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4戦目 初仕事

 何はともあれ引き抜きには成功しましたから今日のお仕事は終わりです。


「みなさんお疲れ様でした。明日は休みにしますから休養に当てて下さい。」

「私たちもお休みでいいのですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。1日休んでもらって構いません。」


 という事で、明日は休みにしました。休みにしたのですが……


「なぜ私の執務室に皆さん居られるのですか?」

「暇ですから……」

「姉について来ました。」


 サーシャ姉妹が私の執務室で何故か休息を取っていた。


「そういうメアリー様も執務室にいるじゃないですかー?」

「私はここが家であり職場ですからね。」

「たまには実家に帰られたらいかがですか?もう総指揮官ではないんですから……」


「んー……やめておくわ。またスキャンダルみたいになられるとみんなに迷惑かけてしまうでしょうから……」


 下級貴族出身の私が総指揮官になった時、上級貴族たちからの反発は凄かった。沈静化するまでに相当な時間もかけてしまいあの時もコーネリアには迷惑をかけてしまった。あれ以降家族とは年に一度だけ手紙を送る事にしています。


「戦争に出る軍人に政治が口を出すのって変な話だね。」

「そうね。でも悲しいかなそれがこの国なのよ。それに他人事じゃないのよ。1番メアリー様を蹴落とそうとしてるのは父上なのですからね。」

「ええー!あの父上がなぜ⁉︎」


 私の政敵はサーシャ家の当主です。私から敵対心はないのですが自分の娘が私のような下級貴族の小娘に顎で使われてるのが許せないんでしょう。なので何度もコーネリアに異動を推薦してみたのですがコーネリア自身はこれを拒否。たまに親子喧嘩をして私の所に寝泊まりしてた時期もあった。


「私達がメアリー様の下に付くのが許せないんですよ。」

「……なんで?こんなに優秀な指揮官なのに?父上は何を考えているのですか?」

「あぁ……アネリーさんは知らないのですね。」


 コーネリアはアネリーに説明した。(おおやけ)になってない情報ですから知らないのは当然です。簡単に言うと……功績を上げてる事が問題なのだ。自分たちの娘が下級貴族のしかも年下の娘よりも劣等だと他の貴族から言われてるのが許せないのだ。成果は皆で勝ち取った物なのにだ。要するに世間体を守りたいだけである。それ以上でもそれ以下でもない。だから公にはならない。


「ちょっと父上に直談判してきます。」

「やめなさい。私まで降格した事が知られたら軍にまで口を出しますよ。」

「それでも……」

「はい!そこまでです。」


 これ以上過激になる前に姉妹喧嘩を私が止めました。そもそもコーネリアの場合は別件でやらかして降格したのでそれ以前の問題な気もしますが……


「無意味に争いを生む必要はありません。私も争うつもりはありませんから。職務を全うするだけです。」

「でも、納得が……」

「しなくて大丈夫です。相容れないのでしょう。そういう宿命ならば仕方がないのです。」


 諦めていれば割り切れられる……常に冷静に私情を持ち込まないようにしないと作戦に支障が出てしまう。


「……分かりました。」


 そしてアネリーが納得したところで私も休もうとした時でした。私の執務室をノックする音がしました。


「あ、あの失礼します。」

「あら?マーヤさん?今日からお休みなのでは?」


 入って来たのはマーヤだった。しかし今日から実家に帰ると言ってた筈が私の執務室に来ている。


「お休みのところ申し訳ありません。お力を貸して頂けませんか?」

「何かあったんですか?」

「ええ……」


 とりあえず座らせてコーネリアは紅茶を淹れてもらいます。まずは落ち着いてからのお話です。


「それでどうしたの?」

「最近害獣が多発してるのはご存知ですか?」

「初耳ね。ごく最近なの?」


「数ヶ月前からだそうです。」


 私が総指揮官の時からみたいでした。私はコーネリアに目を合わせると彼女も顔を横に振る。つまり私たちには届かないところで話があったらしい。


「ごめんなさい。私たちの元にまで情報は来てないみたいなの。最初から説明してくれますか?」

「わかりました。今国境付近の北部の村での戦争は停戦状態なのはご存知ですよね。」


「もちろんです。あの作戦の指揮は私とコーネリアで行い無血で停戦にしましたから。」

「地形は少し変わりましたがね……」


 あの時行った作戦は水を堰き止め(せきとめ)て別の道に水を流す事で相手国に水の恩恵を与える代わりに停戦へ促したのです。そしてその気になればそちらの国を水責めする技術もあると嘘の脅しをした結果停戦になったとも言えます。


「あはは……それでそれがどうして害獣騒ぎに?」


「はい、実は私の実家がその村なのですが、昨日帰ったら手紙が来ておりまして内容を確認した所その時はまだ活動期でなかったグリズリーがこちら側で冬眠していたらしく春がきて冬眠が開けて帰れなくなっているそうです。その時に一度私に手紙が来ておりまして……第6師団の指揮官には伝えたのですがそれ以降連絡はなく、手紙で今は国からは助けは出せないとだけ伝えました。そこからさらに現在は新しく出来た川にはまだ魚が住める環境でもなく更に巨体のグリズリーも現れた様で……」


「なるほど……それで更に暖かくなって活発になったグリズリーが食料を求めて暴れだしたと……私たちの責任ですね。ごめんなさい!」


 私は頭を下げて謝罪した。そして現場の現状を知らないという無知っぷりです。謝って済む問題では無いですが頭を下げなければ始まる事もできません。


「いえ、お二人はお忙しいのですから仕方ありません。ですが……助けてもらえるとありがたいのですが……」

「それは私の責任ですので引き受けます。」


「ありがとうございます!では、向かいましょう。北部の村、アパト村へ。」


 今回は4人全員で向かいます。しかし行くのもなかなか骨の折れる作業です。なぜなら片道1日は掛かるのだから……山を2つ超えた先にあるアパト村は我が国最北の国境沿いの村、ここは水がとても綺麗で土壌も栄養豊富な事で果物の栽培をしています。しかしその豊かな土地が戦争の種になってしまっているのです。


「馬車の旅はあの作戦以来ですね。」

「そうですね。ですが私どもまで連絡が来てないのは少し納得出来ませんね……」

「メアリー様は政敵が多いですからね。切り崩せる場所を作って失却させるのが狙いだったのかと……」

「貴族様達は自分の国民より自分の立場を守る方が大事なのですね。」


 この国の未来は明るく無いのかもと頭を抱えてしまいそうになりました。それはひとまず置いといて、アパト村に入るところまで来ました。景色は相変わらず木々が覆うように茂っています。


「木こりの数も減っているのですね……」

「減っていますね……年々引退していってますから……ですが今は森に入るのが危険過ぎるので誰も入れないのです。」


 この問題は政治をしてる貴族様達に相談しておきましょう。長期的に見ても必要な事です。将来水資源の枯渇、生態系の異常、また今回みたいな害獣問題にも直結してしまいますから。


 かなりの距離を進んだところで日が沈んでしまいました。


「あと少しですし、進みますか?」

「アネリー行けそうですか?」

「任せなさい!」


 アネリーは馬に鞭を打ち走らせます。そうして着いたアパト村はひっそりと静まり返っていました。夜なので当然ですが、どこか不気味にも見えました。まずは村長さんに挨拶をしに行く事にします。


「今更何の様だ。」


 まぁ当然歓迎はされてはいないでしょう。これまで野放しにしていたのですから……


「対応が後手になった事は申し訳ございません。ですがまだ間に合います。お話を聞かせて頂けませんか?」

「お国のお役所様にしては随分低姿勢だな。まぁソイツが直に話して連れて来るのだから大して期待してなかったが低姿勢なところを見ると本当に大した事なさそうだな。」


 ソイツと呼ばれたのはマーヤだった。マーヤは昨日見てた限りかなり控えめでお世辞にもコミニケーション能力が高いとは言えない。つまりはそういう事だ。私たちに対して期待してないという事なのだろう。態度に出してないがコーネリアは怒っていた。そして明らかに怒っているのはアネリーだったがコーネリアが抑えてくれていた。


「役不足なのは百も承知です。それでも何とか助けたいのです。」


 それを聞いた村長は少し空気を柔らかくしてくれます。


「マーヤよ……話に聞いてた人間とは思えんが?」

「手紙で書いた方は確か2月程前の方でしたので。一昨日から私の上司になられた方はすんなり話を通してくれました。」

「そうか……それはすまない事をした。気を悪くさせたな。ぜひ助けて頂きたい。」


「最初からすなむぐ……」

「な、何でもありません。では、お話しに入りましょう。」


 アネリーの口を無理やり塞いでくれたコーネリアに感謝しつつ本題に入ります。


「それでは現在グリズリーはどのくらい増えているのですか?」

「まだ大した数にはなってはない。ただ化け物が1匹居てな。其奴を狩れば問題ないんだ。」


 という事はその1匹を狩る作戦を考えれば良い話になるけれどもなかなか難しい話になった。


「体長はどのくらいなのですか?」

「おおよそだが、2メートルはあるだろう。体格がデカいという事はパワーも体力も桁違いという事。私が弓矢を放ったが貫通はしなかった。肉も厚いんだと思う。」

「なるほど……」


 今の所打つ手無し……いや、あるはずです。何か手が……


「昔のソイツの矢なら貫けたかもしれんがな……」

「マーヤがですか?」


「あぁ、現れた初期ならばまだ肉が薄かった。冬眠明けだったからなぁ。今の肉厚になったヤツを撃ち抜けるのは最早おらんだろう。」


 村長さんはもう諦めていられるがどうやらキングを取る手段は近くにあったようです。私たちは近くの小屋を借りて寝泊まりする事にしました。


「マーヤは実家で寝泊まりしたら?せっかくなんだし。」

「いえ、私も皆さんと一緒に……なんだか野営みたいで楽しみです。」


 たぶんこれまでこんな行事に参加してこれなかったのだろう。楽しそうなマーヤをみてみんなほっこりする。


「それでメアリー様、どうするのですか?」

「ん?作戦の事?そうね。まずはマーヤに頑張って貰おうかしら。」

「私ですか?お力になれればいいのですが……」

「大丈夫よ。村長さんがマーヤの腕を褒めてたみたいだし。あの村長さんはあまり他人を褒めないでしょう?」


「確かに褒めませんが……褒めてましたか?」

「私はまだマーヤの弓の腕は見た事ないけれどあの言い方だと相当の凄腕ってわかったわ。射程距離も相当なのでしょう?」

「えっ?普通ですよ!」


「そうかしら……?まぁ明日見せてもらいますからそこは良いんです。当面の問題は……」

「グリズリーをどうするかですよね。」


 私はコーネリアの言葉に頷いた。結局今いる特殊個体を殺したとしても第二第三の特殊個体が出た時に対応出来なければ意味がないんだ。


「全部狩ればいいんじゃないの?」

「それはダメです!」


 アネリーらしい答えだが、それはマーヤが否定して理由を続けた。


「自然界にもルールがあります。グリズリーは基本雑食です。ですがグリズリーは草食動物を食べてくれるんです。草食動物が増えてしまうと草木が枯れます。草木が枯れば昆虫たちひいては私たち人間も自然の恵みを受けられなくなります。」

「あっ!食物連鎖ってやつ?」


 私は頷いた。学校でも習うのでその答えに辿りつけるのは素晴らしい!


「その通り。共存しないと私たちも生きていけないんです。」

「ある程度数を減らすしかないですかね……」


「その手しかないかしら……」


 半ば諦めかけた時アネリーがポツリと呟きました。


「いっそ養殖してみます?」

「育てるということですか?………………いいかも?」


「「えっ?」」


 コーネリアとアネリーが疑問の表情になった。


「コーネリア、帰ったらコレを調べて貰えますか?」

「えっ?コレって……?」

「さぁ明日に備えて寝ますよー」


 という事で今夜は終わりになりました。


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