転生勇者と決着
「あぐっ………!」
「………………しぶといなあ」
謎の声が聞こえた直後、なぜか俺から湧き上がる力が爆発的に上昇した。
勇者の力が強まり、俺自身が速いせいか、世界が止まって見えた。
だが、それでも………そこまでの力をもってしても、ヨミには手も足も出なかった。
「く、そお………!」
「いきなり力が上がったからちょっと焦ったけど。所詮この程度か。でも、自動回復能力があるのは厄介だね。それに、たまにボクの剣を避けたり、反撃に転じようとしてるし。まあ一太刀も当たってないけど」
おそらく、俺に起きた現象の正体は『覚醒』だ。
勇者としての到達点。その数々の恩恵は、覚醒と同時に頭の中に流れ込んできている。
「反撃とか回避ができてるのは………反射神経が異常値まで上がってるのかな?自動回復には魔剣ディアスの回復阻害は効果を成さない、と………うん、だんだんわかってきた。次か、次の次で殺せる。いくら自動回復と言っても不死身じゃないよね。なら再生できないくらいにコマ切れにすればいい」
「………………っ」
おかしい。なぜだ。
ヨミが強いのは分かる。それはもう疑いようがない。けど一つだけ、腑に落ちない。
勇者として覚醒したことによる恩恵の一つに、『善属性・悪属性に関わらない魔族に対する絶対優位性』というものがあった。
これはつまり、魔族の攻撃がすべて俺に通用しないことを意味する。
なのに、どうして。俺はこうやって傷を受けている?
神器の効果か?いや、対覚醒勇者用の神器なんて作られているわけがない。
「………………一つ、いいか」
「なに?」
「………お前は、何なんだ」
「その質問はさっきも答えたよ?人間のことはゴミくらいにしか思ってない、魔王軍の戦闘員だってば」
「そうじゃない」
ヨミは、わけがわからないという顔をする。
「………覚醒した俺は、魔族である限り誰にも傷つけられないはずなんだ。なのにお前は、俺に何度も攻撃を与えてきている。………どんなからくりなんだ」
そう言うと、ヨミは「ああなるほど」とでも言いたげな顔をして、
「それはそうだよ。ボクは人間だからね」
そんなことを、さらりと言った。
※※※
………………は?
今………………なんて、言った?
「人、間?」
「そうだよ。自分でも極力思い出さないようにしてるし、自分でそうだって思うだけで吐き気はするけど。ボクは生物学上は人間だ。魔族じゃないんだから、君に攻撃を与えられないわけないだろ?」
魔王軍最強、魔王の右腕が………人間。
その瞬間、俺は四年前のある言葉を思い出した。
元聖十二使徒で今はもういない、ミィアさんにつかまった魔王軍の兵士が、今際の際に笑いながら話したという、『戦神将』ヨミに関する数少ない情報の一つ。
『俺が教えなくとも、お前達は近いうちに、あの御方の姿を目にすることになる。ヨミ様は、お前たちが生み出した厄災だ。お前達人間がやり方を間違えなければ、あの御方が魔王軍に加入することは無かった。精々、自分達のしたことを後悔しながら死ぬんだな』
「俺たち人間が生み出した、厄災………」
「ボクの情報をどこまでつかんでるかは知らないけど、その表現は正しいね。人間がやり方さえ間違えなければ、ボクは君たち人間の切り札となっていたかもしれないんだから」
「あれ?ヨミ、話しちゃったの?」
第三者の声にそちらを振り向くと、そこにはリーンがいた。
そうだ、ヨミが人間なら、なんで彼女は………!
「うん。こうやってボクが表に出てきた以上、隠す必要もないしね」
「まあそれもそうだね。でも、冥途の土産にしては豪華すぎる話じゃない?………ねえ勇者」
「リーン………君は、人間が嫌いなんじゃなかったのか………!?」
「そうだって言ったじゃん。………ああ、ヨミは例外よ?ヨミは一応人間だけど、私と同じくらい人間嫌いだし、私以上に人間によって人生狂わされた被害者。あんたの言う通り、『人類の過ちによって生み出された厄災』だからね」
「人間によって、人生を………?」
「地獄行ったら、ハサドとかデューゲンとか、イーディス辺りに聞いてみなよ。『昔、五歳の女の子を虐待しませんでしたか』って」
虐待?聖十二使徒が?
いったい、どういう………
「話はこれくらいにしようか。………そろそろ斬る。リーン、下がってて」
「りょーかい。攻撃通じないんじゃ、私は足手まといだしねー」
ヨミは、再び剣を引き抜いた。
このままだと、間違いなく俺は死ぬ。
どうすれば………!
―——————パアアアン!!
俺の思考は、突如響いたこの音で遮られた。
聞き覚えるのある音だった。ガラスが割れる音と銃声を混ぜたようなこの音。
そう、結界が消えるときの音だ。
「転移阻害結界が………!?」
「ちょっ、まさか………!」
リーンとヨミは慌てたように後ろを向き、俺もそれにつられてそっちを見る。
そこには、既に満身創痍のヘレナさんと、『武神将』グレイ。
それに、地に臥せって動かない、ゲイルさんと………『賢神将』サクラがいた。
「サクラ君!?」
「相打ち………!?まだ息はあるよね!?ちょっと、君はマジで生き残らないとだめだから!!」
動かないサクラに、リーンが慌てて駆け寄る。
「はあ………はあ………先に、こっちにとどめを………!」
「《転移》!危なっ………!生きてるよねサクラ君!」
「!?リーン・ブラッドロード………!」
ヘレナさんがサクラにとどめを刺そうとしたところに、リーンが止めに入った。
「グレイさん、『こいつは俺の獲物だ』とかは言わずに聞いてください!ヘレナは私が引き受けます、グレイさんはゲイルにとどめを!あっちですぐにヨミが勇者を仕留めますから!」
「………やむを………えない………!」
互いに一人脱落。でも向こうには、多少の手傷は追っているもののまだまだ動けるリーンと、無傷のヨミがいる。
対してこっちは、もうヘレナさんはまともに動けないし、俺も追い詰められている。
戦況は圧倒的不利。だが。
「勇者様………撤退、です………!」
ヘレナさんのその一言で、俺は胸に仕込んであった転移のマジックアイテムを起動させた。
転移先は、メルクリウス聖神国の神都の転移陣。ヘレナさんも、自分のものとゲイルさんのものを遠隔で起動させている。
このままじゃ、俺はヨミには勝てない。どんなにあがいても、この厄災には絶対に。
だから、ここは逃げる。まずは、生き残ることを考えるんだ。
「!?行かせるか………!」
一瞬、向こうに気を取られていたヨミは、俺の転移に気づくのが遅れた。
それでも、神速と形容するにふさわしい速度で、俺の首を落とした………が、俺には自動回復がある。絶命する前に、首はつながった。
「待てっ………!」
再びヨミは剣を返し、斬撃を放ってきた………が、それが俺を切り刻むより一瞬早く、俺の視点は変わった。
転移が成功した。ここはもう、あの地獄じゃない。世界一安全な、メルクリウス聖神国神都だ。
「勇者様、それにゲイル様にヘレナ様っ………!?どうなさったので!?」
「デューゲン様やハサド様は………」
「ここにいる三人以外、全滅よ………早く、回復魔法の使い手を、ありったけ呼んできなさい………!特に、ゲイルは今にも死にそうなの………!」
「か、かしこまりました!!」
どうやら俺は………生き延びたらしい。
仲間を犠牲にして、覚醒までして、それでもヨミには及ばなかった。
もう安全だとわかると、その現実が、俺の頭を蝕んだ。
「勇者様………?勇者様っ!」
そして俺は、安心と後悔、敗北感と屈辱の中で、意識を手放した。




