5戦目 飛距離
翌朝射的の練習場に来ていた。村のすぐ近くと言うから歩いてきたのですが……
「すぐ近くって言うから来ましたが……遠すぎませんか?」
「そうですか?良いウォーキングになりましたよ?」
「メアリー様は少し体力が落ちたのではないですか?」
この姉妹は平然と歩いていた。マーヤは言わずもがなで息一つ乱していなかった。
「すいません。この村のすぐ近くは山道を1つ越えるくらいなんです。」
なるほど足腰を鍛えるという面でもこれは良いかもしれませんね……私も今一度体力作りを検討しましょう。
「弓矢の的ってあれですか?」
そこには色んな場所に的が作られていた。崖の上や、茂みの中、最上段は見上げるほどの断崖絶壁……
「矢は誰が回収してるのですか?」
「村長です。代々村長になった者がやる事になってます。」
と言う事はやはりあの村長さんも只者ではないんだろう。そしてマーヤはまず1番近い的に照準を合わせた。それでも距離はおおよそで5メートルあるだろうか?
ヒュンッ!
「おおー!」
アネリーが感嘆の声を上げる。当然だ。少し風のある中矢は的のど真ん中に当たっていたんだから。
「流石ですね。風を読むのも一級品です。」
「ありがとうございます。ここは子供達も訓練に使用するので短い距離の物もあるんです。」
5メートルが短い距離というマーヤ。確かに第6師団の訓練では最短8メートルからだけど……子供の時から5メートルスタートなのは私も驚きを隠せない。
「ねぇねぇ、私にもやらせて!」
「いいですよ。どうぞ!」
「ありがとう!」
アネリーは見よう見まねで弓の弦を引きますが……
「んぎぎぎぎぃぃぃぃい……はぁはぁ……引けない……」
「あっ、すいません!これは私専用なのでこちらをお使い下さい!」
弓の形にさほど大差はないだけどたぶんどこかが違うのだろう。
「何が違うのですか?」
「えっ?あ、外見ではあまり見分けがつかないですよね。弦の張り方が少し特殊なんです。私の弓は普通のものより強く張っているんです。」
「張り方で何が変わるのですか?」
やはりこの手の話はコーネリアも興味があるらしい。戦術においては武器の精度や特徴も熟知しておく事が重要ですから。
「単純に飛距離が変わります。それと貫通力も……大昔ですが人間とは思えない怪力で一矢にして船をも沈めたという伝説が残ってるくらいですから。」
とんでもない話だけれども所詮は昔の話、尾びれがついて話が飛躍してる可能性もある。話半分くらいにしとかねばなりません。
「おおー、引ける!」
「そのまま弓を少し右へ、風が弱いので少し傾ければ的に当たります。」
そしてアネリーは弓を引いて的を狙っていた。
ヒュン!
「あれ?」
「少し上過ぎてましたね。放つ時に少し跳ね上がったかもしれません。」
「難しい……」
それでも第2射で的に当てられるのは流石としか言いようがありません。でも、今日の午前の目的は違いますのでアネリーはこの辺で……マーヤの実力を見たいと思います。
「では、次はあの的を……」
「何をしとるんだ貴様ら?」
声の方を見ると村長がいた。
「あっ、おはようございます。」
「朝から稽古とは関心だが、マーヤの実力を見たいならこっちにこい。マーヤ合図をもって射ろ。」
「は、はい!」
そうして私たちは村長さんに付いて行きます。
「あの、どこへ?」
「あやつの実力を知りたいのだろう?ならばあんな所で見てても時間の無駄だ。」
「あのさー、マーヤに対して少し酷くないですか?村長さんとマーヤの関係って何なの?」
口調はあれだが、アネリーの質問は私も気になっていました。
「なんだ聞いてないのか?あやつはわしの孫だよ。」
「孫ですか?」
血縁関係なのは薄々は感じていたけどまさか孫とは思わなかった。
「あぁ、昔からよく弓矢を持って遊んでいた。的を狙っては外して狙っては外してを繰り返す馬鹿な可愛い子だったよ。」
「ツンデレじゃん。普通に褒めなよ。」
「やかましいぞ小童!だが一度コツを掴んだらみるみるうちに腕を上達させて行った。そしてこの村1……いや……恐らくはこの国で1番の弓矢の使い手となった。それでもアイツには弱点があった。」
「人間には撃たない……ですね。」
「そうだ。それなのにいきなり軍人達はマーヤを連れて行きおった。アイツは動物でも弓を射るのを躊躇う事がある。それはただただ優しいからだ。動物達も生きるために必死なだけだと知ってるから躊躇う。それでも狩人になったのは村の人間を護る為なんだ。アンタ指揮官なんだろう?マーヤはちゃんと仕事しとるのかね?」
不意の質問だった。私はまだ彼女の上官になったばかりだが総指揮官の時に知ってる彼女の戦績は0だ。それでも私が彼女を欲しがった理由は道具の作りと兵站確保の為の人財確保だ。だから私はこう答える。
「私はまだマーヤさんの上官になったばかりですがこれまでの戦績で戦果は上げてません。それでも彼女は……マーヤはできる事をしっかりやってます。そこを評価して私は彼女を引き抜きました。」
「お前さんは……マーヤの実力も知らずに引き入れたのか?」
「はい、狩人の時のマーヤは私にとって未知なんです。」
「そうか……ならばその目で確かめろ。あの子の実力をな。」
そう言って登ってきたのはかなり高い崖の上。そこにポツンと立っている的がありました。
「この場所はかなり高いですね。」
「落ちるなよ。ここはマーヤ専用の的だマーヤしかここまで飛ばさんからか。」
コーネリアもアネリーも落ちたら一巻の終わりと思い慎重に歩を進める。かく言う私も慎重になっています。そして的の周りにくると少し足場が広くなりました。上からみると微かに先程までいた場所が確認できました。的は普通のと違い上から垂らされてるのではなく斜めになる様にしていました。おそらく下から見える様にしてるのでしょう。そこで村長がベルを取り出して2回鳴らしました。
……ヒュンッ!
そしていつの間にか的のど真ん中には矢が刺さっていたのです。
「……まぁまぁだな。」
村長は矢を引き抜くとそのまま回収して帰ると言わんばかりに来た道を歩き始めました。
「ま、待ってください!今の本当にマーヤが?」
「信じられんか?あやつは高さなど気にせずともここまで飛ばせるレベルの速度で矢を射れる。あやつの矢は一級品だ……何か策があるようだが纏まったか?」
「ええ、規格外でしたが、立てやすくなりました。」
「そうかい……」
マーヤのいる場所まで戻った私たちは村長さんと別れて村に戻りました。
「作戦を立てました。みなさんよろしくお願いします。」
「作戦会議ってこんななんだー!」
「こら!はしゃがない!すいません話の腰を折ってしまって……」
アネリーは初の作戦会議だからテンションが上がるのは無理もない。
「大丈夫です。まずはグリズリーの発見からです。これは私、コーネリア、アネリーの3人で行います。」
「スリーマンセルですか?」
「いいえ、各個です。見つけ次第ベルを鳴らして伝えます。そしてこれから目印を付けに山へ入ります。出来ればここで出会えれば4対1で勝負を決めれますが、確率は低いでしょう。」
「目印ってその縄?」
私が持っている物をアネリーは指摘しました。それは少し太めの赤く塗装した縄でした。
「そうです。この赤い縄を目印にマーヤさんには矢を放ってもらいます。」
「わ、私ですか!?」
「そうです。マーヤさんの弓矢の範囲は約500メートル強と見ました。そこまで私たちが引きつけ、あとはマーヤさんが不意打ちをし、私たち接近戦の者が止めを刺します。」
「まっ、待ってください!」
遮ったのはマーヤだった。まぁこれは予想内だ。
「私にはそこまでの技量はありませんし、まずみなさん戦えるのですか?」
「私は出来ますよ?」
「私も……人相手より楽ですから。」
「一度で良いからグリズリーと戦ってみたかったんだー!」
アネリーだけわかっていないがまぁいいでしょう。
「大丈夫ですよ。マーヤの弓は信用に値します。見える範囲も大体わかりました。そして私たちは皆一騎当千の力があります。人手がいない以上この方法がベストです。それに……」
私は一拍置いて話始める。
「マーヤは弓矢で大切な人を守りたいのでしょ?」
「……はい。」
「なら、マーヤにも覚悟を決めて貰わないと……ここの村を守れるかはマーヤ自身ですよ?」
私の言葉でマーヤの目には確かな光が宿った。覚悟の目です。その目、覚悟は生死の境目、または重要な局面で非常に大事になります。私は地図を広げて設置場所に印を付けていきます。
「設置する場所はこの3点にしましょう。そしてベルは3つ、それぞれ音の違うベルを用意して貰いました。」
「どうやっても弓矢は真っ直ぐにしか飛びません。なので遮蔽物のない場所へ誘導するというわけですね。」
「そう……私、コーネリア、アネリーでは決定打になりません。マーヤの一撃が必要なのです。」
「な、なんだか責任が……」
「安心して下さい。」
「メアリーさん……」
「ハズレればその持ち場の人が死ぬだけです。」
「メアリー様!」
久しぶりにコーネリアに怒られました。そしてマーヤの顔は青くなっています。
「冗談です。ポイントの間はそこまで離れてませんからはずしてもすぐに2対1になります。」
期待も自信もある。だけどプレッシャーの掛け方を間違えてしまうと実力が出せない場合もある。それに仲間を犠牲にするのは私の信条に反してます。その為に二段構えには絶対します。
「全く、まだ会って数日の方になんて事言うんですか……」
「戦士である以上覚悟は必要です。貴女ならわかるでしょう。コーネリア……」
「……それでも時と場合にもよります。」
「それもそうですね。では、気を取り直して……役割を再確認です。今回は捕獲ではありません。殺処分です。遠慮はいりません。全力でやって下さい。そして深追いもしないで下さい。逃げる様でしたら追わずに待機でお願いします。」
「なんで?追った方が良くない?」
「アネリーの言いたい事もわかります。しかし山での戦闘は普段の地面より不安定です。特に上り坂下り坂での戦闘経験がまだないアネリーには危険でしかありません。それに山の中では山道から離れてしまうと見付けづらくなります。なるべく生存確率の高いやり方をしましょう。」
3人で動いた方が明らかに安全ではあるけど発見確率も上げたい。幸いにも私もコーネリアも一騎当千型だったから簡単には死なないという自信はある。ただアネリーは少々不安が残る。深追いしてしまいそうだし、山での戦い方はまだ知らないだろう。だけど今回は見つけてくれれば100点だ。
「中間地点はアネリー、その左右の持ち場に私とコーネリアで行きましょう。」
私の場所は1番の出没ポイントです。次にアネリー、コーネリアとなります。射的場に現れた事はないということなのでマーヤは射的場に待機して貰います。
翌朝、昨日場所の確認と目印を設置し、マーヤの視界と射的範囲内を確認した私たちはそれぞれの持ち場に来ていた。
(私の場所に来てくれますかね……)
コーネリアは私と何度も模擬戦をしている為実力も分かっています。アネリーは確かに強いです。恐らく普通に戦えば私よりも……でも実戦経験があまりにも少ない。強い者が命を落とさないとは限らない……その日の体調、運、気候によって亡くなってきた者を何十人と見てきた。大切に育てたい……でも、人手も足りない私たち……やはり騎士団にそのまま入隊させるべきだったか……そんな事が頭をよぎった時ベルの音が鳴った。
「アネリーだ!」
最悪だと思いつつ私は脱兎の如く山を登り進みます。その瞬間、ヒュンと頭の上を一本の矢が通って行くのが見えました。数枚木の葉が落ちるのを見た瞬間我に返ります。
「マーヤ……?」
私は急いで現場に向かうと一頭のグリズリーが既に死んでいました。撃ち抜かれていたのは丁度目を一直線に貫いていたのです。
「……マーヤが?」
「うん……凄かった……私が誘導して紐を超えた次の瞬間には目を貫いてそのまま……」
一切の切り傷もなく、ただただ目を撃ち抜かれて死んだグリズリーを見てとんでもない子を拾ったと思うのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回更新もお楽しみに!
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