第11話 会敵
見渡す限りの海原。
その上を三本の線が矢のように西に向かって伸びてゆく。
一つは海棲竜に乗ったトリミン。
もう一つは、泡の魔法に包まれたカザリン。
そして、彼らに少し遅れて進むのが、俺の乗っている小舟である。
「遅せえぞ!」
トリミンが振り返って言った。
「いや、全力で漕いでるからっ!」
そう告げたのは、俺の後ろに座るエリーヌだ。
彼女は風車のごとくオールを漕いでいた。
「……結局、おまえたちも付いてきてしまったか」
「す、すみません、アレンさん」
ルシードが申し訳なさそうな表情を見せる。
今朝のことだ。
朝食を食べたあと、俺はひどい睡魔に襲われた。
そして次に気が付いた時には、すでにこの船で洋上を移動中だった。
――御覧のように、両手両足を縛られて
「わ、わたしなんかじゃ、足手まといになるのはわかってるんです。でも、どうしてもアレンさんについていきたくて……」
「で、一服盛ったわけか」
「す、すみません……」
「ルーちゃん、謝ることはないって」
オールをせわしなく漕ぎながら、エリーヌが言う。
いつのまにか、ルーという愛称で呼ぶほど、彼女と親しくなっていたようだ。
「アレン君も内心喜んでるはずだよっ」
「そんなわけないだろう……それよりそろそろこの縄を解いてくれないか」
「わ、わたしたちを置き去りにしたりしませんよね?」
「この海のど真ん中で置き去りは無理だろう……」
俺は彼女に縄を解いてもらうと、幼なじみに漕ぎ手の交代を申し出たが、固辞されてしまった。
まあ、俺よりスタミナも筋力スキルも高い彼女に漕いでもらった方が遥かに効率はいいだろうが……。
「敵は5万人いるんですよね?」
ふいにルシードがたずねてきた。
「そう聞いている」
「いくら攻撃スキル持ちの多いわたしたちの町でも、勝てるんでしょうか……」
「無理だろう」
俺のこたえに、ルシードとは「えっ!?」と驚く。
「国内では知名度があるとはいえ、俺たちの町はしょせん地方の田舎町だ。本気で攻めてくる軍隊を止められるわけがない」
「じ、じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「勝てないなら、逃げるしかない」
「逃げ……」
「俺たちが偵察艇を沈めれば、船が戻ってこないことに不審を抱いた敵は、警戒して進軍の足を鈍らせるだろう。その間に町の全住民が隣町まで避難する」
「え…………でも、それだと町が空っぽになるんじゃ」
「そうだ。町は敵に占領されるだろう。だが、町民の命だけは助かる」
「…………」
「現実的にはこの方法しかないんだよ」
その後、王国軍が敵を追い払ってくれるのをひたすら待つ。
まあたとえ無事町を取り戻せても、略奪や建物の破壊は免れないだろうが。
「けっ! んなことだろうと思ったぜ!」
吐き捨てるような声が上がった。
トリミンが竜の背から侮蔑に満ちた眼差しを俺に向ける。
「言っとくがな、ウチも姉貴もそんなクソみたいな戦略には従わねえぞ」
「その品のない呼び方はおやめなさいとお伝えしているでしょう? まあ、逃げるなどという言葉がわたくしの辞書にないことは、事実でございますけれども」
「…………」
なるほど、昨晩、彼女らの父がなぜ必死に俺に頼み込んできたのかが、よくわかった。
「とりあえず、その前哨艇とやらを軽くひねるからよ。おまえさんはそのちっぽけな船の上で見物でも――」
「! トリミン、静かに」
ふいに鋭い声を上げるカザリン。
すぐに俺もそれに気づく。
いつのまにか、海上に靄がかかっていたが、前方にぼんやり黒い影が見えた。
こんな沖合に偶然船がいるはずがない。
会敵だ。
「よーし、いく……………………ぜ?」
トリミンの声が尻すぼみに小さくなる。
敵船までは、まだかなりの距離があるようだったが、濃厚な霧を通してもその全容がはっきりと俺の目に映った。
それほど、敵の船は大きかったのだ。
島と見まがうばかりに。
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