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それからのお話

 がんらがんらと騒々しく駆けていく大八車に、飛びつこうとした悪餓鬼が、母親のげんこつを貰っている。五年前に覚えたこの遊びを、随分と背の伸びた悪餓鬼は、いっこうに諦めようとしない様子であった。

 最近では上手く飛び乗って、そのまま隣の町まで運ばれていく事もある始末で、母親の苦労もひとしおであろうが、悪餓鬼の方はそんな事は知らぬ顔。

 生き馬の目を抜くお江戸の町も、変わらぬところでは変わらぬままのようであった。


「はー……天下泰平、天下泰平。このまま爺様にでもなっちまいそうでさあね」


「君が、歳を取るなんて事があるものかい?」


「ふふっ、まことにうらやましい事でありんすねぇ」


 さてここは、江戸は江戸でも南端、品川宿は達磨屋の縁側である。

 のんびりと茶を啜っている面々は、ちと珍しい組み合わせ。傘原同心の子分、岡っ引きの源悟に、日本橋は大紅屋の陰間の燦丸、そして達磨屋の遊女の高松の三人である。

 五年ばかり昔と比べて、高松は殆ど、源悟は全くと言って良い程、容姿に変わりは無く、ただ燦丸がすっかり背が伸びて、もっぱら後家相手の商売に移っているようであった。

 暑い夏の、蝉がみんみんと小うるさい最中に、湯気の立つ茶を啜り、時折はせんべいなども齧る三人。

 何をするという事は無い。ただ、時々こうして集まって、日々の何でもない事を語ったり、昔話に花を咲かせたりするくらいのものである。


「お二人とも、近頃は如何なもんで? その――まあ、率直に言えば、ご商売の方は」


「この熱さで、お歳を召した旦那様方が何人か亡くなられてね」


「ほうほう」


「お金持ちの若後家が増えた」


「そりゃ景気の良い」


「縁起は悪うございんすよ」


「違えねえや」


 口元を隠して笑う高松に対し、あけっぴろげに笑う源悟、伊達に微笑むに留める燦丸と、笑い方まで三者三様。似ているのは冗談の趣味くらいのものである。


「こっちはこっち、いつなるときも変わらずで、男と言わず女と言わずお客には困らず――」


「あんれ、高松さん。達磨屋、女性客まで大っぴらに取るようになったんで?」


「あの人が、あちこち手を出してらっしゃった人がね、口伝に一人、二人、お訪ねになられて……」


「……姐さんも、節操無しでござんしたからねぇ」


 そして、昔語りとなると、何度かに一度、この話題となる。

 江戸の町を縦横無尽、そして傍若無人ながら伊達に、粋に過ごした女傑――雪月 桜の。そして、彼女とほんの少しの間だけ共にいて、京への旅の供をした、村雨の事である。

 あれから、何の知らせも無い。

 何処に居るのか、何をしているのか、無事であるのか、何も分からぬままである。

 尤も、無事であろうとは、三人とも思っている。

 殺しても死なぬような女であるから、まず無事ではあるのだろうが、然し便りの一つも無いのだ。


「ったく、姐さんもちぃっと勝手が過ぎらぁ。散歩にでも行くみたいに京に行ったと思ったら、なんだい、迷い猫みたいに帰ってきやしねえたあ……」


「源悟さん、随分と強気だね。桜が居た時とは随分違――」


「そいつは言わぬ約束で! ひぃ、姐さんの前でこんな口の利き方したら、平手で壁まで張り飛ばされまさあ」


 と、やいのやいのとやっていた、その時である。

 ざかざかと賑やかな足音を立てて走って来た町飛脚が、達磨屋の前で脚を止めるや、


「源悟さーん、こちらにいらっしゃるんで?」


「おーう、あたしはここだよ、荷かい?」


「へえ、お手紙で」


「ふん、どれどれ……」


 湯呑に半分ばかり残った茶を口に含んだ源悟は、飛脚の手から手紙を受け取る。

 分厚い油紙の封筒が、西洋風に蝋で閉じられたそれを開くと、更に、布で丁寧に包れた書簡が入っていた。


「まった厳重な事で、えーと差出人は――」


 布も取り、さて折り畳まれた書面の端、二つ並んだ名――連盟の差出人を見た途端、


「――ぶふぉっ」


「わっ、汚い」


 源悟は、茶を噴き出した。

 咄嗟の事で、左右の人間や手の書簡を守る為、真上に吹き上げたので、自分が吹き上げた茶の噴水を、頭から被る事になった。

 湯気が立つ茶の雨を浴びるという、奇怪な体験をしながら、源悟は熱そうなそぶりも見せず、


「あ、あ、あ」


「阿? 斗、と続ければ良いのかい?」


「あ、あ――姐さんからでさあ!」


 と言った瞬間、高松が、武道の達人もかくやという速度で、源悟の手から書簡を奪い取った。






 それから一刻ばかりして、達磨屋の店先には、ぞろぞろと数十人ばかりが集まっていた。

 まるで行方知れずであった雪月 桜と村雨から手紙が来たと、源悟が岡っ引き仲間を使って、触れ回ったのである。

 人の群れの中には、同心の傘原であったり、あちこちの色町の花形花魁であったりが集まって、中々に豪華な顔ぶれとなっていた。


「んじゃあ、読みやすよ……?」


「早く、源悟さん、早く早く」


 人が集まるまで書簡を閉じていた源悟の袖を、高松が掴んで揺さぶる。それに促されるように、源悟は、つらつら書かれた文字を、声に出して読み始めた。




 ――源悟と、江戸の町の人達へ。


 元気にしていますか。此方は無病、時々は小さな怪我をする事もありますが、大きな怪我は無く過ごしています。

 便りの一つも出さず、心配を掛けてしまったでしょうか。

 本当は、洛中の騒乱が終わって三月程も過ぎた夏、便りを出すつもりだったのですが、そうしよう、そうしようとしている内に忘れた挙句、すっかり便りを出したつもりで居ました。ですので、気付いた今、忘れる前に急いで書いて、船便で送ります。

 船便です。

 私達は今、海を渡って、大陸を西へと歩いています。


「かっ……はぁ! 大陸! 姐さん達、とうとう海の向こうへ行っちまったぁ!」


「戻った、という方が正しいんじゃないかな。二人とも育ちは大陸だろう?」


「おう、そういえばそうで――」


「源悟さん、早く続きを――!」


「わっ、たた、高松さん、引っ張ったら破けちまいまさぁ!」


 五指龍の帝国には、沢山の武術家が居ました。その中に、ごく稀にですが、驚くような達人が居ました。それから、ご飯が極めて美味でした。けれども蜀漢の跡地を歩く時は、こんな辛いものばかり食べているから戦に負けたのだろうと、邪推をしたくなる事もありました。

 それから、北へ向かいました。私達の育った、雪と氷の土地です。

 吐く息も凍る冷気の中、いずれが北で南かも分からない世界。四方全てが雪の地平線に変わる世界。私達には、そんなものが懐かしく、つい長居をしてしまいました。

 途中、村雨の生まれ故郷にも立ち寄り、父上に御挨拶をと思った所、娘はやらんと殴りかかられ、つい殴り返して気絶させてしまったのも、良い思い出です。


「……姐さん、何やってんですかい」


「ちょっとまった、源悟さん」


「ん、何です、燦丸さん?」


「この手紙……書いてるのは、ひょっとして」


「この右上にぴょんぴょん跳ねてるのとんがった字は、間違い無く姐さんの字でさぁ」


「……妙に可愛らしい文体だね」


「……まあ、あたしも似合わんたあ思いますがねぇ」


 今は凍土を抜け、少しずつ、西洋の気風が漂う街へと入っています。

 煉瓦詰みの大きな建物が幾つも並ぶ、広く、賑やかな街。人も品物も、日の本の何倍もの規模で、何倍もの速度で行き来をしている街。凍土の地では、季節によっては港が凍りますが、ここまで来れば、一年中港が使えるようです。

 日の本の貿易船が居て、久しぶりに米を炊いて喰いました。こちらにも米はあるのですが、何か種類が違うようで、やはり日の本の味を恋しく思う事もあります。その貿易船に手紙を託すので、船が沈まなければ届き、あなた達に読まれるでしょう。

 これから、更に西へ行きます。

 五指龍の帝国も大きいですが、この近辺もまた、大帝国の一部に過ぎません。

 本国には、優れた騎士や、操騎の技や、日の本には無い武器術、格闘術など、色々なものがあると聞きます。とりあえずはそこに一年か二年、滞在し、技を習おうかとも思います。

 その後の事は、まだ決まっていません。

 大陸を東へ引き返し、また日の本へ戻るのも、一つの手段かも知れません。

 ですが、それよりも、大陸を左へ突っ切って、橋まで行ったら港から船に乗り更に西へ、新大陸を目指す方が、よほど楽しいかも知れません。

 新大陸は、開拓の最中と聞きます。

 こちらで流行りの拳銃なる武器も、maker、製造元、日の本風に言えばめえかあが幾つか競って、日に日に新しいものを作っているそうです。

 村雨は、拳銃を二つばかり買ったのですが、中々の腕になっています。下手に蹴ったり咬み付くより、銃口を向けるだけの方が、場合によっては相手の危険が少ないのだとか。

 私は、銃は性に合いません。きっと死ぬまで、刀だけで過ごすでしょう。

 そういう、少し古臭い人間が、新大陸という、最も新しいところへ行くのです。

 荒事も、好き放題転がっている事でしょう。心が躍ります。


「変わりませんねぇ」


「変わらないねぇ」


「変われる筈、ありんせんもの。あの人を変えられる程の壁、たかだか西の帝国になど、ある筈も無く――」


「……高松さん。まだ、姐さんの事を?」


「ええ。わっちも、変われる筈などありんせん」


「難儀でござんすねぇ……っとと、そろそろ終いか」


 まだ暫く、日の本には戻りません。

 ですが、生きている限りいつか、一度は戻ろうと思っています。

 私は日の本で生まれました。

 村雨は、大陸で生まれ育ちましたが、日の本で、多くの物事に出会いました。

 私達の旅が始まった、日の本の、品川に、いつか必ず、私達は戻ります。

 高松はどうしていますか?

 次に私が戻る頃、私は随分と老け込んでいるかも知れませんが、驚かないようにと言い聞かせておいてください。

 燦丸はきっと、大概の事は上手く擦り抜けて、今頃は後家相手にあこぎな商売をしている頃でしょう。

 男相手の商売の技法をそのまま使うと、女の情念に殺されるという事は、しっかり耳打ちしておくように。

 傘原同心にはあれこれと世話になりました。かんじき、傘蓑、冬旅の支度、あの時は助かりました。

 髪結いのお紺や、はつ、湯屋に居た伊勢、それからお花、かん、とう子、きぬ――


「……良くもまあ、こう長々と、女の名ばかり……読み飛ばしやすぜ」


「ははっ、桜らしい」


「ええ、まっこと」


 四年の筆不精も、いざ文に起こせば、たったこれだけの短い文面となってしまいました。

 一年の内には、もう一度、どうにか文をやろうと思います。

 この文が届くまで、一年ばかりは掛かるのでしょうか。とすれば、この文をあなた達が読んで居る頃には、私はもう、新しい文を書いている事になりますか。時の流れとは、思えば不思議なものです。

 それでは、つもる話はやがての再会に任せて、今は筆を置きます。

 皆の無病息災を願って。

 雪月桜。




「……っは、っはっは……はーあ、心配して損したぁ!」


「おや源悟さん、心配してたのかい?」


「とんでもねぇ、あんだけ化け物か鬼みてえに強い姐さん達だ! 心配なんざこれっぽっちもしてねえでさぁ!」


 そう言いながらも、源悟の目には、大粒の涙が浮いて、それを手の甲でごしごしと拭っている始末である。

 周りで文の内容を聞いていたものも、半分ばかりは似たような有様で――もう半分は、腹を抱えて笑っていた。

 雪月 桜はどうしようもなく、雪月 桜そのもののままで、遥か遠くの国にまで行ってしまった。

 この調子では、向こうの国でも散々に迷惑を掛け通し、あれこれと面倒事に首を突っ込んでいるのだろう。その騒がしさが、想像がついて、皆は笑うのである。

 そしてまた、いつか雪月 桜は、顔に幾つか皺を刻んだりしているかも知れないが、いつかと全く変わらぬ調子のままで戻ってきて、昔のように、少うしだけ江戸の町を騒がしくするに違いない。

 騒ぎは、江戸の町人の歓迎する所である。

 火事と喧嘩は江戸の華。賑わいをこそ楽しみ、宵を越した先を憂う事なく、日々を目一杯、精一杯に生きる江戸の町。


「帰って来るんでしょうねぇ、何時か」


「何時になるかは分からないけどね……僕に白髪が生える頃とか、そんなだったりして」


「何時でも構いはしんせん。ただ、ただ御無事で、何事も無くお戻りくださるなら……」


 しみじみと、しみじみと。

 江戸の町はせわしなくも、時々は気長にのんびりと、旅人の帰りを待ち侘びるのであった。






 同じ夏の日の、遠い海の果て。

 新大陸と呼ばれる、新たに発見された大陸の、起伏激しい荒地での事であった。

 大群が、それぞれに高台に陣取って睨み合っていた。

 片や、近代的な軍勢。槍や剣も持っている事は持っているのだが、鎧は無く、種の武装は銃である。

 単発式だろうが、再装填の時間を大幅に短縮できる新型銃を、千か二千の兵隊が手に、ずらりと並んでいた。

 が、数ならば寧ろ、その向こう側に居る軍勢の方が、よほど多い。

 羽飾りや、獣の骨、牙などで作った首飾りを下げ、勇壮な戦化粧を施した軍勢が、此方は五千か六千か、それ以上に並んでいた。

 彼等の武器は、斧や槍、大量の弓矢。それも、斧は金属製でなく、鉱石と研いで頑丈な木などに括り付けたような、いわゆる石斧の類であった。

 時々、太陽光をぎらりと照り返す金属斧も見受けられたが、それは敵兵の亡骸から奪い取った金属を、自分達が用いる斧の柄に取り付けただけの代物であった。

 原住民の軍勢――

 彼等は、代々の土地を侵略者から守る為、立ち上がり、集ったものであるが――数倍の数を集めて尚、侵略者達の持つ銃を前にしては、明らかに分が悪いのであった。

 だが。

 彼等の軍勢に、どうにも、奇妙な違和が混ざっている。

 混ざっているというより、彼等の軍勢の先頭に、突出しているのである。

 そして、その違和の原因の一つが――


「……どうしてこうなった」


 荒地の熱に汗を流しながら、溜息をついていた。

 灰色の髪を腰の下まで伸ばした、若い女であった。

 武装は独特である。両腕に金属製の篭手を着け、腰にはホルスターと二丁の拳銃。服装は、寧ろ新大陸の開拓者達に混ざっているのが似合いのズボンスタイルであった。


「どうしただろうなあ、ふむ」


 その横で、眼帯の女が、他人事のように首を傾げていた。

 此方の黒髪は、膝を過ぎるまでに長いが、その毛並みに一筋の乱れも無い。首の角度を変える度、その髪がさらり、さらりと、大鳥の翼のように靡くのだ。

 こちらは尚更に異相で、黒一色の衣を纏い、得物は腰と背に、東洋風の刀のみ。

 この地に立つ事そのものが、異常であるような、そんな女であった。


「八割方はあんたが元凶じゃー! 現地の事情も分からないままで首を突っ込むからー!」


「然しなぁ。銃を持った三人の男、追われる素手の娘、どちらを助けたくなると思う?」


「その理屈は正しいけどさあ、正しいけどさあ……! 開拓軍に真正面から喧嘩吹っかけるとか……」


「こうなってしまったものは仕方が無かろう。諦めろ、村雨」


 軍勢の先頭で、黒髪の女――雪月 桜が、黒太刀を抜いた。

 幾百の戦場を経て、刃毀れを知らず、曲がる事を知らぬ名刀が、光を浴びて黒く輝けば、後方に並ぶ軍勢が、天を揺らす程に意気を上げた。

 その声を浴び、灰色の髪の女――村雨は、諦めたように項垂れる。

 この度の敵は、新大陸開拓の正規軍である。

 味方は五千以上居るが、弓と石斧、石槍の軍勢。対して敵は、最新鋭の銃器で装備した、訓練された兵士達。

 久しぶりの窮地である。

 だが――初めての窮地では無かった。


「……ったくもー……で、どうすんの? 策はある?」


「正面突破」


「却下! お馬鹿!」


 すかんっ、と、小気味よい音が鳴る。

 村雨の靴の爪先が、桜の頭を打つ音である。


「……ちょっと族長達集めさせて。ここにこんな人数要らないでしょ、三分の二は別働隊にさせて」


「背後か側面でも突かせるのか? 連中とて、その程度は想定して、高台に銃を置いているのだと思うが」


「高台の攻め方なんて、千と六百年も前に決まってるでしょ」


 村雨はそう言ってから、桜の耳元に口を寄せ、何事かを囁く。

 桜の顔は、まずは納得したような表情を作り、それから呆気に取られたようになって、最後には渋いものへと、面白いように変わった。


「……お前、やはり性格悪いな」


「誰のせいでこうなったと思ってるの」


「私か」


「うん」


 言いながらも村雨は、慣れた様子で人を呼び付けると、何事かを命令して戻らせた。

 程無く、複数部族からなる原住民の軍勢は、それが一個の訓練された軍隊であるように、粛々と行動を始める。

 東の果ての兵法が、西の新大陸で動いている――奇妙な構図であった。


「では、私達は……何時もの通りか」


「うん、それで行こう」


 そして、桜と村雨は――前へと、進む。

 後方の軍勢を置き去りにして、正面の敵軍が居る方へと、たった二人で――

 それ以上を伴わず、続けと命じる事も無く、それが当然であるかのように、往くのである。

 銃の射程に二人が届いた時、数百の銃声が轟いた。

 然し、銃弾の届く位置から、二人の姿は消えていた。

 掻き消えるように、二人は走ったのである。

 射手達は標的を見失い、次に見つけた時、標的が有り得ぬ程の距離を移動している事に気づき、驚愕と混乱でどよめき始める。

 その空隙に付け入るように、桜と村雨は、敵陣への距離を埋めて行った。


「村雨!」


「桜、何!?」


 戦場を、目にも映らぬ速度で疾駆しながら、桜は村雨の名を呼んだ。

 呼び返すと、そこには、なんとも満足気な、どこか子供のようにはしゃいでいる、桜の顔があった。

 それを見ると村雨は、喉に溜まっていた幾千もの文句が、全てどうでも良くなった。

 自分達は、幸せだ。

 これからも自分達は、幸せに生きて行く。

 そんな、絶対とも言える確信を抱いて、


「楽しいな!」


「……うん!」


 村雨は、桜と同じ顔で笑って、嬉しそうな声を上げた。

 千を超える銃口に、二千からなる敵兵に向けて、二人はなんとも楽しげに、新大陸の荒野を駆けて往く。

 それは、太陽がカンカンと照り付ける、暑い、暑い、夏の日の事であった。

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