表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/66

第19話「越えられたよ、たった17歳の小娘に俺の全てを」

『――私は貴方を殺しません。貴方は法によって裁かれるべきだ。

 それがこの私、新たな魔王エステル・アルフレッドとしての統治の形だ』


 闘技場に戻ってきた直後、目の当たりにしたのはエステルの姿だ。

 兄であるジェラルドに対し、トドメを刺そうとして踏み止まる彼女が見えた。

 そして彼女はそれを自らの統治の形だと続ける。王としての方針だと。


「――フォッフォ、久しいのぉ、ジェイクくん」


 観客席からエステルを見つめていた俺の隣、タルーガが立っていた。

 一応は別の身体のはずなのによく分かるものだな。

 年の功というやつか。親衛隊から聞いている訳でもあるまいに。


「よく分かるな、タルーガの爺さん」

「まぁのぉ。君の魔力はよく覚えている」


 共に闘技場を見つめながら会場の空気を感じる。

 この場に集められた悪魔たちの肌感覚を理解しようと努める。


「……どうだった? 新しい魔王の誕生は」


 おそらくはかなりエステルに好意的だと思う。

 けれど確信が持てなくて、タルーガにそんなことを聞いてしまう。

 彼の眼から見てエステルという新魔王はどうなのかを。


「流麗な身のこなし、華のある戦い方、相手が吸血鬼となっても動じぬ態度。

 素晴らしかった。君が魔王になったあの日を思い出したわい。

 会場の皆も同じ気持ちのはずじゃ」


 なるほど、俺が魔王になった日か。

 確かにあれも華のある戦いだったはずだ。

 不死鳥を体現したような彼女に対して、俺は本気で戦った。

 継承戦で全力を尽くしたのはあれが最初で最後だ。

 全身に施す部分竜化、人型のままの竜化を、あれ以来使っていない。


「……俺が魔王になった時のことを覚えている奴なんてアンタくらいだろ?」

「かもしれんな。じゃが、それでも同じ衝撃を感じたはずだ。ワシはそう思う」


 ……エステルは、義兄を殺す覚悟を持っていた。

 それでも決着を迎えてもなお、トドメを刺さなかった。

 義兄自身も、この闘技場という場所も、観客たちもそれを望んでいたのに。


「――俺があいつなら、あの男を殺していたさ」


 レイチェルと親衛隊たちが細心の注意を払いながらジェラルドを拘束していく。

 吸血鬼を拘束するのは手間なんだよな。あいつらの身体は自由が利くから。


「……君自身の継承戦のように」

「そうだ。それも自分自身の判断じゃない。

 相手に望まれ、場に望まれ、民に望まれただけ。流されただけの甘い判断」


 敬愛していたフェリス陛下を殺めて、俺は魔王になった。

 あの時から俺は歪んでいたんだ。

 摩天楼に歪められ、彼女に治してもらった全てが、再び歪んだ。


「――だが、彼女は違う。敵を殺める覚悟を持ちながらも踏み止まった。

 相手にも場にも民にも流されず、自分自身を保った強い判断だ。

 越えられたよ、たった17歳の小娘に俺の全てを」


 覚悟のないままフェリス陛下を殺め、アシュリーを殺す覚悟を持てなかった。

 そんな甘さが最後の最後まで巡ってきたのが俺という男だった。

 けれど彼女なら、エステルならば先に進んでくれるんじゃないか、そう思えた。


「……確かに彼女には彼女の才覚がある。恐らくは稀代の魔王になるじゃろう。

 けれど、そう自分を卑下するなよ、ジェイク。

 君はワシの知る限りで最上の魔王だった。君以上は居らん」


 ――亀の表情は読みにくい。けれどそれでも分かる。

 タルーガという男が本気で口にした言葉であることが。

 フェリス陛下よりもずっと前の男が、俺が最上だったと。


「褒め過ぎだよ、時代が良かっただけさ。

 フェリスの次じゃなかったらこうはならなかった」


 100年という統治の中で、大きな戦争を起こさずに済んだという自負はある。

 それ以外にもいろいろと上手くやれたこともある。

 けれど、それらは全て、あの”賢帝”から受け継いだものだ。

 彼女の後でなければこうはならなかった。俺の統治も成立しなかった。


「それはそうじゃ。

 じゃが、先代から受け継いだものを守れない者なんてごまんと居る。

 しかし君は守り抜きつつ、進められることは進めてきた」


 いつの間にか、タルーガの瞳がこちらを見つめていた。


「その身体になって街は歩いたか? 1人きりで」

「ああ。一応このことは極秘だからな」

「ならば分かるはずじゃ。ワシが若い頃には幼子が1人で街など歩けなかった」


 彼の言葉に、この身体になったばかりの頃を思い出す。

 自分自身の国葬に並んだ時のこと。そこに向けた短い旅路も含めて。

 ……本当にたくさんの国民に助けられた。見ず知らずの子供だというのに。

 マフラーの温かさ、ココアの味、思い出せる記憶はいくらでもある。


「フェリスの進めたものを完成させたのは君だ。

 君がこの国を造ったんだ。100年という時を掛けて今日の姿にした。

 誇って良い。このワシが保証する。君が誇らないのは嘘だ」


 この爺さんにこう褒められてしまうと、言葉が出てこない。

 素直に受け取るしかない。そう思わされてしまう。


「君に及ばぬかつての王どもでさえ胸を張っておったわい。

 実を伴う君が胸を張らぬのは道理が通らぬよ」


 フフッ、言ってくれる。

 まぁ、確かに歴史を紐解けばそんな奴も多いか。


「――おつかれさま、ジェイク」


ご愛読ありがとうございます。これにて4章完結です。

明日、エピローグを更新してショタ魔王転生、完結となります。

最後まで見届けていただければ幸いです。


まだの方がいらっしゃれば、エピローグまで読み終わりましたら評価をつけてもらえればと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ