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災悪のアヴァロン【書籍7巻 コミック10巻 発売中!】  作者: 鳴沢明人


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107 成海家と一匹の蜘蛛

 雑草が(まば)らに生えているだけの乾燥したエリアを雑談しながら移動する成海家と、一匹の蜘蛛。


「召喚魔法ってこんなこともできるんだねっ。でもその乗り移る(・・・・)ってどんなスキルなの?」

「キィ? キィ!」


 華乃が俺の肩の上に乗っている白い蜘蛛をツンツンと突っつく。20階広間での一悶着の後、アーサーが一緒に行くと言い出したのだ。しかしMAPを自由に行き来できないという“魔人の制約”があるため、目的地である21階について行くことはできない。そこで召喚獣の五感を借りるスキルで蜘蛛に乗り移り動かしているのだ。


 蜘蛛(アーサー)は華乃に何か言いたそうだが声帯の無いバージョンのアラクネになっているので話すことができない。そのため俺に向かってキィキィと鳴き、説明をしてあげろと訴えてくる。

 

「《憑依(ひょうい)》といって召喚獣が覚えるスキルだな。こうやって乗り移ることで偵察などに使えるけど小さな召喚獣は大抵弱いし、戦闘能力が高めの大きな召喚獣だと動きにくい。それに《憑依》の状態では召喚獣のスキルしか使えなくなるから使いどころの難しいスキルなんだ」

「へぇ……でもいろんな召喚獣になれるなんて面白そうっ」

「飛行タイプとかは面白いかもしれないな。でも召喚獣もスキル枠に限りがあるから《憑依》なんてスキルを残す人は少ないんだよ」


 偵察目的なら召喚獣にならずとも隠密スキルを使える本体で行なったほうが成功率は高いし、戦闘能力という面でも大抵の召喚獣は召喚者自身よりも弱いので微妙。そも、召喚魔法は召喚者と一緒に戦えることが最大の強みなのに、それを捨て去っている時点で死にスキルにならざるを得ない。そんなスキルがあること自体、俺もすっかり忘れていたくらい価値のないスキルであったのだが、こちらの世界では色々と使い道がありそうだ。

 

「召喚獣は死なないから危険はないし、アーサーの本体が入れないエリアでもこうしてアラクネの体なら入れる。消さずにいてよかったな」

「キィ!」


 4本の脚で立ち、もう4本の脚で器用にぱちぱちと叩いて喜びの気持ちを表す蜘蛛(アーサー)。どういう感覚で体を動かしているのか気になるので後で聞いてみよう。ちなみに本体は誰も来ない38階の拠点にいるので安全である。


「ねねっ、私にも覚えられるかな?」

「召喚魔法が使える【サマナー】は魔法系のジョブをいくつも覚えて行かないと無理だぞ。それ以前に華乃はシーフ系のジョブを極めるんじゃなかったのか?」

「そうだった……先にこっちを頑張らないとっ」


 そう言いながら華乃がそこらを駆け回り、蜘蛛(アーサー)も追いかけて戯れる。それを横目に俺と親父、お袋がゆっくりとついていく。気温も湿度もそれほど高くはなく、爽やかな風も吹いているので大変心地が良い。


長閑(のどか)ね~、本当にダンジョンの中なのかしら」

「そうだな。壁はないし天井も青いし、襲ってくるモンスターも見えないし」


 お袋と親父が大きな皮袋を背負いながら寄り添うように歩いている。このフィールドMAPはルートを間違えなければ積極的に攻撃をしかけてくるアクティブモンスターに出会わず移動することができるので、すっかりピクニック気分だ。

 

 遠くには角が2本生えたサイのようなモンスターの群れがもそもそと草を食べているのが見える。あれもアクティブモンスターではないが、先制攻撃できたとしてもHPが多い上に周囲の仲間と確実にリンクしてしまうため、狩りには向かないモンスターだ。

 

 上空には豆粒のように小さく見える鳥型モンスターが単体で飛んでいる。あれは翼を広げると5m近くある大きな鳥なのだが高高度過ぎて小さく見えているだけだ。あの高さでは並みの魔法や矢は届かないため、あれも通常の手段では狩ることができない。


 では何を狩れるのかといえば、22階へ行くメインストリートを歩いていけばマムゥという巨大人食いトカゲがポップする。以前に天摩さんと食べた美味い肉を落とすので、見かけたら何匹か狩りたいところだ。だが今日のターゲットはこれらとは別である。

 

 

 

 景色を見ながらさらに30分ほど歩き続けていると、前方に赤茶けた色の砂丘が見えてきた。


「あの砂漠みたいなところ、あそこがおにぃが言ってた目的地かなっ?」

「キィ!」


 そうだと言わんばかりに蜘蛛(アーサー)が声を上げ、俺の肩からぴょんと飛び出していくと、華乃も一緒になって駆けていく。砂丘自体はそれほど広くはなく、せいぜい1km四方ほど。近くにある適当な広さの岩盤を見つけ、そこをキャンプ地とする。


 荷物を置いて狩りに必要なものを取り出したら作戦会議だ。


「それじゃあ“ミミズ狩り”の説明するから聞いてくれ」

「こんな乾いたところにミミズなんかいるのか?」

「岩と砂しか見えないわね」


 ミミズとはもっと水が多い場所にいるのではないかと親父とお袋が疑問を呈する。前方にはポツンポツンと大きな岩が点在しているものの、それ以外は全て砂。植物どころかモンスターの姿も一切見当たらないのでそう思うのも当然だ。華乃は本当にこんなところにミミズがいるのか砂を手に取って確かめている。だが目的のモンスターはあの砂の中に(ひそ)んでいるのだ。

 

「華乃、砂には入るなよ。襲ってくる可能性があるからな」

「この砂の中?」

「そうだ、見てろよ」


 置かれた皮袋から腐肉を1つ取り出し、持って来たワイヤーに引っ掛けて放り投げる。待つこと30秒足らず。砂がもぞもぞと動き、勢いよく腐肉が砂の中に引きずり込まれた。食いついたのを確認してからワイヤーを引っ張ると――

 

「モンスターレベル21のサンドワームだ」


 長さ2m強、太さ30cmほど。ミミズのようにうねうねしたモンスターが釣り上がる。重量も優に100kgは超えているが今の俺の肉体能力があれば問題はない。岩の上まで引っ張るとビチビチと活きの良い魚のように跳ねまくる。

 

「でっかっ! ミミズって言うからもっと小っちゃいのかと思ってた」

 

 華乃と蜘蛛(アーサー)が近寄って覗き込む。吸盤のように丸い口をしているが、よく見ればその中は牙が螺旋状にびっしりと生えていてグロい。普段は砂の中に隠れていて、上を歩く獲物をあの口で噛みついて引きずり込む獰猛(どうもう)なモンスターなのだが、こうして岩盤に上げてしまえば潜って逃げることもできず、ただ跳ねるだけの巨大ミミズにすぎない。

 

「口に注意しながら叩いてくれ」

「パパ、いくわよ!」

「ああ!」

 

 お袋と親父がそれぞれ持っていたメイスと大剣を振り下ろす。一方的に攻撃できるためリスクはほぼない。俺も混じってエイエイと袋叩きにしているとやがて動かなくなり魔石と化した。華乃がその魔石を拾い上げて首を傾げる。

 

「おっきな魔石……だけど他には何も落とさないの?」

「稀にマジックバッグの材料となる[サンドワームの胃袋]を落とすぞ。売ればいい金稼ぎにもなる」

「そういえばギルドの知り合いがマジックバッグは何かの胃袋だって言ってたけど、サンドワームのことなのねぇ」

 

 サンドワームは自分の体の大きさの何倍もの容量を食べることができるのだが、それも胃袋に“空間収縮”と言う特性が備わっているからこそ。その胃袋で作ったマジックバッグも同様に見た目以上の体積が入るので、一流冒険者のダンジョンダイブには欠かせないアイテムとなっている。

 

「でもこんなに簡単に倒せるのにマジックバッグはどうして安くならないのかしら」

「キィ……?」


 冒険者ギルドで買うとなると安い物でも数百万、大きなサイズになれば一千万円を超えてくるとお袋が言う。ダンエクでは二束三文であっただけに、アーサーも何故そんなに高額なのか納得がいかないようだ。

 

「腐肉で釣るという簡単な倒し方が一般的冒険者に広まっていないのもあると思うけど、普通のエリアでサンドワームがポップするのはもっと下の階層だからじゃないのかな」

 

 この砂丘一帯はDLCで追加された拡張エリアなので認識阻害がかかっていて、普通の冒険者では来ることのできない領域だ。通常MAPでサンドワームがポップするのは25階以降になるのだが、そこまで潜ることができるのは攻略クランや大貴族に囲われている一握りの冒険者のみ。その上、往復で1カ月近くかかるため、ほとんどのドロップアイテムが高額化している。

 

「あとは、抽選ポップ(※1)でたまにギガントワームっていうのが引っかかることがある。そいつが釣れたら皆で引っ張り上げるぞ」

「ギガント? さっきのよりもおっきいのがいるの?」

「ああ。1日に一匹だけしか釣れないレアモンスターだけど、俺たち以外に誰も来ていないし、あの砂の中にいるはずだ。その胃袋で作ったマジックバッグは容量だけじゃなく重量も軽くなるので絶対に手に入れておきたいんだ」


 サンドワームで作ったマジックバッグは容量が小さくなっても重さは変わらないので持ち運びは疲れるし、皮自体の強度もそこまで強くはないので下手に物を詰め込めば皮が破れてしまう危険がある。一方、ギガントワームのマジックバッグ改は丈夫だし重量も軽くなるのでポケットに百kg級の鎧を詰め込むことも可能。戦略的に幅が広がるのだ。


「重量も軽くなるバッグなんて市場で流れた記憶はないわね。凄いわ~」

「とんでもない値段が付きそうっ。国宝指定されるかも!?」

「キィ!?」


 売ったら果たしていくらの値が付くのか。お袋と華乃、そして蜘蛛(アーサー)が目を輝かす。十分な数のマジックバッグ改が手に入ったら売ってもいいのだが、足が付きやすいので個人売買、もしくは安全なルートを確保するなど市場に流すときは慎重に期すべきだろう。


「じゃあいっぱい倒してたんまり稼ごー!」

「そうだな、腐肉ならたくさん持ってきたし」

「アーサーちゃんもはい、これ」「キィ!」


 金が儲かると知って華乃が号令をかけ、いそいそとワイヤーに腐肉を引っかける現金な成海家。アーサーもお袋からワイヤーを手渡され釣りに参加する。アラクネの体は俺の手を広げた程度の大きさしかないが力はあるので大丈夫だろう。

 

 誰もミミズ釣りをしていなかったからか放り投げればすぐに食いつく、まさに入れ食い状態。これだけ釣れるならギガントワームもすぐに引っかかることだろう。アーサーも体を器用に動かしながら腐肉をワイヤーにセットして放り投げている。



「キィキィ!! キィーーー!」


 誰かが釣りあげたらみんなで叩くということを繰り返し、30匹ほど倒した頃だろうか。次の腐肉を括り付けていると蜘蛛(アーサー)がキィキィと大声を出し始めた。見れば白く小さな足を岩盤に固定させ、はち切れそうなワイヤーを口で必死に引っ張っている。この張力からしてギガントワームの可能性が高い。

 

「アーサーのワイヤーを引っ張ってくれ!」

「わ、分かったっ!」「いくわよー!」「凄い力だ、どれだけデカいんだ」


 総動員でワイヤーを引っ張ると1mほどの巨大な口が現れる。あの大きさからして砂の下にある体は優に5mを超えているだろう。砂の中で暴れているのか視界が暗くなるほど砂煙が巻き上げられる。

 

「ぺっぺっ、このワイヤーは大丈夫かっ?」

「大型車でも牽引できるワイヤーだから大丈夫なはずだ」

「でもこのままじゃ時間かかりそう。ママ、あれやって!」


 口の中の砂を出しながら親父がワイヤーの強度を心配するが、ギガントワームを見越して頑強なワイヤーを買ってきてあるので問題ない。だが思いのほか抵抗が強い。長期戦になりそうな気配に華乃があれ(・・)をやってとお袋にねだる。

 

「じゃあまずはアーサーちゃんから。力持ちになーれ♪ 《ストレングスI》」

 

 お袋が腰に下げていた短いステッキをタクトのように振るうと蜘蛛(アーサー)がほんわりと赤く発光する。《ストレングスI》はSTRを20%上げるだけだが、それでも引っ張る力が明らかに跳ね上がる。

 

 全員にバフをかけ終わると大きなカブを引っこ抜く物語のように「うんとこしょ! どっこいしょ!」とみんなで引っ張るタイミングを合わせる。そしてついにギガントワームの全身が姿を現した。

 

『ギュオォ! オオオォオオオッ!!』


「でっかーい! さっきまでのと全然違うっ!」

「キィ!」


 砂を吹き上げながら、ところ狭しと打ち上がった巨木サイズのギガントワーム。全長7mほど、それがビタンビタンと暴れまくっているので近寄るにも注意が必要だ。華乃とアーサーが見上げながら感嘆の声を上げている。


「モンスターレベル26か、これはもうフロアボス級だな」

「下敷きにならないように叩いてくれ!」

「分かったわ! いくわよー!」

 

 《鑑定》の魔道具でチェックした親父がギガントワームのモンスターレベルに驚く。ダンエクで見たものよりも一回り以上デカいのは誰も釣らなかったせいだろうか。四人ならいけると思っていたけど、これほど巨大ならアーサーがいなければ無理だったな。

 

 

 

 この日の狩りの成果はサンドワーム200匹ほどと、[ギガントワームの胃袋]も無事にゲットし大成功を収めた。アーサーもしばらくはミミズ狩りに付き合ってくれるようなので遠慮なく手を借りるとしよう。


(明日からは学校だな……)

 

 ゲーム通りにいくならば学校ではこの先、要注意イベントが立て続けに発生することになる。変に目立たず空気に徹することがイベントを乗り切る最良の手段だと思っているが、普段通りにしていれば空気なのだからその点は抜かりない。

 

 アーサーにはさらにその先のイベントについても手を借りたいし、早いところ“魔人の制約”を解除する方法を見つけておくとしよう。

 


 

 

 

(※1)抽選ポップ


 敵が再出現時する際に、一定確率で違うモンスターが出現すること。よりレアなモンスターが出る場合が多い。ギガントワームの場合、1日に一匹出てしまえばその後24時間はポップしない制限が加わる。


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