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少し昔のお話(3)

 森の中の掘建小屋とて、彼らにとっては城であるし、一つの世界である。

 世界の中で居場所を見つけようという時、人はそれぞれの傾向を示すものであるが、例えば冴威牙などは、どの群れに於いても頂点を狙う性質である。

 無論、大多数の人間、彼らの場合でいえば数十人からなる兵卒達の場合、中間よりは高い位置に立ちたいものの、頭抜けて上に行こうという気概も無い。

 高台は見晴らしこそ良かろうが、落ちれば地に体を打ち付けて死ぬ。人は往々にして死を恐れるものである。

 然しこの群れに、死の恐れよりも尚、権力を欲する者が在った。

 己の力で成り上がろうというのではなく、成り上がる男の横に添って行こうと企む女である。

 この類の女には、男の顔や性根など、さしたる問題では無い。

 ただ力が有り、情愛の多くを己に注いでいる男であれば、隣に立つに相応しいと考えるものである。

 そしてまた、物事が上手く回っている時は、献身的に男を支える――男の栄達こそが己の幸福に繋がるからだ。

 然し、一度男の目が己から外れたと知るや、変節は極めて敏速。己が傷を受けぬまま、別な男に乗り換える術を探そうとする。

 つまるところ夕霧の心は、とうに冴威牙の元を離れていたのである。


「あんた達、どう思うよ」


 と、夕霧は、至極抽象的に問うた。

 これと見込んで、とある村の外れに集めた、何人かの男の前である。

 何れも冴威牙の子分格の中では、歳も高く、加えて分別は知らぬが利益を知るような連中であった。


「どうって言うと、どういう事だい姐さん」


「最近の冴威牙は、私達を軽く見ちゃいないかい」


 集められた男達は顔を見合わせた。どうせまた夕霧の悋気が始まったものだろう、と考えたのである。冴威牙の寵が逸れるのを厭う夕霧が、他の女にきつい当たりをする事は、これまでもまま有ったからだ。

 然しどうにも、雰囲気が違うのである。

 女の嫉妬などという可愛らしいものではなく、懐に刃でも飲んでいるかのような、答えを誤ればその刃が向かって来そうな怒気さえ伺えるのだ。


「……はぁ。まぁ、そりゃそういう気がしないでも」


「そうだろう、一人で鼻も高々だ。ちょっと腕が立つからって見境もなく、あっちに噛み付いて、こっちに噛み付いて」


 男達は言葉を濁すも、夕霧は声高に不満を吐く。あまりに潜まぬので、男達が不安になって、周囲を伺ってしまう程である。

 とは言え、彼ら――友誼より利益に敏い者達には、確かに思う所が有った。


「……確かに今回のは、ヤバい相手だよなぁ、とは」


「だろう!? よりにもよって熊越斬波の身内に手を出しやがった、このままじゃあたし達まで殺されちまうよ!」


 夕霧は甲高い声で喚くが、それを聞けば男達の渋面が、にわかに蒼白く変わり始める。考えようとしてこなかった事を、改めて目の前に突き出されたからである。


「冴威牙の奴はいいさ、いざとなったら一人で山へ隠れるなり何なり――あいつは山犬だからね。だけどあたし達はそうはいかない、斬波の一党に目を着けられたら最後だ。それこそ海の向こうへでも逃げない限り、あいつらなら追って来てもおかしくない……だろう?」


「お、おお……」


 然しそこで、一人、踏み止まる者が居た。彼等の中では比較的、人の良い男である。


「だ、だがよっ、冴威牙の兄貴だって血も涙も無い人じゃねえ。少なくとも今まで、俺達を纏めて、食い物も銭も分け前をくれたし、何かありゃ守ってくれても居たし……。それに兄貴は凄え強いぜ! 上手くやりゃあ、熊越斬波だって人間だ、返り討ちにしちまうかも――」


「冴威牙が五人も十人も居る訳じゃあないだろうっ!」


 それを夕霧は大喝し、言葉も半ばで黙らせる。


「確かに冴威牙の奴は強いさ、だが、あいつはあたしらの事なんか見ちゃいない。今ご執心なのは、拾って来たあの紫漣とかいう羽の生えた女だけで、あたしやあんたらはどうだっていいんだ。飽きられたんだよ!

 冴威牙が勝つ? はっ、あいつが一人で斬波とやりあうとしたら、その間に斬波の手下どもが、あたし達を皆殺しにやって来るよ!」


「そ、そんな事は――」


「まだ信じられないってかい!? ……なら、冴威牙をそれと無くせっついて、先に動くよう仕向けてみりゃあ良い」


「はぁ……?」


「鈍いねあんたは! 冴威牙が、あんたの言う通りに、あたし達をまだ身内だと思って重く扱うなら、出向くにしろ逃げるにしろ、まずあたしらを連れて動く筈さ。逆に私の言う通りなら、見ててごらん、あいつはあの鳥女一人連れて、早々にどっかに消えちまうだろうよ」


 夕霧は雄弁に説き、聞く者達もまた弁の立つ者では無いので、ただ頷くばかりであった。

 誰ぞ知らん、この時既に、夕霧には確信が有った――曲がりなりにも他の誰より長く、冴威牙の近くに在った女だ。

 恐らく冴威牙は、雑兵を率いて精兵に当たるよりは、己一人で精兵を殺し尽くすような戦いを好むだろうと、良く良く知っているのであった。






 他方、冴威牙は〝城〟の最奥の部屋で、紫漣を伴い思考に耽っていた。

 何を考えているのか――無論、自分が喧嘩を売った相手の事だ。

 子分に手を出され、その礼をした。下手な復讐を受けぬよう、きっちりと息の根を止めた。

 ところが守った子分達は、更なる復讐に怯えている。

 冴威牙を悩ませているのは、正にその事であった。


「……どうしたもんかなぁ、紫漣よ」


 あぐらで座る冴威牙の横に、紫漣が座り、冴威牙の膝に片腕を預けている。

 問いを向けられた紫漣は、その腕で自分の体をぐいと寄せ、下から冴威牙の顔を見上げた。


「やっぱり、先手を取るべきだよなぁ……」


 冴威牙は重ねて呟く。

 相手に本拠を知られていないという優位は有るが、然しそれも、熊越斬波の一党が本気で探そうとすれば、容易く見つけられてしまう程度の優位性。座して襲撃を待つのは愚策である。

 となれば、やはり先んじて敵の喉笛に喰らい付くのが良かろうが――敵が冴威牙達の居場所を知らぬように、冴威牙もまた、熊越斬波の居場所を知らない。

 探り出すにも手がかりが無いので、はてどうしたものか――それで冴威牙は悩んでいたのだ。


「冴威牙様、それなら難しい事などありません」


 然し紫漣はというと、冴威牙と対照的、まるで思い悩みもしていないような口振りである。なんぞ名案が有るのかと冴威牙が問えば、紫漣はこう続けた。


「話を聞けば、冴威牙様は、近くの町で彼等と一戦交えたということ。ならば其処へ、私達の中でも最も弱く見た目は華々しい者に、二人か三人の仲間を付けて出向かせ、大声で貴方の話題を語らせれば良いでしょう。

 ……あの男、熊越斬波は、自分の面子が傷つけられるのを酷く嫌うと聞きます。貴方様のお仲間と聞けば、嬉々として現れましょう」


「………………」


「その上で、わざと捕えさせるも良し、逃げさせるも良し。何れにせよ、引き上げる彼等の後を追えば、ねぐらを探り当てるのは訳も無く――」


 そうまで言った時、冴威牙は紫漣の口に掌を被せ、言葉をそこで止めさせた。


「それをやっちまったら、俺の群れじゃなくなるだろ?」


「……!」


 おかしな話であるが、他人に対しては酷薄に成り切る冴威牙は、この時、身内に対する慈悲に溢れていた。

 己の力を当てに集まった者を、一人として見捨ててはならない。

 その考えを、打算と言う事も出来よう。自分は彼等を見捨てぬのだと示す事で、彼等の離散を防がんとする打算であると。

 然し、少年期の冴威牙は、もう少し単純な性格をしていたし、成人して以降と比べると、その性根は真っ直ぐであった。


「俺を頼って集まってる連中に、餌になれなんて言えるかよ。群れが敵と戦う時に、身内から危ない目に遭わせてたんじゃ話

にならねぇ。いいか、何か手を打とうって考えるんなら――熊越の一派は潰す、俺達は誰も五体満足、そういう手を考える。それが、俺の群れのやり方だ」


 或る種の理想論である。だが、この聞こえの良い文句は、確かに紫漣を揺さぶった――と同時に、一抹の不安を抱かせた。

 この男は、善悪で括るなら、悪に偏っているに違いないが、仲間と定めた者に対しては無償で善を施す。それは、奪われ続けてきた紫漣には眩いばかりの光であり、また、愚かしい事でもあった。


「……ならば、冴威牙様。貴方の御心に叶うよう、そして貴方の御家来衆の誰も傷つけぬようにとあらば――!」


 血を吐かんばかりに喉を閉めた声で、紫漣は進言を図った。が、またも冴威牙の手は彼女の口を封じ、


「お前の手を、俺が囮になって実行すれば良いな」


 先には言わせぬぞと、乱杭の牙を剥き出しに笑った。






 子分達は、冴威牙の部屋より二つ手前の、広く作られた部屋にごった返していた。

 髭も生えぬ少年から、大きくとも二十を少し過ぎた程度の男まで――に、一人だけ女が、夕霧が混ざっている。

 彼等は皆、冴威牙が奥の部屋から出て来たのを見ると、座ったままで一つ方向へと体を回した。


「冴威牙! あんた、何を考えてるんだい! こっちの人数はこれだけ――五十もいるかいないかだ! 熊越の一派と言えば、人数は百以上、鎧に刀、槍、薙刀、得物は一通り揃えてやがる! あたしら、みんな殺されちまうよ!」


 開口一番に吠えたのは夕霧。他の子分共は押し黙り、冴威牙がそれをどう受けるか見極めんと、座ったままに上体だけをぐうと乗り出していた。


「問題ねぇ、勝てる」


 一方で冴威牙は、相手がどれだけに大きかろうが、まるで意に介さぬという面構えである。実際に一人で勝ってしまおうという気概が有るからなのだが、


「どうやって!? こっちの人数がいきなり五倍になるってかい!? それとも空から雷が落ちてきて、都合良く向こうの連中だけ打ち据えるとでも!?」


 奇跡でも起こらなければ、覆し得ぬ戦力の差――それを夕霧は訴える。

 常の癇癪よりも尚、声高に激しく問い詰める姿に、僅かな違和感を抱く者も居ないでは無かったが、口を差し挟む者も無い。多かれ少なかれ、皆の思いは同じなのである。

 然し、冴威牙も既に腹を決めている。向けられる必死の形相を受け流すかのように、平時の顔をまるで崩さないまま、


「俺が一人で行く」


 と、告げた。


「……はあ?」


「俺が一人で町に出て、連中が見つけやすいよう、目立つように喚いてりゃ良い。後は出てきた奴を片っ端から、叩きのめしてやればいいじゃねえか。簡単な事だろ?」


 容易い事――否。冴威牙の人並み外れた剛勇を以てしても、否である。

 十人相手へ不意打ちを仕掛けるのと、百人相手に正面から向かい合うのとでは、当然だが、己へ向く刃の数が違う。

 戸惑う十の刃を殺し尽くしたとて、血気に逸る百の刃に対抗出来るかと問えば――出来ると思うたは、冴威牙ばかりであった。

 夕霧の顔が歪む。

 その歪を皆が見たが、見た者はほぼ全てが、困惑と怒りを示す表情であろうと解釈した。


「……それで、あたしらはどうしろってんだい。まさか考えてないとは言わないだろうね?」


「お前らは何処かに伏せて、俺が斬波の首を持って来るのを待ちゃあいい。お前らまで戦えとは言わねえよ」


「つまりあたしらは、此処に置き去りって訳かい」


「……置き去りって言いかたもねえだろう」


 冴威牙は、言葉が噛み合わぬ事に、ほんの少しだけ疑念を抱いた。だが、この頃の冴威牙は、身内に対しては甘いと言おうか、その疑念を勘違いであろうと振り払ってしまう、或る種の寛大さを持っていた。

 また、夕霧の顔が歪む。

 ますますの怒りが溢れて、皮膚の下より顔面を変形させたか――そのような、凄絶な面。

 然したった一人、般若面の裏に潜む心を見抜いた者が居た。紫漣であった。


「いえ、冴威牙様。夕霧様のご心配も尤もの事。冴威牙様のお留守に、熊越斬波の一党が、この〝城〟に攻め寄せたならばどうなりましょう。冴威牙が敵を得られぬのみか、残る者悉く鏖殺の憂き目に遭いはしないか、それを恐れておられるのです。

 ですから、冴威牙様、一人で向かうよりはいっそ、五十の総勢を率いて夜討ちを仕掛けるが上策と――」


 短く吸った息を一気に吐き出し、紫漣は冴威牙の言葉を止めながら、場の中央に割り入った。

 語り口調は明快にして、凛声鮮やか、学の無いものならば内容を解さぬままに従うだろう言葉を発しながら、然し紫漣の顔には焦りが浮かぶ。

 その焦りも、殆どの者には気付かれなかったが、やはりただ一人気付く者が――夕霧が居た。

 一瞬、視線が交錯する。二人は互いに、何の確証も持たぬまま、互いの思惑を悟った。


「夜討ち――冗談じゃない! あいつらの縄張りに、この人数をぞろぞろと連れて飛び込もうってのかい!?」


「ならば恐れを知らぬ者ばかり何人かを選んでも良いでしょう、何れにせよこのまま座して待って居てはやがて――」


 然し、其処まで。

 激論を交わす二人の間に冴威牙が割り込んで、紫漣を抱えるようにして引き剥がしてしまった。


「要するに、だ。夕霧は逃げたい、紫漣は攻めたい、って訳だろ? じゃあ話は早えよ。

 俺と紫漣で連中を潰す、夕霧は他の連中を連れてどっかに逃げる、それだけの事じゃあねえか?」


 言うが早いか冴威牙は、紫漣を肩に担ぎ上げて、大股に〝城〟の外へ出て行こうとする。

 追いすがる者も一人とて無いが、冴威牙はまるで意に介さず――


「随伴! 何人でも良い! 冴威牙様をこのままに殺すつもりが無いのなら、続きなさい! 迅く!」


 だが、紫漣は最後まで、冴威牙の肩の上から、後方に取り残された面々へと叫ぶ。


「お前も大袈裟なもんだなぁ……」


 気楽な散歩にでも出るような風情の冴威牙を、夕霧は変わらず、鬼の面相で見送った。






 腹に蓄えたはかりごとを、何事も無く実行するには、夕霧という女は役者不足である。

 が、周囲の役者がそれ以上に大根であった事、唯一並べるだけの花形役者は、まだ周囲の信が薄かった事が、半ばまでの成功を呼んだ。


 ――半ばまで。

 

 ほぞを噛み、夕霧は、とうに居なくなった紫漣へ、恨みがましい目を向ける。

 先んじて夕霧は、冴威牙の子分達に、「冴威牙が一人で行くようなら自分達を裏切った証だ」と説いた。

 理屈の巧拙はさておき、断定する語気の強さと、集団の中で権力を持つ夕霧の立ち位置に、彼等は無心にそれを信じたものであった。

 それが、紫漣の叫びで、幾分か綻んだのである。

 このままに行けば、冴威牙は死ぬと――論拠を出さぬ事は同じながら、叫んだ。

 つまり、冴威牙は戦いに赴くのだと、改めて彼等に示したのである。

 もしこれで、紫漣と夕霧の、他の者からの信の度合いが逆であれば、夕霧の企ては完全に潰えていただろうが――夕霧の幸、紫漣の不幸、人の信は一朝一夕に得られない。


「……そら、見た事かい」


 苦々しげな表情を、わざと取り繕わぬまま、夕霧はぼそりと吐き捨てた。

 すると、夕霧の意を組んだ一人がすかさず立ち上がって、


「姐さんの言う通りだ、冴威牙の野郎、てめぇの女だけ連れて行きやがった……!」


 露骨に床を踏み、悔しそうに言うのである。


「こうなるかもとは思ってたけど、やっぱりあいつは野良犬だ。あたし達より、拾ったばかりの女が大事なんだよ」


 夕霧は、周囲の目が自分に向いているのを、まずはぐるりと首を回して確かめた。

 それから、最も意の侭に動かしやすそうなおどおどした少年を選んで、その襟首を掴み、


「……さあ、どうすんだい」


「ど、どうって――」


「あたしらだけで、熊越斬波とその一党百人、どうやって防ぐんだって聞いてんだよ!」


 その一人を通して、全体を恫喝する。

 無論、答えなど返る筈も無いのだから、少年が口を動かす前に、夕霧は言葉を続ける。


「元々あたしらは、斬波の一党とやりあうつもりなんか無いんだ。冴威牙が独断で、あいつらに手を出して殺しちまったが……冴威牙一人の馬鹿のせいで、あたしらが皆殺しなんて冗談じゃない!」


 当初の予定では、この辺りで賛同の声が上がり、五十の群れは一つの敵に対し敵愾心を露わにするという算段であった。

 その謀略は崩れたが、然し取り残された冴威牙の子分の半数以上は、夕霧と同じ事を思った――思わされた。

 自分の仲間が、強い言葉で発した意見を、自分の意見のように錯覚する――自我もまだ薄弱な、未熟な少年達に於いては止むを得ない事でもあっただろう。

 そうだ、そうだと、呟く小さな声。聞き逃さず夕霧は、唇に指を当て、


「……しっ!」


 静まるように指示を出しながら、〝城〟の外を指差した。

 ずしゃっ。

 ずしゃっ。

 重苦しい足音が聞こえるのである。

 冴威牙が戻って来たものかと思った者も居たが、普段の冴威牙の足音の、倍も喧しいように思える。


「いいかい……あたしは、あんたらを死なせたくない。だからこうするんだ」


 夕霧はそう言って、自ら〝城〟の外へ出て、足音の主を内へ迎えた。

 むくつけき大男であった。

 百貫デブという言い回しが有るが、そこまではいかずとも、ゆうに四十貫の目方は有ろうかという大男である。

 だが、肥満体では無い。太い骨に分厚い筋肉が乗り、それに脂肪が重なった、兎角巨大な男なのだ。

 身の丈も、七尺は有る。熊の毛皮を被っているが、それが小さく見える巨漢である。

 そして手の巨大な事と言ったら、子供の頭をすっぽりと包んでしまいそうな程であった。

 然し何より、その男が誰であるかを如実に示すものはと言えば、三尺の刃に一丈の柄、しめて十三尺の大薙刀――


「……てめぇら。逆らったら、殺すぞ」


 『薙刀斬波』こと熊越 斬波は、まるで己が城主であるかのように〝城〟の上座へ座すと、これまた当然のように、夕霧を隣に侍らせた。

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