吸血姫vs神子
「《神聖なる炎》」
「《暗黒の炎》!」
ルヴェルズの光属性と炎属性の混合魔法を、闇属性と炎属性の混合魔法で打ち消す。
けど、半分くらい打ち消しきれず、慌てて避ける羽目になった。
それを見逃さないルヴェルズが、例の魔力介入無しのテレポートで私に迫る。
「ふんっ」
「ガフッ!」
私は上に吹き飛ばされ、直後にその上にテレポートしたルヴェルズがわたしを蹴り落とす。
下に落ちる前に体勢を立て直し、闇属性魔法を連射。
けど、その闇はすべて払われた。
「………女神の加護か」
「その通り。聖十二使徒の中で、余のみが与えられた完全な女神の加護だ」
聖十二使徒が女神に与えられた加護は、あくまで限定的なもの。
単純なステータス増強や、全盛期の肉体を維持する程度のものでしかない。
一方ルヴェルズだけは、人類で唯一本物の女神の加護を与えられている。
私やヨミ、魔王様がイスズ様から邪神の加護を授かったように。
「闇属性に対する圧倒的な耐性。闇に生きる貴様ら魔族にとっては、これ以上なく効果的だ」
「光に生きてると思い込んでる痛々しい種族のエセ光属性耐性でよければ、こっちだって持ってるわ。一つ属性封じてるくらいで調子乗んなバーカ」
瞬間、ルヴェルズの姿が消え、背中に衝撃が走る。
「あぐっ!」
「調子に乗っているのはどっちだ?」
そのまま飛ばされ、教会の中に入ってしまいそうになる。
屋根があると、月の加護の効果が激減する。それだけは避けなければならない。
慌てて反対側に衝撃魔法を撃って勢いを殺す。
「危なっ………」
「《紅炎の襲撃》」
「うわっ!?《凍てつく波動》!」
超高温ガス魔法を超低温魔法で中和。
その隙に離脱して体制を整える。
うっそだろこいつ。これでまだ、全盛期より下?
ルヴェルズ・ヒューマンロード、聞きしに勝る強さとはこのことだ。
***
ルヴェルズ・ヒューマンロード 人間 Lv286
職業:闘神
状態:健康・部位欠損・女神の加護
筋力:145430
防御:132480
魔力:112300
魔防:145270
速度:117190
魔法:元素魔法(全)・精神魔法・結界魔法・光魔法・身体強化魔法・破滅魔法・回復魔法・時空魔法
***
年齢の影響で『勇者』の力こそ失っているし、かつてフラン様との戦いで右腕を奪われているために隻腕。
でも、神級シリーズの一つ『闘神』で、しかも五つの神器で身を固めている。
アルスの力で、その大まかな概要も判明してる。
連撃破壊促進の神器『双刀イポス』。
別格にして最強と称される七つの神器の一つ『業炎アモン』。
フラン様の足を呪った神器『呪針モラス』。
さっきからやってる、空間転移の神器『瞬変テイン』。
意志が弱い者や弱っている生物を魅了して操る神器『魅眼シオン』。
全ステータス10万オーバーで、しかも空間転移してくるせいで私の天眼アルスの動作予測や未来視の性能が十全に引き出せない。
正直、私とは最悪の相性だわ。
「《月光収束》!」
「フン」
月齢で威力が変化する高密度の闇属性魔法も、当たらなきゃ意味がない。
さっきから一切インターバル無しで転移してくるこいつの神器のせいで、私の攻撃がほとんど当たらず、逆にアイツの攻撃はかなり私に入ってくる。
「このっ!」
「無駄だ」
「うあっ!?」
まるで、私の動きを完璧に読んでいるかのように空間転移が働く。
転移場所は不規則で読み切れず、アルスの力で未来予知して辛うじて避けるのが精一杯。
マジで化け物だ、こいつ。私が今まで見てきた中で、魔王様を除けば一番強い。
しかも腹立つことに、こいつの切り札であるはずの『業炎アモン』を一度も使っていない。全然本気を出してないってことだ。
何より厄介なのが、あの空間転移だ。
瞬変テインは、厳密には転移魔法とは違う。『自分を中心とした一定範囲内の自分の存在位置を変更する』という特性を持つ神器。
つまり、転移魔法みたいに空間に穴をあけて移動するわけじゃなく、自分の座標を強制的に書き換えてしまう。
その性質上、消えてから現れるまでのタイムラグが存在しない。
しかも、転移魔法みたいに次の発動までのインターバルもない。
分かりやすく言えば、こいつの近くにいる以上、何をしたってこいつに速度で勝つことはできないってこと。
なら、方法は一つ!
「《電撃波球》!」
自分を中心とする広範囲魔法で、逃げ場を封じるまで!
魔力消費が激しいからあまりやりたくなかったけど、仕方がない!
「………ちっ」
案の定、ルヴェルズは転移しきれず、自力で魔法の効果範囲外に出ようとした。
「無駄だ!」
「っ!?」
だけど、ルヴェルズは範囲外に出られなかった。
私がどさくさに紛れて張った結界に阻まれた。
急ごしらえだから一瞬で破壊されるだろうけど、その一瞬で十分!
「ぐっ………!」
私の雷が、ルヴェルズに襲い掛かった。
雷が収まると、私を若干の疲労感が襲う。
魔力消費が激しい魔法を長時間使ったツケだ。
けどその成果あり、ルヴェルズは傷を負った。
この隙に、一気に畳みかけなければ。
「よし、これで………え?」
私は右腕を振り上げて魔法を放とうとした。
そして気づいてしまった。
右腕が動かない。
慌てて見ると、二の腕辺りを中心に、刺青のような痣が広がり始めていた。
「これっ、フラン様と同じ………!?」
「ようやく、効いてきたか。この神器は呪い発動まで時間がかかるから好きではないのだ」
ルヴェルズの方を向くと、その手には私の血が微量についた針があった。
いつの間に………!?
「『呪針モラス』。その特性は貴様の神器で分かるであろう」
呪針モラス。フラン様を行動不能にした神器。
有する特性は言うまでもなく『行動阻害の呪い』。
モラスは、五本の針で作られた五本一組の神器。
体のどこでも一本刺されるごとに、ランダムで四肢のいずれかの動きが封じられる。
一度刺された針は二度と同じ人には通じないけど、別の針を使えば別の四肢が封じられる。
そしてすべての四肢を封じられ、五本目の針を刺された人は、内臓の活動を封じられて死に至る。
「これで互いに腕を失ったな。だが、五体満足の時ですら余に手も足も出なかった貴様が、その状態で余に勝てるとは思えぬ。諦めることだな」
「誰が、諦めるか!」
とは言ったものの、かなりまずい。
ヨミが来るまでの時間稼ぎすら怪しくなってきた。
「では行くぞ」
「ぐっ………」
瞬時に目の前に転移してきたルヴェルズの剛拳が、私の鳩尾に突き刺さる。
反射的にガードしようとしたのが悪かった。思わず利き腕である右腕、呪われた方の腕を出そうとしてしまったせいで、ガードが遅れた。
「げほっ!」
そのまま吹き飛ばされ、しかし吹き飛ばされた先にルヴェルズがいる。
二本目の針を構えて。
これ以上あれに刺されたら、マジで一巻の終わりだ。
瞬時に転移魔法で教会の裏側まで移動する。
「危なかっ」
「遅い」
「うわっ!?」
瞬時にテインで転移してきたルヴェルズの針が、私の目に突き刺さりそうになる。
アルスで先読みしていた私は、辛うじて首を傾けて躱し、魔法で後ろの壁を破壊して脱出。
「………しぶとい」
「うるさい!」
ヤバい。このままだと、マジでやられる。
ここからは防御に全力を注がなきゃ、死ぬ。
早く、早く来て、ヨミ!




