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第4話「すみません。親衛隊のバッジがあればゴリ押しできると思ったんですが」

 ――400年前に活躍した悪魔医学の父、フクロウ獣人のストラス。

 彼が起業した病院がストラス医院だ。悪魔の国でも最大の規模を誇る。

 治癒魔法という稀有な才能に頼らずとも一定水準以上の治療を可能にした点で彼の残した功績は大きい。


 というのが教科書に載る表向きの説明だ。

 だが、しょうもない雑誌では、こう説明されているだろう。

 悪魔貴族や悪魔政財界の要人たちが都合の悪くなったときに”入院”して身を隠すための高級医療施設だと。


 そのどちらもが正解だ。ストラスという医者の功績も、現在のストラス医院が要人たちの隠れ蓑であることも。ただ、高級医療施設というのは的確ではない。金を積めば個室等のサービスを使えるようになるが、受けられる治療自体は大きく変わらないのだ。


「――ええっ、このミノ・ストマクドの顔を知らないってか?!」

「患者様のご意向で誰も通すなと……」

「こっちはレイチェル様の部下なんだぞ。さっさと取り次いでくれ」


 ストラス医院は10階建ての大きな建物だ。

 7階より上層が要人向けの個室になっていて新魔王は10階に入院中。

 ということになっているらしい。表向きには。


「すみません。親衛隊のバッジがあればゴリ押しできると思ったんですが」

「ふふっ、そんな焦らなくて良いさ。

 取り次ぐ程度の時間で何か起きるはずもな――」


 7階へ上がるための階段には警備兵が立っていて止められてしまった。

 患者からの許可がないと上には通せないのだと。

 魔王親衛隊のバッジすら効かないあたり、なかなかやるじゃないか。

 その徹底のされ方、逆に好感が持てるというものだ。


「うわぁぁああああ――――!!」


 ――取り次ぐ程度の時間で何か起きるはずもない。

 なんて余裕ぶったのが祟ったのか、常軌を逸した悲鳴が聞こえてくる。

 前言なんて撤回するためにあるとは言うが、それにしたって早すぎるぞ。


「起きたね? 何か」

「冷静に突っ込まないでよ、お姉ちゃん」

「――レイチェル様ッ!」


 一気に階段を駆け上がり始めるミノ。その後ろについていく。

 あまり目立ちたくはないのだが、あの異常な悲鳴だ。

 そんなことも言っていられないだろう。

 まさか、こんなタイミングで襲撃にかち合うなんて。レイチェル……!!


「く、来るんじゃない! グールが……ッ」


 取り次ぎのために10階へと上がろうとしていた警備兵が飛び降りてくる。

 それを追うように食屍鬼が数体。

 ――今にも警備兵の背中に牙を立てようとしていた食屍鬼の額に1発。

 投擲用のナイフをエステルが撃ち込んだ。相変わらずび異様な肩だ。

 そして続けざまにミノの斧が一閃。食屍鬼どもの肉体を打ち砕く。


「す、すげえ……さすが親衛隊か」

「信じるのが遅い! さっさと職務に戻れ、助けを呼べ、階段を封鎖しろ!」

「おい、アンタたちは……」

「――魔王様の危機なんだぜ、ここが俺たちの命の張り時よ!」


 サラッと俺たち2人まで魔王親衛隊感出して説明したな、ミノめ。

 まぁ、その方が分かりやすくて良いか。

 実際は元・魔王と新・魔王なんだけれど。


「突撃――ィ!!」


 斧を構え、9階から10階へと続く階段を駆け上がるミノ。

 問題なくこちらを狙ってきた食屍鬼を打ち砕いていく。

 そして階段を昇り切り、10階――


「――げぇ?! なんだこの数?!」


 ミノが驚くのも無理はない。

 目に見える範囲で既に宣教局襲撃時を超えている。

 アシュリーの野郎、レイチェル相手だからって数で攻めてきたな。


 ――キトリから譲り受けた洗礼済みの拳銃を構える。

 2丁拳銃だ。

 雷の魔法を使っても良いが、この数が相手では魔力の温存も必要だろう。


「ああ?! なんだこのグールは……ッ?!」


 最初の3発目くらいまでは良かった。問題なく頭を撃ち抜けた。

 けれど、その後だ。

 グールどもは身を屈め、頭を撃ち抜かれた仲間を盾にし始めたのだ。


 数の多さに加えて、この小賢しい動き。

 ……グール1体1体を魔法剣士並に動かしたフィーデルを思い出す。

 あれと同系統の吸血鬼が、これだけの数の食屍鬼を連れてきた。

 魔法剣士ほどの個体性能はないが”統率された群れ”は厄介極まりない。


 マズいな、俺のレイチェルが簡単にやられるはずはない。

 そう確信していたのだけれど、流石に不安になってくるぞ。


「ジェイク様――!!」


 数の暴力を前に、拳銃では止めきれなくなった。

 俺を庇うようにミノが前に出て斧で一掃する。

 けれど、それでも次が来る。出し惜しみはしていられない。

 雷の魔法で全てを焼き払うしか――


「動きが止まった……?」


 とりあえず一発目を放つ直前、動きが止まったように見えた。

 けれど、そのまま雷は放出しておく。

 いくら食屍鬼といえど、この数相手に近接戦は間違いが起きかねない。

 問題なく接近していた分の食屍鬼は焼き切った。


「――それ、もう3発くらい撃てる? できないなら強行突破するけれど」


 聖剣を奪われ、アーサーが死に際まで使っていた刀剣を構えるエステル。

 雷を3発は放たなければいけないこの物量を剣1本で踏み越えるつもりだ。

 つくづく極まった剣士様だな。だが、その必要はない。


「何かしらの手を打ってくるかと思ったが」


 拳銃で撃ち抜いた時みたいに死んだ仲間を盾にするくらいのことはしてくる。

 そんな読みが外れたのだ。

 こちらの雷を前に意味がないと判断したのか。

 ……いや、この動き、指向性が消えたと見るべきだな。

 主人である吸血鬼からの指示がなくなったのだ。だからこんなに。


「――マズいな、レイチェルと戦い始めたか、これは」


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