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災悪のアヴァロン【書籍7巻 コミック10巻 発売中!】  作者: 鳴沢明人


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164 大いなる妖精

 ―― 大宮(さつき)視点 ――


 いつから建っているのか分からない氷山の上に建つ巨城、その正面入口。床にはめられた大きな石材一つとって見ても角や表面が擦り減って丸くなっており、とても古いもののように見える。

 

 そこに立つのは汚れたスーツ姿の霧ケ谷さんと、私の余っていたコートを着た楠様だ。作戦指揮と現状確認のために声を上げる。


「霧ケ谷様、お願いいたしますわ」

「おしっ、時間がないからさくっとまとめるぞ」


 ここは屋根と壁があるので叩きつけてくる雪は回避できるものの、凍てつく風は変わらず吹いているため凍えるほどに寒い。なので皆は即席で作った焚火に囲うように身を寄せ合って聞いている。

 

「すでにくノ一レッドの――藤堂(とうどう)と多数名が外へ情報を伝えにいったわけだが、冒険者ギルドは確実に動くわけだな?」

「藤堂様にはギルドを動かす権限がございます。加えて六路木様からいただいた印もありますので軍も動くはずですわ。また、わたくしの同胞が各方面に散ってリアルタイムで情報収集しておりますので、皆様の端末通信は開いておいてくださいまし」


 現在、藤堂様は部下であるくノ一レッドを引き連れて冒険者ギルドや政府組織、名だたる攻略クランへ駆け込んでいる。アーサー君がギルド前広間直通の《ゲート》を作ってくれたおかげだ。

 

 通信の問題もクリアできている。床の目立つ場所に黒い棘がたくさん付いた巨大ウニのようなものが置かれおり、これを経由して外との情報のやり取りが可能となっている。本来ダンジョンでは国が所有する通信用大型魔道具が設置された階層でなければ通信できないのだけど、くノ一レッドはその小型バージョンの魔道具所持が許可されているので、私や華乃ちゃん達も接続させてもらっているのだ。

  

 では魔道具と端末を使って情報を集めた結果、外がどうなっていたかというと……これは想像通りだった。

 

 クランパーティーの会場のある高層ビルを外から見ると蜃気楼のように景色が歪んでいて、調査隊がどれだけ直進しても近づくことはできない。総当たりのように様々な方向や高さから送り込んでみても全員が方向感覚を失い、道に迷ってしまうという。


 ソウタによれば“人避け”や“幻影”の魔法陣が施されていると言っていたので何となくは予想していたけど、半径数kmくらいは魔法陣の影響下にあるようで東京は大混乱となっていたようだ。

 

「また今入った情報ですが、真田(さなだ)幸景(ゆきかげ)様に外患誘致(がいかんゆうち)の罪で政府から正式に抹殺指令が下りました。現地には命を受けた“十羅刹(じゅうらせつ)”と……“カラーズ”も向かっているそうですわ」

 

 楠様が一通りの説明を終えると、霧ケ谷さんの反応を(うかが)うようにそっと視線を向ける。


 外患誘致罪とは外国と共謀して武力行使する重犯罪のこと。これは国家における最大級の罪であり、捕まればどの国でも極刑になる。藤堂様が神聖帝国と共謀している証拠を資料にして各方面へ送り、それを見た政府上層部は閣僚会議を通さず緊急で抹殺指令を命じたそうだ。

 

 そして、十羅刹とカラーズが動いたという情報。十羅刹は六路木(ろくろぎ)時雨(しぐれ)様が所属している日本最大の攻略クランのことだけど、すでに政府組織と幹部率いる部隊が連携し東京に入ったと情報がきている。

 

 十羅刹の名の由来となった十人の幹部はそれぞれが特殊なジョブまたは能力を持っており、今回来ている幹部には対魔法陣に特化した能力者がいるようだ。その人次第ではビルに近づけない状況を打破できる可能性もあり、一気に状況が変わるかもしれない。

 

 一方のカラーズ。こちらは誰が来ているのかは不明だけど、恐らくは幹部クラス、もしくはクランリーダーである田里(たさと)虎太郎(こたろう)様が来ているものと考えられる。

 

 しかし自分の組織のナンバー2へ抹殺指令が下るという大失態に、カラーズの心境は複雑だろう。政界や冒険者界が黙っているわけなく、厳しい監視下に置かれるのは確実。霧ケ谷さんの所属する金蘭会にも粛清の嵐が吹き荒れる可能性が高い。楠様もそう考えたからこそ霧ケ谷さんの顔色を見たのだろうけど、それは今考えることではないので無理やり思考を切り替えることにする。

 

 まずは冒険者ギルドとの情報共有ができたことは大きな前進といえる。ビルに近づくための算段も整えているとのことだし、軍やギルドの大戦力が突入すれば神聖帝国といえど無事では済まないはずだ。


 明らかな朗報に喜びながらも新たに提起された問題はそれを打ち消すくらいの深刻なものだった。

 

「――で次にいくが、爆破魔法陣がある可能性は高い……お前はそう言いたいんだな?」

「真田は嘘つきだからね。アイツの言うことは基本的に全部疑った方が良いよ」


 霧ケ谷さんがとある方向へ鋭い視線を向けると、華乃ちゃんの隣に座っていた大きな角の持ち主が元気よく立ち上がって前に出てくる。終わったと思っていた爆破魔法陣の再燃だ。

 

 アーサー君に言わせれば真田様が言っていたことは嘘ばかりだという。

 

 最初に「マジックフィールドになったことで高層ビルはダンジョンのように“マップ修復作用”が起き、戦いによる建物破損なども全部修復され、あらゆる証拠は何も残らなくなる」というのが嘘であると断言する。

 

 マップ修復作用が起こるのはあくまでダンジョン内のみ。冒険者学校やギルド前広場の一部は常時マジックフィールドであるが、あの場所を壊したり工事しても修復されないのが良い例だ。

 

 では真田様はどうやって証拠隠滅する気だったのか。やはり爆破魔法陣を発動させるのではないかというのがアーサー君の推論だ。神格者(プレイヤー)容疑のある者を生死を問わず全て連れ出した後に、ビルを跡形もなく爆破してしまえば証拠は残らず、それが一番手っ取り早くて確実な手段というのが理由だ。


 確かにありえない話ではないし、真田様の「爆破魔法陣は無い」という言葉を鵜呑(うの)みにするのはリスクが高すぎる。もし爆発すれば、ソウタだけでなくあの場にいる招待客や軍、建物にどれだけの被害が出るか想像もできない。

 

 なら必然的に“その爆破魔法陣はどこにあるか”という議題となるわけだけど……

 

 あのビルの中を隅から隅まで探し回れば見つかるかもしれないけど、白ローブが徘徊している状況下でそれは現実的でない。ソウタ達だっていつまでもミハイロを抑えておけるわけがなく時間もない。楠様も当然のようにこの難問に言及する。


「魔力感知の得意な妖精の力を借りても爆破魔法陣を発見できなかったというのに……どうやって探す気ですの?」

「妖精ってピクシーのこと? 今どこにいるのか見せて欲しいんだけど」


 アーサー君にそう言われ、焚火で手を温めていた千鶴さんがダークピクシーの入った黒水晶を取り出す。小声で「出てきてください」と魔力を込めて呼びかけると、ダークピクシーはすぐに応じてぼんやりした光と共に姿を現した。

 

 少しの間、場所が変わっていたことにキョロキョロと周囲を探るようにしていたものの、アーサー君を見るや小さな悲鳴を上げてすぐに結晶に逃げ込もうとする――その前に、目にもとまらぬ速さで捕まえてしまった。アーサー君の手の中でジタバタと暴れるピクシーを千鶴さんと華乃ちゃんも心配そうに見つめている。


〖・ーー・ーーー!〗

「ん~? レベル1じゃないか、それじゃあ駄目だよ。お前、レベルアップしたい?」


 生まれたばかりの妖精はレベル1。スキルを使ったところで効果は弱く、魔力探知できる範囲も狭いままだという。レベルアップすれば強化できると言うけれど、この切迫した状況で悠長に狩りなどしている時間はない。

 

 何か考えがあるのかと見ていると、アーサー君はポケットからソフトボール大の青く澄んだ魔石を取り出し「これを食べろ」と妖精に手渡した。契約した妖精やテイムしたモンスターは、狩りなどしなくとも魔石を食べればレベルを上げることができるそうだ。


 しかし目の前にいるダークピクシーは手のひらに乗ることができるほど体が小さく、食べられたとしても小粒の魔石しか無理だと思うのだけど……

 

〖ーー・ー?〗

「ピクシーちゃん、大丈夫です。こちらの方は危害を加えるつもりはありません……でもあの、こちらの魔石は食べられそうですか?」

 

 しばらく契約者である千鶴さんとアーサー君を交互に見ていたダークピクシーは魔石に視線を止めると、これでもかというくらいに口を大きく開けてかぶりついた。バリバリと嚙み砕きながら咀嚼(そしゃく)音を出して、ガラスよりも硬いはずの魔石を美味しそうに食べている。でもさすがにあの大きさの魔石を全部食べきるには――あれ?

 

「ねぇチーちゃん、大きくなってる気がするけど」

「レベルアップしているのでしょうか」


 皆に囲まれながら無我夢中で(かじ)りついていたダークピクシーだけど、一口飲み込むたびに、みるみる大きくなっていく。最初は手足を広げても20cmもあるかどうかだったのに赤ちゃんほどまで巨大化しただろうか。しかもいまだ成長は止まっていない。


 初めて見る超常現象に華乃ちゃん、千鶴さんだけでなく、この場にいるくノ一レッドの方達も目を白黒させ様子を見守っている。その間にもさらに大きくなったピクシーは全てを平らげると満足そうに顔を上げた。


〖ン~……オイチ……カッタ……〗

「あれ~? レベル30で止まっちゃったか。契約者上限に引っ掛かったのかな。でもこれくらいあれば十分だね」


 鑑定魔法を使って確認したアーサー君が満足そうに大きく頷く。与えた魔石はこの近辺で取れたフロアボスのドロップ品らしく、妖精は無事にレベル30まで上がったとのこと。本来はもっと上がってもおかしくないのだけど、契約者である千鶴さんよりレベルを上げることはできないようで、現時点ではこれが最高値とのことだ。

 

 変わったのはレベルだけではない。大きさは1mほど、5才児くらいになっただろうか。背中から生えたトンボのような形状の羽は蝶のような幅広のものへと変わっており、サラサラヘアーだった銀髪はクルクルした巻き毛に。肩に引っ掛けただけの簡素なドレスもたくさんの黒い花が付いたフラワードレスへと進化していた。これはもう別の何かになったと言われても信じてしまうに違いない。

 

 と思っていたのだけど、どうやら妖精というのはレベルアップすると見た目だけでなく種族的にも進化するようで“ダークピクシー”から“ダークフェアリー”という上位種になったと説明してくれる。


「レベル1だと数十m程度しか魔力感知できなかったでしょ? でも今ならあのビル全体の魔力を全部感じ取れると思うよ」

〖ソノクライ、アサメシマエ……ナ、キガスル……〗


 戦闘能力は相変わらずだけど、幻影魔法や状態異常スキルも持っており、サポート能力については大きく上昇。カタコトだけど会話ができているのも嬉しいポイントだ。それでもおてんば(・・・・)な性格はそのままのようで、胸を張りながら今の自分は凄いのだぞと周りにいる全ての人にⅤサインでアピールしている。

 

「綺麗な服……金のおめめも可愛い……この子ちょーだいっ!」

「駄目です! フェアリーちゃんはうちの子です!」

「……ここへ来てダンジョンの常識が色々とおかしなことになってきやがる……まあいい。そんなら次にいくぞ、時間がない」


 華やかで可愛らしくなったダークフェアリーの姿に、くノ一レッドからは黄色い歓声が上がる。華乃ちゃんも(いた)く気に入ったのか「この子欲しい」とフェアリーを抱き寄せようとするけど、それを許さない千鶴さんと引っ張り合いになってしまった。

 

 いま目の前で起きている状況にこれまで(つちか)ってきた常識を大きく揺り動かされ、理解に苦しむ霧ケ谷さん。しかし考えたところで意味はなく、時間もないと言ってスパッと切り替えてくれた。

 

 次の議題は“誰がビルに戻って魔法陣を探すか”という重要なものだ。

 

 ダークフェアリーがいれば半径100mくらいの魔力源は手に取るように正確に分かり、白ローブとの遭遇確率は大幅に減る。さらにビルを破壊するほどの強い魔力源ならどんなに離れていても瞬時に特定できるはずだと、アーサー君がふんぞり返ったフェアリーを指差して説明してくれる。

 

 素晴らしい力というのに異論はない。その能力は国家や組織が持つ諜報・索敵能力を大きく超えたものであり、楠様やくノ一レッドの方達も手放しで賞賛しているわけだし。


 それでも戦闘となる確率はゼロにはならないし、今もミハイロや真田様が強力な魔法を使って暴れているわけで、捜索が危険なことに変わりない。加えて爆破魔法陣の解除まで行うというのは、多くの人命が懸かっていることもあり相当な重圧となるはずだ。

 

 でもあの場所には命を懸けて戦っている親友がいる。その手助けができるのなら怖がってなんていられない。さらに私なら通信妨害圏内でも脱出アイテムを使った通話が可能。それらの理由を引っさげて声を上げようとするのだけど――真っ先に手を挙げて立候補したのは雛森(ひなもり)さんという、ふんわりした雰囲気のくノ一レッドだった。

 

「真宮様と成海様にご恩を少しでも返せるならっ、わたくし雛森(ひなもり)日和(ひより)が行かせていただきます!」

 

 潜入任務が失敗して仲間が無残に殺され、失意と絶望にあった自分がこうして生きているのも、全てはあのお二方のおかげ。たとえ火の中水の中だろうと駆けつけたい、と熱い口調で立候補の理由を語る。

 

 恩を返したいというのは分かるけど、何かそれ以上の熱意や感情を感じる。雛森さんの人物像を推し量っていると、私が最も懸念していた人物が声を上げてしまう。

 

「私も行くっ! おにぃが戦っているんだし!」

「それなら同じ理由でわたくしも行きます。それにこの子とは一心同体ですので」


 華乃ちゃんと千鶴さんがダークフェアリーの手を握りながらもう一方の手を挙げて立候補してしまった。しかし、二人にもし何かあれば私はソウタと真宮様にどう顔を合わせばいいのか。

 

 何としても阻止しなければならないけど、どう言ったら納得してもらえるのか思いつかない。とりあえず今置かれている現状を整理しながら割って入ることにする。


「ここは私と雛森さん、妖精の3人で行かせてくださいっ。華乃ちゃんと千鶴さんには――大事なことを任せたいの。いい?」

「大事なことって?」


 私達の目指すべきゴールは“これ以上誰も死なないこと”だ。しかしそこへ辿り着くにはいくつか段階がある。最初の段階としてミハイロを抑える事。仮にミハイロが自由となれば、ビルにいる全ての人が殺されてしまうからだ。これはソウタと真宮様、六路木様に託すしかない。

 

 うまくソウタ達がミハイロを抑えられたとして、爆破魔法陣が発動してしまえば元も子もなく。これについては私と雛森さんと妖精だけで行きたい。


 本当はアーサー君がアラクネとなって向こうに行くのが安全なのだけど、アラクネ召喚は最上級魔法らしく1日に一度だけという制限があり、それは叶わない。だから消去法で通信できる私が行くべきだ――と言うと、二人は反論のために口を開こうとする。でもそこは押し通させてもらおう。


「もし華乃ちゃんと千鶴さんがビルに戻ってしまえば、ソウタと真宮様は気になって戦いに専念できなくなってしまうと思うの。それにね、さっきも言った通り二人にはここに残って私の親友のことを頼みたいの」

「……リサねぇのこと?」

 

 ソウタ達はミハイロを抑えるだけ精一杯で、ミハイロを倒せるのはリサだけだとアーサー君も言っている。私が現地に行って爆破魔法陣を必ず止めるので、華乃ちゃんと千鶴さんには、リサを万全の状態で送り出して欲しいと頭を下げてお願いする。

 

「わたくしからもお願いします。潜入は少数のほうが成功率が上がりますし、真宮様と成海様は命に替えても無事お連れいたします。どうかご自制を……」


 雛森さんも「ここに残ってサポートして欲しい」と腰を折り曲げるように深く頭を下げて頼んでくれる。二人は互いを顔を見ると、しょんぼりと頭を下げながら「兄をお願いします」と折れてくれた。

 

 自分のせいでソウタと真宮様が十分に力を発揮できないという脅し文句。世界の誰よりもお兄さんが大好きな二人だからこそ効いてしまうのだ。少し卑怯な丸め込み方だけど許してほしい。そして一緒に頼んでくれた雛森さんにも感謝しておこう。

 

 しかし最後の大詰めともいうべき“打倒ミハイロ”について話していると、懐疑的な表情で霧ケ谷さんと楠様が割り込んでくる。


「――待て。そのリサって奴は本当にミハイロに勝てるのか? 相手はウチのオヤジ――九鬼や六路木でも倒せないような本物のバケモノだぞ。そこが揺らぐとこれまでの全ても崩れる」

「伝説の冒険者を倒せるのは、同じ伝説の冒険者か【聖女】様だけ。冒険者界では古くから言われていることですのよ」


 ミハイロは生ける戦略兵器とも言われ、単身で国家間戦争の情勢を覆すほどの戦闘力を持ち、その実力は世界でも五指に入ると評されている。世の中には尾ひれ背びれが付いて強さが誇張された冒険者なんてありふれているけれど、ミハイロの戦いぶりを実際に目にした私達なら、世間一般で言われている情報が真実であったと認めざるを得ない。


 そんな世界的な異常存在を、聞いたこともない日本人が倒せるなんて到底信じがたい……と言いつつも、その真意を探るように私に問い詰めてくる。それに答えるはもちろんアーサー君だ。

 

「準備を終えた本気のリサちゃんなら、ミハイロくらい倒せるってば。ボクの角を賭けてもいいよ?」

「……直接戦ったアーサー様の言葉なら……信じる他ありませんわね。にわかには信じがたいのですが」


 白い蜘蛛の姿で摩天楼の夜空を駆け、直接対決を繰り広げたアーサー君。ミハイロの実力を一番分かっているのは言うまでもなく彼であり、さらにリサの本当の(・・・)能力も知った上で「ミハイロを倒せる」と断言するならば、もう信じざるを得ないと霧ケ谷さんも楠様も押し黙る。 

 

「アラクネの体じゃなきゃボクが余裕で勝つってのは間違いないんだけどね! まぁアイツの首はリサちゃんに譲るとするよ」

「そのリサねぇのことだけど……さっきから何やってるの? お城の中から漂ってくる重い魔力……これってリサねぇのだよね」


 今、私達がいるお城の入口の、ずっと奥。恐らく最奥の“王の間”で、暗く巨大な魔力が(うごめ)いているのがそれとなく感知できる。びっくりするくらい荒々しく獰猛(どうもう)で、この吹き付ける雪よりも冷たく、でもそれがリサの魔力であることが分かってしまう。アーサー君が外に出ていたのもリサの魔力操作を邪魔しないための配慮だろう。

 

 親友達が身を削っている姿に忸怩(じくじ)たる思いはあるものの、ソウタ達が安心して戦えるよう、そしてリサが何の憂いもなく自由に戦えるよう私も急がなくてはならない。



 素早くプロテクターを再装着して準備を終えた雛森さんに頷き、それから爆破魔法陣の捜索任務における(かなめ)となる存在に向き直る。私が目を向けると彼女は不思議そうに顔を傾げて綺麗な羽を一度だけ震わせる。

 

「私と一緒に来て、力を貸してくれるかなっ?」


 フロアボスの魔石を食べたことにより能力が大幅強化され、上位種族へと変貌(へんぼう)を遂げた大いなる妖精・ダークフェアリー。その力があれば爆破魔法陣だってすぐに見つけられるはず。どうか一緒に来て仲間を救ってほしいと笑顔で手を差し伸べると、それに応えるように大きな金色の目を見開き――

 

〖ヤダッ……プップクプー……ベロベロベロ……〗

 

 盛大に舌を震わせあかんべー(・・・・・)をする妖精に、二の句を継げなくなる私達であった。


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