111 傀儡の生徒会長
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「おっせーぞ。早く渡せっ」
「ちょっと混んでてさ。でも全員分はちゃんと買えたから……」
「せっかくソウタが買ってきてくれたのにっ。磨島君はもう少し言い方を考えてっ」
昼食の時間となり、俺と立木君、サツキ、リサの四人は人気のないところへ行き、赤城君と磨島君に今朝のことを事情聴取することとなった。教室や食堂にいればまた第二剣術部に絡まれる可能性があるためだ。
昼食を食べながら話し合うつもりだったので、買い出し役は一番目立たない俺。購買でもみくちゃにされながら何とか全員分のパンと牛乳を確保できたわけだが……磨島君に遅いと叱られながら手早く皆に配っているところである。サツキの優しいフォローが目に染みるぜ。
ちなみに赤城君と磨島君は【プリースト】の先生に治療してもらったことで打ち身や傷はほぼ消失し、今は絆創膏をいくつか貼っているのみ。教室に投げ込まれたときは自力で立てないほどズタボロであったというのに魔法治療を行えばあっという間である。
「ありがとう、えーと名前は……まあいいか。それで登校時にいきなり捕まったんだよ。実力を見せろとか言って」
「俺もだ。やり返してやろうと頑張ってみたが手も足も出なかったけどな」
俺からパンを受け取った赤城君が捕まったときの状況をぽつぽつと話し始める。それによると、寮を出たところで実力を見せろと言われ、わけも分からず第二剣術部の訓練場まで連れてこられ袋叩きにされたようだ。負けん気が強い磨島君はやり返そうとしたものの格上が複数人相手では抵抗すらできなかったと拳で地面を叩いて悔しがる。
「実力といっても、二人のレベルは分かっていたのでしょ~?」
「うん。オレは端末画面を見せて何度もレベル6だと言ったんだけど、問答無用だったよ」
「レベルなんて偽ったり隠すもんじゃねーと思ってたが……まぁ大宮の例もあるしな」
向こうも二人のレベルは承知のはずなのに何故試したりしたのかとリサが首を傾げる。生徒に配布されている端末では各生徒のレベルが一覧で閲覧できるようになっており、誰がどの程度のレベルなのか一目瞭然。赤城君も一覧に載っている通りレベル6だと言ったのに信じてもらえなかったようだ。
一方の磨島君はサツキの方を見ながら訝しむ。普通は自分が弱いと見られると学校内の立場も弱くなるだけなので、レベルが上がればすぐに鑑定マシンを使ってデータベースを更新するものだが、サツキは更新しないままだった。もしかしたらレベル申告をしない生徒も少なからずいるのではと疑っているのだ。
「それと殴られてるときに何度も「Eクラスで一番強い奴は誰だ」と聞かれたな。現状、俺らの中で一番強いっていったら大宮だろ。あいつらが探しているのも大宮じゃないのか?」
磨島君のダンジョンダイブ経験から言えば、入学してからこれまでの短い期間でサツキ以上にレベルを上げることはまず不可能。だからこそEクラスで一番強いのはサツキだと断言できるのだそうな。まぁそれもプレイヤーというチート的存在を除けばの話だけど。
「でも~第二剣術部がサツキを何のために狙うというのかしら」
「“足利”の命令だと言っていたな。データベースでその苗字を検索してみたところ、ヒットしたのは一人のみ。この人物は少々問題があるぞ」
立木君がパンを齧りながら端末を操作して画面を見せてきたので皆でのぞき込む。そこには、とある男子生徒のデータが表示されていた。
足利圭吾。2年Aクラス。子爵家嫡男。第一剣術部所属。校内の武術大会では剣術部門で準優勝。
目つきは鋭く、相当に鍛え上げられていると分かる体つき。顎の引き方や姿勢などからも上流階級というのが一目でわかるような人物だ。校内でも幅を利かせているであろうことは容易に想像できるが、俺のゲーム知識には入っておらず顔を見ても情報は何も浮かばない。リサの様子を見ると同じように俺を見て首を傾げていたことから、やはりゲームでは登場しない人物の可能性が高い。
「今朝のあの人達を動かしていたのは第二ではなく第一剣術部? カヲルから聞いた大宮さんのレベルって10くらいって聞いているよ。失礼な言い方かもしれないけど……第一剣術部が警戒して動くほどではないと思うんだけど。どうなのかな」
「……ごめんねっ。私のレベルとか詳細は言わないようにしてるの。でも足利という人よりレベルは大分低いし、それにどちらの剣術部にも狙われる心当たりは無いよっ」
カヲルはクラス対抗戦でサツキが戦っているところを見てレベル10相当だと判断したとのこと。一方の足利はデータベースによればレベル19。第一剣術部には他にもレベル15以上がごろごろいるわけで、わざわざサツキを警戒するほどなのかと疑問を投げかける。一方のサツキはそれを遠回しに肯定し、狙われる心当たりもないと言うが……理由もないのにあれほど強引な手段を使うだろうか。何らかの理由があるはずだ。
「何を考えて第二剣術部を動かしたのか、足利に直接問い質したいところではあるが、相手は貴族。僕らなんて相手にしないだろう。仲介してくれる貴族に心当たりはなくもないが……それは最後の手段と思っている」
聞けば第一魔術部に伝手があるという立木君。彼のストーリーを進めていくと第一魔術部を動かしている女の子の話が出てくるのだが、彼女はゴリゴリの貴族主義だったはず。立木君本人の悩みならともかく、Eクラスの問題を持ちかけたところで親身になって考えてくれるとは到底思えない。
「……さて、二人に聞けることはこれくらいか。この先は僕らなりに動いてみることにする。ユウマと磨島は大丈夫だとは思うが、何かあったらすぐに連絡をくれ」
「あぁ分かった。だがまぁクラス最強の大宮に、参謀の立木、クラス一の学力を持つ新田がサポートについて動いてくれるなら俺としても頼もしい限りだぜ」
「確かにね。新田さんとナオトなら大宮さんを守れるって気もする。でも気を付けてね」
教室へ戻っていく二人に向けてにっこりと微笑み手を振るリサと、俺を横目で見ながら苦笑いをしているサツキ。当然「あの、俺もいるんですけど……」なんて野暮なことは言わない。目立っても動きにくくなるだけだからだ。ここはサツキとリサに頑張ってもらわないと。
事情聴取も終わりこれでゆっくり食べられると思いきや一人、俺に厳しい視線を送ってくる者がいた。
「――ところで成海。お前はどれくらいの強さで何ができるのだ」
立木君は何かを考えるように人差し指で眼鏡を上げてから、再度鋭い視線を向けてくる。
「え? えーと、さっきみたいな雑用くらいなら――」
「ふざけるな。そんなことのためにわざわざ新田が呼ぶわけないだろう。僕の勝手な予測だが……お前と新田は、大宮と一緒のパーティーを組んでいるんじゃないのか。レベルだって大宮と同程度まではいかなくとも、データベースに載っている数値ほど低くはないはずだ」
さすがは立木君、鋭いね。ゲームでも機転を利かせて幾度も主人公パーティーを救ってきたインテリキャラだけのことはある。だけど今は言うつもりはない。言えばきっと俺の強さを勘定に入れたクラス運営や作戦を考えてしまうからだ。ここは惚けることに徹しよう。
「言わないか……まぁいい。だがこれからはお前を新田や大宮と同列に扱うことにする。それは僕の信じる新田が、お前を信じているからだ。見た限りでは大宮からの信頼も厚そうだしな。この先、危険を伴うかもしれないけど遠慮なく頼るぞ」
「ふふっ。頼りにしてるからね~」
「で、でもでもっ。基本的には前に出ないで後方支援のほうがいいかな? ねっ、ソウタ」
サツキがさりげなくフォローしてくれるものの、立木君は俺の立ち位置をどうするかは後回しにすると言って今朝の出来事の振り返りに入ってしまう。
「まず、現在分かっていることと言えば。第二剣術部がEクラスで一番強い人を探していること。その第二剣術部を動かしているのは第一剣術部の足利という男。このくらいだが……気づいたことはあるか?」
といっても、この少ない情報から相手の意図を読み取るのは不可能に近い。ズタボロにされた赤城君と磨島君ですら状況がよく飲み込めていなかったくらいだし。それでもサツキが気づいたことを言葉にしていく。
「第一剣術部といえば、いくつも部活動を傘下に置く大派閥のドンだよねっ」
「この学校を事実上動かしている“八龍”という8つの派閥の内の1つね~」
「足利が単独で動いている可能性もあるので、相手が第一剣術部と決まったわけではないが……もし第一剣術部が動いていた場合は深刻だ」
八龍は部活動だけでなく試験や進路など様々な学校運営にも深く関わっている。その八龍と戦うということは冒険者学校に立ち向かうのと同義。挑んだところで勝敗はすでに見えていると主人公パーティーの参謀らしからぬ弱気な発言をする立木君。
「保健の先生や村井先生に今朝のことを言っても訓練の一環としてしか見てくれず問題視してくれなかったし……このまま暴力を振るわれ続けても指をくわえているしかないのは、嫌だよねっ」
スカートを掴み、悔しそうに俯くサツキ。ゲームでは上級生や貴族相手でも真っ向から立ち向かってしまったので過剰な報復の対象となってしまった。目の前にいるサツキも同じように立ち向かうのではないかと少し心配だ。
「そもそもだが、今朝のことだけが問題だったわけではない。先のクラス対抗戦においても不公平な“助っ人ルール”を採用してきたり、トータル魔石量グループが失格にされたこともだ。いや、もっと前の決闘騒ぎだって仕組まれたものだろう。明らかに外部生であるEクラスを潰そうとしている。これら全てに八龍が絡んでいたのではないかと僕は睨んでいる」
八龍の悪意によりEクラスは不当に押さえつけられていると主張する。まぁゲームでも黒幕は八龍だったし立木君の推測は当たっているのだろう。問題はその対策だ。
「なら立木君は、Eクラスを守るにどうしたらいいと思うの~?」
「ふむ。これは以前、新田に話したことだが――」
まともに戦っても勝ち目がないのなら従属し攻撃の対象から外してもらえばいい、とのこと。八龍の傘下に入ることができれば上位クラスはもちろん、足利のような上位貴族や第一剣術部であっても簡単には手を出せなくなる。
今考えているのは、もうすぐ始まる次期生徒会長選挙を利用した策。八龍が次期生徒会長の座を巡って争うのは例年行われていることであり、今年も必ずEクラスの票も狙ってくる。そこでこちらが先に動いて票を手土産にし、八龍のいずれかに近づこうというわけだ。
「交渉に成功すれば理不尽なルールや暴力から守られ、Eクラスの立場も少しは向上するだろう。だが失敗すれば……八龍の全てから睨まれる可能性もある。その場合は今よりも劣悪な状況に追い込まれるのは必至だ」
その考えは俺もリサから聞いていたし、ゲームのときの立木君も八龍のいずれかに従属しようと動いていたので驚きはない。しかしこの時期、この段階での接触はどうなのか。
本来なら八龍に接触するのは、生徒会長となった世良さんと赤城君に良い関係が構築できた後、時期的には次期生徒会長選挙の何ヶ月も後のことだった。世良さんが生徒会を動かしてEクラスに対する融和策を打ち出したため、いくつかの八龍が反発。Eクラスの生徒が次々に暴力に巻き込まれたり決闘イベントが多発したため、致し方なく八龍に接触したという流れであった。立木君が動くタイミングがゲームのときよりも大分早いのだ。
それにEクラスの票を手土産に八龍を口説き落とすという作戦にも懸念が残る。リサも同じように思ったのか懸念点を指摘する。
「でも、票をあげたところで八龍は満足してくれるかしら。本当に自分達の傘下に入れる価値があるのか、きっと試してくるはずよ~?」
「価値を試すって……やっぱり決闘を求めてくるのかなっ」
基本的に八龍は戦闘系の部活動ばかりなので、頭を使った交渉術よりも拳で物事を決めようとする脳筋が多い。そんな相手に自分達の価値を認めさせるようとするなら、それこそ決闘で幹部共と戦って黙らせるくらいの力を見せる必要がでてくる。
もちろんそんなことができるクラスメイトなどいないと立木君も十分承知のはず。恐らく捨て身で舌戦を仕掛けようとでも考えているのだろう。だが懸念されることはそれだけではない。
「あとはどこに交渉するのかも問題。八龍といっても価値観や考え方は色々あると思うし、ちゃんと狙いは絞ったほうがいいわね~」
「確かにっ。八龍の色んなところに声をかけていたら信用も失うしね。でも私達Eクラスを理解してくれるところなんてあるのかな……」
八龍によってはEクラスを蛇蝎のごとく嫌っているところもある。ゲームで言えば第一剣術部、第一魔術部などがそうだった。この2つの派閥は貴族第一主義なので避けたほうが無難だろう。
「どの八龍に交渉するかだが、今のところ僕が考えているのは――生徒会だ」
「せ、生徒会? これから選挙で生徒会長が変わるのにっ?」
「う~ん……」
世良さんの前の生徒会長、つまり現時点での生徒会長はゲームにおいて無能の代名詞だった。名前や顔もでてこないモブで、いわゆる世良さんの業績を良く見せるための踏み台キャラである。高位貴族なのでレベルだけは高いかもしれないが大した実績はなく、世良さんと違って八龍を動かそうともせず、また大きな改革をするわけでもなく、八龍の傀儡という低い評価だったはずだ。
そんな暗愚な生徒会長の傘下に入ったところでまともに八龍を牽制できるのだろうか。
(――いや。逆に言えば現生徒会長を口八丁で手玉に取る作戦はありといえばありなのか?)
気位だけは高そうなのでそこを的確にくすぐるような交渉スタイルで臨めば意外に何とかなるかもしれない。他の八龍は脳筋が多い上に頭のキレるインテリもいるので、それらと比べれば交渉難度は大分低いと思われる。
そして仮にも生徒会。権限が多く与えられているおかげで八龍内では最大権力を有する。対八龍に関してはまず取り入って何ができるか精査してから考えてもいいだろう。ただし、現生徒会長の任期が残り少ないため動くなら早いタイミングで仕掛けないといけない。
「反対はしないけど~どうして生徒会なのかな~?」
「それは簡単だ。今の生徒会長は理知的で公平。実力も高く優れた人物であると聞いているからだ」
「え~!?」
「そうなのっ? それなら期待できるかもっ」
現生徒会長が有能であるならば八龍に対して強力な牽制にもなるし、公平ならばEクラスの陳情も聞き入れてくれる可能性がある。また噂通りできた人物というならば、たとえ交渉に失敗してもリスクは少ないと付け加える立木君。
その思ってもいなかった理由にリサも俺も驚くしかない。ゲームで言われていた通りの人物ではないのか、はたまた立木君の仕入れた情報に誤りがあるのかは判別できない。
そんな中、俺の端末に一通のメールが届く。送り主は――生徒会だ。
『今すぐに生徒会室へ来ること。以上』




