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災悪のアヴァロン【書籍7巻 コミック10巻 発売中!】  作者: 鳴沢明人


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119 笑顔の打ち合わせ

 眼下には、ところ狭しと巨大な工作機械が置かれており、その機械の合間を縫うように数十人の職人達が動き回り金属音と火花を飛ばしている。

 

「どぉーですかっ! 我ら天摩商会が誇る“DUX(ダックス)”の心臓部はっ!」


 鼻息を荒くし、こちらに向かって大きめの胸を張る黒崎さん。今日も黒いワンピースに大きなフリル付きの白いエプロンをかけ、ばっちりとメイド姿を決めている。彼女はこうみえても天摩家の武闘派執事・ブラックバトラーを束ねる長なので一流冒険者でもある。


『ウチの会社は冒険者向けにいろんな商品開発をやっているんだけどねー。その中でも一番売りにしてるのが、ここの工房で作っている“DUX(ダックス)”っていうブランド武具なの。トップクランや高位冒険者もウチの商品を使ってたりするんだよー?』


 顎の下の部分をパカリと開けて、紅茶のカップに口を付けながら丁寧に工房の説明をしてくれる天摩さん。今日もフルプレートアーマーは曇り一つないほどピカピカに磨かれており、周囲の照明を乱反射させている。

 

 ということで俺は今、天摩さんの家が経営している天摩商会に来ている。

 

 冒険者学校から車で30分ほど走ったところにいくつも工房やビルが連なって建っているエリアがあるのだが、その一帯全部が天摩商会関連の施設だ。社員も数万人に上り、冒険者関連武具を手掛けている国内企業の中では最大手。世界でも指折りのメーカーである。

 

 うちの店『雑貨ショップ ナルミ』も天摩商会のDUXブランドを客寄せのために置こうかと検討したことがあったのだが、安い物でも100万円以上するので売れない場合のリスクが高く、泣く泣く諦めた過去がある。このクラスの武具を置けるのは冒険者ギルドビルにある一流ショップか、いくつもの攻略クランを顧客にしている一部の大手ショップくらいなもの。いつかうちの店が大きくなったら置いてみたいと思っている憧れのブランド武具なのだ。

 

「でも……あの製作工程にはミスリルを使っているように見える……マジックフィールド外でも問題ないの?」

「当然です。我ら天摩商会は国から特別に人工マジックフィールドの使用許可を頂いていますので。そこらの武具メーカーとは信用も実績も格も違うのですっ!」


 茶菓子を齧りながらボソボソとした声で質問したのは、猫耳フードを被った久我さんだ。

 

 昨日、天摩さんからお茶会をしたいとの招待メールが届いたのだが、俺としても相談したいことがあったので飛びつくように快諾の返事をした。そして今日、時刻通りに待ち合わせ場所に行ったところ、同じく招待メールをもらったという久我さんもいて驚いたことを思い出す。クラス対抗戦のときの二人は犬猿の仲に見えたけど、実は仲が良いのだろうか。

 

 その久我さんが言っている質問。ミスリルはダンジョン内において水に浮くほど軽いが、マジックフィールド外においては銀と性質が変わらなくなる特殊な金属だ。重さや硬度、延性など全てが大きく変化してしまう。ほんの少しでも魔力が漂っているダンジョン数km以内ならともかく、魔力の全く無い場所でミスリル関連武具を作っていたら武具に思わぬ歪みがでてしまうのではないのかと聞いているのだ。

 

 しかし黒崎さんによれば眼下に見える製造現場では国から許可をもらった人工マジックフィールド発生装置が使われているので問題ないとのこと。人工マジックフィールドは安全や治安を考慮して国に厳しく取り締まられているが、天摩商会は今までの研究成果や武具製造で多大な功績を残し、男爵位までもらったほど信用があるため使用が許されている。これほど大規模にダンジョン産素材を使った武具の製造ができる工房は、日本でここだけだと言う。

 

 ちなみに天摩さんの鎧もここで作られたものらしい。純度100%の超軽量ミスリルと天摩家の持つ技術を惜しみなく使って組み上げられた特注品なのだそうだ。なるほど、道理であんな鏡のように光っていたわけか。

 

「天摩家の偉大さが少しは理解できましたか? そして、お嬢様はゆくゆくこの天摩商会の全てを継ぎ、数万もの人の上に立つ特別なお方なのですっ!」

 

 反り返るように胸を張り、俺に指差してくるメイドさん。最先端の機械が並べられた工房に、数多の熟練技術者達と、時価総額が数十兆円という企業価値。その全てを継ぐとなれば途方もなく凄いというのは分かるけど、黒崎さんは何故俺に向かって言うのだろうか。

 

『それでねー。今日、お茶会に二人を……成海クンと琴音ちゃん(・・・・・)を誘った理由なんだけどねー……その……』

「お嬢様っ、頑張ってください!」


 フルプレートアーマーを擦り合わせるようにもじもじとする天摩さんに、黒崎さんが小さく拳を握って頑張れコールしている。いつも明るく軽快な動きばかり見てきたので何だか凄く新鮮である。言いづらいようなことなのか、などと思いつつも久我さんを『琴音(ことね)ちゃん』と呼んだことが気になってしまう。

 

『えーと。ウチとその……一緒にパーティーを組まない?』

「パーティー?」

「……」


 パーティーとは狩り仲間になろうという意味だろうか。しかし天摩さんはいつも強力な執事部隊(ブラックバトラー)を引き連れて効率の良い狩りをしているというのに、どういうことなのか。

 

『いやね、ウチのレベル上げって安全な局面で思いっきり叩くだけっていう感じのが多いんだけど……あのとき3人で戦ってたときの、必死になって倒した高揚感や達成感が忘れられなくってね。あと秋の試験でも役割(ロール)を重視した“チーム対抗戦”があるでしょ? だから今のうちに練習したいなーって……どうかな?』


 早口で(まく)し立てるように理由を並べる天摩さん。そういえば秋にはチーム対抗戦があったっけか。クラス対抗戦のように単一種目に参加するとかではなく、魔石やモンスター討伐など複数のクエスト形式の課題を複数人で(こな)していく試験だ。

 

 チーム対抗戦の採点はクラスごとではなくチームごとにされるので、パーティーメンバーはどのクラスの人と組んでも良い。とはいえ、レベル差や派閥関係、別クラスへの敵対視などもあるので同じクラスメイトと組むのが一般的である。チーム対抗戦はそういったことを考慮しつつ、自分の不得意分野をカバーしたいのか、能力特化型にするのか、もしくは純粋に強い人を狙って組むのかを考えて組まねばならない試験だ。パーティー作りは奥が深いのである。

 

 上位クラスではチーム対抗戦を見越して今のうちから固定パーティーを作ってダンジョンダイブしている人達も多いと言う。うちのクラスでも磨島(まじま)君や赤城君あたりはチーム戦を意識して固定の精鋭メンバーで潜り、立ち回りや連携確認の練習を重ねているはずだ。


 隣にいる久我さんはどう考えているのかなと見ていると、軽く(うなず)いて天摩さんの誘いをあっさりと受け入れる。


「……私は賛成。レベル上げはもう一人では厳しいし、それに……美味しいもの食べられそうだし……」

「今晩は新鮮な魚介をメインとした地中海料理をご用意しております。ドリンクはいつものブラッドオレンジジュースでよろしいでしょうか」

「……それで……いい」


 これまで何度も食事に招待され、たらふく美味しいものを食べさせてもらっていたと言う久我さん。一見無表情だが、今晩も豪華ディナーを食べられると聞いてうきうきしているように見える。すっかり黒崎さんに餌付けされていらっしゃる。

 

 一方で『遠慮しないで食べていってねー』と機嫌良く言う天摩さんからも、久我さんをかなり評価していることが見受けられる。レッサーデーモン戦では背中を預けて戦った仲だし、実力を認めているだけではなく信頼関係や絆のようなものも生まれているのかもしれない。

 

(まぁ久我さんは最強格のヒロインだしね)

 

 無愛想でだらしないように見えても、プレイヤーを除けば冒険者学校の生徒の中では一番強く、イベント消化次第ではもう一段化けるというとんでもないヒロインである。多少へんてこな性格であっても味方につけておくべき人物だというのは間違いない。そういう意味では天摩さんももう一段化けるイベントを残しているわけではあるが――


(この誘いは俺にとっても渡りに船だ)


 アーサーからは『天摩さんを誘え』との催促メールが毎日のように届いていたし、久我さんからもダンジョンダイブしたいとの圧力が日々高まってきていた。リサともすでに相談済みで互いに協力できることはしたいと申し出も受けている。俺の中では久我さんと天摩さんを誘って狩りをすることは決定事項であったわけだが……問題は、どうやって誘おうか悩んでいたのだ。

 

 目の前でコロコロと笑っているフルプレートメイルの女の子は、超巨大企業の一人娘であり超上流階級の男爵令嬢。学校ではいつも執事共に厳重に守られていて近づけないし、俺からのメールや電話は全て執事がチェックしているようで完全シャットアウトされていた。

 

 そんな鉄壁ガードを無理に突破して接触しようものなら、執事どころか黒崎さんと本気(ガチ)バトルになりかねない。この見た目だけは清楚で美人なメイドさんはとんでもない能力と実力の持ち主なので、敵認定されたらたまったものではない。だからこうして天摩さんの方から誘ってくれたことは助かったと言える。

 

「俺で良ければだけど、もちろんOKだよ」

『ほ、本当!? ありがとー成海クン! 三人ならどこにでもいけそうだねー!』

「お嬢様っ、私を入れて四人でございますっ!」

『黒崎がいたらチーム連携の練習にならないでしょー!』


 黒崎さんは自分を含めた四人で組むものと思ってパーティー結成計画を支持したそうだけど、天摩さんとしては学校の試験を見据えて生徒だけで組むと言い張ったため、わいのわいのと言い合いが始まってしまった。その辺りの話し合いは事前にしっかりやってもらいたかったのだけど。


 しばし押し問答が続いたものの、結局は主人である天摩さんが押し通す形となる。黒崎さんはジトーッとした目を向けながら「私のいない間にお嬢様に指一本でも触れたらぶち殺す」などと俺だけに聞こえるように呟いているがスルーさせてもらおう。パーティーを組むことが無事に決まったなら俺も切り出さないといけない話がいくつかあるのだ。


「天摩さん。久我さん。二人に預かっているものがあるんだけど、ここで出していいかな」

『え? いいよー。でも預かっているって……マジックバッグ? わっ、凄い量!』

「……これは……武具?」


 足元に置いていた巾着をよっこらせと持ち上げる。これは容量だけでなく重量も大きく減らすことができるマジックバッグ(改)。マジックフィールド外でもこのバッグの効果は続くようだが、あまり長いこと放置していると中身が爆発して飛び出してくるので要注意だ。

 

 その巾着を地面に向けて逆さまにすると、朽ちかけていたり(へこ)んだ武具がガチャガチャと山のように出てくる。総重量は軽く1トンくらいはあるだろうか。眉を寄せた黒崎さんが近寄って手に取って調べる。

 

「これは……ただの屑鉄ではありませんね。僅かに魔力を感じますのでミスリル合金製でしょうか。これで調べてみましょう」


 黒崎さんが後ろにある棚から天摩商会と書かれた棒状の機械を取り出して宛てがう。魔力や比重、光の反射率からミスリルの含有量を調べる魔導具のようだ。こんなものがそこらに置いてあるとはさすがは天摩商会。

 

「武具としては寿命を超えているものばかりですけど、ミスリルの含有量はどれも0.1%を超えており良質なミスリル合金と言えそうです。これだけの量があれば純ミスリルの剣を2~3本くらい作れるかもしれませんが……これらをいったいどこで?」


 魔人の制約を解除するために、アーサーは蜘蛛の体で延々と“アレ”集めをしている。その際に大量のミスリル合金製武具が手に入るのだが、アーサーの衣服や防具は純ミスリルよりもさらにグレードが高いものなのですでにミスリルは必要ない。そこでクラス対抗戦で暴れたお詫びに、もとい、お近づきの印に天摩さんと久我さんにプレゼントしたいと渡されたものなのだ。


「これは俺の友人から迷惑をかけた詫びとして受け取って欲しいと言われてたんですよ。頭に巻き角を生やした魔人を覚えてるかな。アーサーって名前なんだけど」

「……あのちんちくりん……覚えている。とても興味がある」

『すっごい強かったよねー。ウチも思わず漏れ……何でもない』


 ちゃんと覚えていたようで何より。あのときは俺も大暴れしてしまったから責任の一端はあるのかもしれないけども。

 

「それともう1つ。これも受け取って欲しいんだけど」

「……手紙……招待状?」


 胸元から白い封筒を取り出して手渡すと、何だろうと首を傾げながら受け取る二人。中身を見てさらに首を傾げる。

 

『んー? 「ドキドキッ! 第一回“アレ”集め大会!」って書いてあるのかなー……うーん。アレって何だろう』

「文末に「優勝者には豪華賞品プレゼント、参加賞もあるよ」とも書かれている……とても気になる……」


 これはアーサーが開催する“アレ”集め大会の招待状。景品はアーサーの自宅がある38階層周辺で取れるドロップアイテムらしい。この世界では30階層以降のアイテムはオークションですら全く流通しておらず、相場など存在しない。どんなものを賞品としているのかは分からないが貴重なアイテムとなるのは確かだろう。

 

 というか、二人共。こんなミミズが這ったような汚い字をよく読めたな。


「そんな怪しげなものに大切なお嬢様をお連れさせるわけには――」

『楽しそう! ウチ、絶対参加する! 成海クンも参加するんでしょー?』

「もちろん。俺の友達も参加予定だよ」

「お、お嬢様っ! 悪い男に騙されているやもしれませんっ!」


 俺をギロリと睨んで低い声で参加拒絶の言葉を放とうとする黒崎さんだが、天摩さんが元気よく立ち上がり参加の意志を表明してしまったせいで、あわあわとたじろいでいる。


 元々はアーサーのために一肌脱いでやろうとサツキ、リサ、俺の三人だけでアレ集めする予定だったのだが、天摩さんを誘えない俺に痺れを切らしたアーサーが「絶対に二人を誘って来い」と言って豪華景品を付け、イベント化したものだ。

 

 しかしこういったイベントなら天摩さんの興味を引けて呼びやすくなるし、今後も開催できればアレ集めも加速するかもしれない。一石二鳥の作戦である。


「……でもこのイベント会場……ダンジョン“15階”と書いてある。開催は明日みたいだけど、今からでは間に合わない」

『あっ、ほんとだ! 走っていけばどうにかならないかなー?』

「お嬢様っ、それではトレインができてしまいますっ!」


 肉体強化にまかせてメインストリートを全力で走っていけば1日で15階到達もできなくはないが、そんなことをすれば後ろに巨大モンスタートレインができあがり、明日は新聞の一面を飾ることになってしまう。ならばどうするかだが、これには対策があるので何の問題もない。


「明日は俺が現地まで案内するから大丈夫。待ち合わせ場所は冒険者ギルド広場でいいかな」

「……特別な手段でもあるの? ……気になる」

『黒崎、明日の準備お願いね。鎧は一着でいいかなー。あ、もっと可愛いのがあったよね』

「お、お嬢様っ! もう少し慎重にご検討をっ!」


 

 これで二人の攻略イベントに向けて最初の一歩を踏み出すことができる。天摩さんの近くにいられるなら解呪イベントを後押しできるだろうし、久我さんとの親密度を上げていけば今後起きるであろう破壊的イベントに進まないように誘導することができるかもしれない。

 

 現時点では二人とも難を抱えているため力を十分に発揮できていないけど、制約から解き放たれ自由となればプレイヤーにも匹敵するヒロインへ成長することだって可能。問題は、攻略イベントを進める準備が全くできていないということだ。


 本来ならレベルやイベント進行の都合上、もっと後に動こうと考えていた案件であった。強力なモンスターや国家組織を相手取る必要があり、普通にやれば周囲に被害がでてしまうので入念な準備が必要となるし、その上ゲームと違って全てが一発勝負。失敗は即バッドエンドとなるので許されない。もっと多くのイベントを(こな)してレベルを上げ、確実性を高めておきたかったというのが本音だ。

 

(それでも。ゲームストーリーが不安定になる前に――)

 

 隣では久我さんが茶菓子を高速で口に運んでリスのように頬を膨らませており、テーブルの向かいでは天摩さんがどんな鎧を着ていこうかと楽しげに笑っている。そんな姿を見ていると、何としてでも二人をハッピーエンド軌道に乗せてあげたいという思いが強くなる。


 胸の奥底でじわりと広がる焦燥感を隠しつつ、俺は笑顔で明日の打ち合わせへと入るのであった。

 

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