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災悪のアヴァロン【書籍7巻 コミック10巻 発売中!】  作者: 鳴沢明人


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109 いつもの定位置

『悪魔城でのことは全部秘密にって? 成海クンがそう言うならもちろん秘密にするよ!』


 俺は今、長い黒塗りリムジンの後方席にいる。左側には頭の先から爪先まで金属に覆われた女の子、天摩さんが座っている。今日もピカピカに磨かれており、朝の太陽光が反射してとても眩しい。

 

 そして俺を挟んで右側には艶のあるロングな黒髪にカチューシャをかけ、ばっちりとメイド服を着こなした美人メイドが座っている。天摩家お抱え執事“ブラックバトラー”を率いる執事長の黒崎(くろさき)さんだ。

 

 とても似合っている、と言いたいところだが「ちょっとでもお嬢様に触れたら、お前は即終了だ」と小声で呟いてくるので何とも居心地が悪い。まだ俺は人生を終了したくないので天摩さんに触れないように極力頑張ってはいるのだけど、大型リムジンとはいえ一列に3人座るとかなり姿勢が苦しい。

 

『でもダンジョンから帰ってくるときは凄いスリムになってたのに、また戻っていて驚いちゃったよ。体調は大丈夫なの?』

「大丈夫。ちょっと食べ過ぎただけだから」

『そうなんだ。ウチもつい食べ過ぎちゃう癖があるから気を付けないとっ』


 復活した見事な太鼓腹をポンポンと叩き大丈夫だとアピールする。ダイエットの話にとても興味がある天摩さんには衝撃だったらしく、俺の姿を見たときは変なポーズで固まっていたほどだ。


『ところでさ、夏休みなんだけど一緒に狩りに行こうよ。成海クンとなら結構いいところまで潜れると思うんだよねー』

「なりませんっ! ケダモノと一緒に潜るなんて絶対になりませんっ!」

『もうっ。黒崎は成海クンを何か誤解してるね。まぁー考えといてくれると嬉しいかな』


 冒険者学校の生徒は夏休みを利用して長期のダンジョンダイブ計画を組むのが一般的だ。天摩さんの場合は去年までお抱えの黒執事達をお供にして潜っていたらしいが、今年の夏は俺と一緒に潜りたいと誘ってくれる。それを聞いた執事長は「絶対に二人きりにさせてなるものか」とついて行く宣言をして息巻いている。

 

 しかし夏休みか。今のところ何かをやろうという計画はない。いつも通り家族かサツキ達とダンジョンダイブするくらいだと思うので時間はあるといえばあるのだが、ゲートを使わず潜るとなれば1ヶ月以上拘束されるのは間違いなく、往復の時間が非常に無駄になる。その問題をなんとかしない限り一緒に行くというのは……

 

(……いや。アーサーにゲートを出してもらえれば行けるのか?)


 最初にアーサーが登場したときを思い出す。通常、《ゲート》の出口はダンジョン外かゲート部屋にしか指定できないものだが、アーサーは何故か聖堂広間の中央に《ゲート》出口を作って出てきた。もしかしたら任意の場所にゲートを出す方法を知っているのかもしれない。それを利用すれば天摩さんとお供を連れて一気に20階まで行けるはずだ。

 

 それに俺の方だって天摩さんと一緒に潜りたい理由はいくつかある。一つは呪いを解いてあげたいことだが、もう一つはアーサーからメールと電話で何度も天摩さんを引き込めと言われていることだ。俺とサツキのように共闘関係になりたいのだろう。そうなるためにはプレイヤー知識の一部を共有することが前提となる。


『前に潜ったときに“マムゥ”がいっぱいいるところを見つけてねー。それはもう食べ放題だったんだよ。今年は成海クンと一緒に食べたいなー』

「お嬢様っ! あの後体重を落とすのにどれだけ苦労したか思い返してくださいっ」

 

 隣でコロコロと笑いつつ楽しげに話す天摩さんだけど、大悪魔(レッサーデーモン)を前にして俺を見捨てず命を張って庇ってくれた姿は今でも鮮明に覚えている。信頼に値する人物であることに疑いようはなく、プレイヤー知識を渡すことについて異論などない。


 だがゲートを含めたプレイヤー知識は漏れた場合の影響が甚大であり、貴族であっても危険な状況に陥らせてしまうヤバい代物だ。味方に引き込む際は慎重に事を進めなければならない。早めにリサとアーサーとで集まって協議を行いたいところではあるが――

 

「ありがとう、前向きに考えておくよ。あと……天摩さん。俺を迎えに来なくても大丈夫だよ?」

『ええっ、迷惑だったかな』


 実は先ほどちょっとした騒動が起きていた。学校に行くために準備をしていたところチャイムが鳴ったのでドアを開けて出てみれば……サングラスをかけた十数人の執事が玄関に立ってこちらを睨んでいたのだ。家の前にはこのリムジンを含めた黒塗り高級車が5台も停まっており、近所の人や道行く人が何事かと集まる始末。腕を掴まれ強制的に後部座席に乗せられてみれば天摩さんが座っていたというわけだ。

 

 友達のよしみでこれから毎日迎えに来てくれるとのことだけど、俺の家は冒険者学校まで歩いて5分もかからないほどに近く、それ以前にこんな騒動が毎日続くのはちょっと気が引けてしまう。なのでやんわりと断りを入れておくことにした。

 

『分かったよ。でも迎えに来て欲しいときはいつでも言ってね?』

「その気持ちだけでも嬉しいよ」


 右隣では黒崎さんが「お嬢様のお誘いを断るとは……いや、これでケダモノと距離を置くことが……」などと言いながら拳を振り上げたり下げたりと忙しない動きをしていた。




『それじゃーまた後でねー!』

 

 そう言って車から降り、颯爽と去っていくリムジンを見送る。俺の後ろにはジト目でずっと様子を見ていた幼馴染(カヲル)が立っているではないか。さて何て言おうか。

 

「今の、Aクラスの天摩晶さんよね。随分と仲が良さそうに見えたけど」

「こないだのクラス対抗戦で気が合ってさ。友達になったんだ」

「友達って……でも彼女は(れっき)とした貴族様よ。大丈夫なの?」


 貴族は社会の上流であるがゆえに庶民にとって憧れの対象であるものの、同時に気に食わなければいつでも権力を振りかざし、庶民を封殺することも(いと)わない恐怖の象徴でもある。今は気を許して仲良くなれたとしても、いつ気が変わるとも知れないし、たとえ天摩さんの気が変わらなくても周囲がその関係を許さない。だから庶民である自分達は貴族と安易に近づくべきではない、と遠回しに忠告してくる。

 

 確かに普通はそう考えるしそれが正解なのだろう……が、最低でも天摩さんの呪いを解くまで離れるつもりはない。とはいえ余計なトラブルを起こさないためにも皆が見ている前では気安く天摩さんと接することは控えたほうが良いだろうな。

 

「でも……颯太は変わったわ。ちょっと前までは誰かと仲良くなろうとするなんて……それどころか私以外とまともに会話すらしなかったのに」


 そういって中学時代の俺を思い出すカヲル。当時の俺はツンケンとしていて誰にも気を許すことなく孤立していたらしい。ゲームに登場するブタオもそんな感じだったし想像に難くない。

 

 だけど昔を語るカヲルは微笑むような、そして少し寂しそうな何とも言えない複雑な表情をしていた。中学時代の(ブタオ)はカヲルに滅法嫌われていたのは確かだろうが、それだけではない何か複雑な思いが垣間見えた気がする。

 

「さぁ早く行きましょう。もう大分遅れてしまっているし」


 そう言いながらカヲルが歩きだしたので、すぐにカバンを持ってその後ろをついていく。ここがいつもの俺の定位置だ。

 

 すでに6月も終わりが近づき例年なら梅雨入りしていてもおかしくない季節なのだが、空は雲一つない快晴である。朝っぱらから気温も高く、この太った身体には少々(こた)えるね。

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