・*

  

  

  

 学校から出ると真っ直ぐに冒険者ギルドへと向かう。1階ロビーの広間から何レーンもあるエスカレーターを上っていくと、以前に魔狼装備を買った防具店が見えてくる。

 

 その店の入り口では山賊のような髭モジャの大男が似合わない笑顔で客寄せをしていた。あの強面では客が逃げるだけなので誰か愛想のいいバイトでも雇えばいいのに……と思わなくもないが、とりあえず声をかけてみよう。

  

「こんにちはー、防具を頼んでいた者ですけど」

「おう、あんたか。オヤジィ! 客がきたぞー!」

「デケェ声だすんじゃねぇ! 聞こえてるよ!」


 店主が「オヤジ」と呼ぶと店の奥から出てきたのはつなぎを着た、如何にも気難しそうな白髪の爺さん。ダンジョン金属加工の界隈では結構有名な人らしい。

 

「どうも。できてますかね?」

「こっちだ、奥にある」


 店の奥にある部屋に通されると作業台の上に沢山のケーブルに繋がれた“小手”が二組あった。どちらも白銀色の光沢で眩しく輝いている。爺さんは付いているケーブルを手早く外すと片方を俺に手渡してきた。

 

「大量の魔石を消費した甲斐あって上手く加工できてるだろ。付けてみ」


 俺がこの爺さんに頼んでいたのは純度100%のミスリルの小手。フルフルのクエストを(こな)すべく大量のアンデッドを狩り、山ほどミスリル合金を運び続けた。本来なら高純度のミスリル合金製武具を作ろうと考えていたのだが、想定以上の量が手に入ったため、どうせならと純ミスリルの武具を作ってみたというわけだ。

 

 ミスリルの加工には大量の魔力が必要であるものの、モンスターレベル16の魔石なら腐るほどある。それらを湯水の如く使って魔道具から魔力を流し込み加工してもらった。ちなみにミスリルは融点が高すぎるため、溶かして加工する方法は使えない。

 

「では早速」

 

 手に取ってみると、とにかく軽い。まるでプラスティックのオモチャを持っているかのよう。水に浮くとまでいわれる軽さは本当だったようだ。

 

 次に手に付けてみる。サイズ調整が自由にできる機構となっており圧迫感もなく装着具合もいい感じだ。

 

「いいですね。これなら痩せても使い続けられそうです」

「久々に純ミスリルを扱ったよ。いい仕事させてもらったぜ」


 ミスリル鉱石の採掘ができるようになるのは通常20階を越えてから。しかしその階層にいける冒険者は少なく、いたとしても鍛冶師を抱えてる大規模クラン所属の冒険者ばかり。しがない爺に任せてくれる冒険者は減ったと嘆いている。


「そんで、色付けもしていくとか言っていたが」

「この反射は目立つのでお願いできますか」

「魔道具でメッキ塗装でも施しておくか。もう1セットもやっとくから明日にでも取りにきな」


 純ミスリルの光沢は鏡のように反射するので見る人が見ればすぐに分かってしまう。この小手も買うとなれば軽く一千万円を超えるほど高価なので、余計なトラブルを回避するためにも塗装はしておくべきだろう。表面処理や金属光沢のパターンを変えることができる便利な魔道具があるらしいので、それを頼むことにした。ちなみにもう1セットのは妹の分だ。

 

「しかしこれだけのミスリル合金を取ってくるたぁ、この前まで魔狼防具を着ていた兄ちゃんとは思えないぜ」


 メッキ塗装の依頼書を作ってもらっている間に山賊――のような店主が話しかけてくる。男子三日会わざれば何とやらというし、お年頃の男の子は成長も早いのだ。このままモグラ叩きを続けていけば、成海家全員が純ミスリル防具に覆われる日も遠くはない。


「いい狩場を見つけたので。また取ってきたら精錬と加工お願いします」

「おう。オヤジも喜ぶだろうさ」


 ゲーム知識に該当する鍛冶職人は腕は良いけど面倒な立場だったり性格が破天荒だったりするので、あの爺さんを知れたのはよかった。余計な詮索をしてこないし。

 

 さて。時間もあることだし、この後はダンジョン内で実験でもするか。

 

 

 

 *・・*・・*・・*・・*・・*

 

 

 

 ダンジョン1階、入り口広場。

 

 30分ほど並んでやっとこさダンジョンに入っても中の混雑具合は変わらず。さっさとこの人混みから逃れるためにも適当に歩くとしよう。


 今日やりたい事はリサから教えてもらった“新・マニュアル発動”の実験。自分の部屋でも何度か試していたのだけど、狭い部屋では体を動かす実験にも限度がある。そこでアクティブモンスターがおらず、思いっきり動けるダンジョン1階までやって来たわけだが……

  

 しばらく歩いてみたものの、ある程度の広さの場所はどこもすでに利用されており休日の公園状態。冒険者学校の生徒でもない一般冒険者は、日頃こうしてダンジョン1階の空きスペースを使って訓練しているため場所の取り合いになっているのだ。


 それでも10分も歩けば空いている場所の一つくらいは見つかる。30m四方くらいの空間には誰もおらず、スライムがポヨンと数匹転がっているだけ。ここを使わせてもらうとしよう。

 

 早速《オーラ》を発動する。オート発動だと全身から()が不規則に放出され周囲に霧散してしまうが、マニュアル発動なら放出に指向性を持たせることも可能だ。見よ、俺のオリジナルスキルを!

 

「オーラミサイルッ!」

 

 通常、《オーラ》の有効効果範囲は20mほどだが指向性を持たせれば倍くらいまで飛ばせるようになる。遠くにいたスライムに当てると慌てて飛び跳ねて逃げていくのが面白い。

 

「スライムごとき相手ではないわっ! ふぁーっはっは……はぁ。真面目にやるか」

 

 次は《オーラ》の放出を右腕からのみにしてみる。すると濃密な《オーラ》が右腕だけに集まり、まるで青い炎で燃えているような見た目になる。これができるようになったのもつい昨日のこと。

 

 近くの岩壁にこの状態のまま手をゆっくりと当ててみる。すると触れた瞬間にピシリと音を立てながら(ひび)が入り、数cmほど押し込むことができた。

 

「さすが上級職のスキル。MP使用量はデカいが威力は凄そうだ」

 

 これは上級職【オーラマスター】が覚える《魔闘術》というスキル。俺のスキル枠には入っておらず、リサから教えてもらった《オーラ》の流れを操作する方法で発動している。貴重なスキル枠を占有しないのは嬉しい限りだ。

 

 この状態で殴れば無属性魔法がエンチャントされた攻撃となり、同時にこの青く覆われた部分は防御力が大きく増すのでガードにも使える。強敵との戦いでは大きな武器となるだろう。弱点としてはMP消耗が大きいことと、体の一部分しか覆うことができないことだが、そこは用途で使い分けていけばいい。

 

「それじゃ次は《ハイド》でもやってみるか」

 

 部屋の中央辺りに座って目を閉じ、先ほどとは違った《オーラ》操作を試みる。通常、人であれモンスターであれ《オーラ》を使っていないときも微弱ながら()が漏れ出ているものだが、《ハイド》はそれを完全に閉じて気配を消す効果がある。モンスターから隠れるときなどには有用なスキルだ。

 

「無になる……無になる……むぅ……。しかしこれ、自分じゃできているのか分からん」


 完全に閉じれているはずだが一人ではスキルが成功しているのか判別できない。どうしたものかと考えていると向こうからプロテクター装備をした男女が10人ほどやってきた。胸元には冒険者学校の生徒を示すバッチが付けられている。どこのクラスだろうか。

 

「ここを使うとしようか。メイ」

「かしこまりました、鷹村(たかむら)様。皆の者、ここを陣とするぞ」

 

 集団の中心にいる赤毛で長身の爽やかイケメンは、Cクラスのリーダーの鷹村将門(まさかど)君か。「十羅刹(じゅうらせつ)」というクランを作ったリーダーの嫡子だ。ちなみに十羅刹は貴族との争いも辞さない武闘派攻略クランとして有名で、ゲームのストーリーでも度々登場する。

 

 その鷹村君の隣にいるのは士族だろうか。ショートヘアでおでこがチャームポイントの可愛い女の子が声を張り上げ指示を飛ばしている。Cクラスはここを練習拠点とするようだ。


 しかし困ったぞ。

 

(もしかして《ハイド》している俺に気づいていない?)


 想定以上に隠密効果が高くて驚く反面、ここでスキルを解いていいものか悩んでいると、さらにもう一つの集団がやってきた。目立つ男が先頭を歩いているのでどこの集団か丸分かりだ。


 冒険者学校の制服の上に高位貴族を表す金色のバッチと、冒険者階級のバッチ、勲章などを見境なく付けて歩いている。さらに腰に届くほどの長く真っ直ぐな髪と中性的な顔つき。それでいて表情は邪悪に歪んでいる。

 

「おやぁ? 誰かと思えば“元”首席殿ではないですか」

「……周防」


 Cクラスのリーダー鷹村君とBクラスのリーダー周防が睨み合う――

 

 

 ――そう。俺の目の前で。

 

 

(誰か助けてぇー!)


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