【episodeZero】秘密基地
―――ガッシャアアアアン!!!
「おおおい、フィリスがまたやったぞ!!」
「うちの店の皿を叩き割りやがった!これ、ドワーフ族から仕入れるのに苦労したんだぞ!!」
「逃がすな、捕まえろ!今日こそあの天才バカに思い知らせてやれ!」
「フハハハハ!この私が、お前ら如きに捕まるか!!ほーら、こっちだこっちだ!」
「.......畜生っ、また消えた!いつもいつも、何処に消えるんだ!?」
「あいつ、もう既にステータスが族長を超えてるって噂だぞ.......」
「とてもまだ十三とは思えねえ.......ああクソ、一、二年前までは捕まえられたのに!」
そんなアホ共の声を、私は優雅に聞いていた。
地中で。
そう、天才な私は閃いた。秘密基地を山に作ると怒られるなら、その逆.......下に作ってしまえば良いのだ!
思い立った時から、私は穴を掘り始めた。
開いた穴は巧妙に隠し、里の外れに穴を掘り、掘り、掘り進め.......今では入口が四つもあり、里の下にアリの巣の如く存在する、迷路みたいな感じになっていた。
完璧だ。完璧すぎる。
何をやっても、ここの入口に逃げ込めば里の連中にはバレない。
何しろ、匂いや音が漏れないように、入口の蓋にはとても良い素材のものを使っているのだ!
いくら吸血鬼の五感が優れているといえど、これならばバレまい。
しかも、私は自分の魔法、身体強化魔法による五感強化によって、あっちの音は全て一方的に拾える。
嗚呼、なんで私はこんなにも天才なんだろう!
「あ、フィリスちゃんおかえり!」
「うむ!今日もミッションコンプリートだ!」
「わー!」
.............まあ、完璧だったはずの私だけの秘密基地、リンカにだけは何故か一発でバレたんだけどな!
私が苦心して地道に穴を掘っていた頃、後ろから「手伝おうか?」なんて声を掛けられた時はびっくりして死ぬかと思った。
「でもフィリスちゃん、この後はどうするの?お皿割ったのはフィリスちゃん家のおじさんとおばさんに伝わってるだろうし.......」
「ふっ.......リンカ、お前は頭が良いが、やはり私ほどじゃないな。そんなことも分からんとは.......」
「えっ、なになに?」
「解決法は簡単だ.......ここから出なければ良いのだ!!」
「.............あー、そっかー!」
「ここは過去、お前以外にバレたことがない!つまり、これからもバレない可能性が高い!それに、バレたとしても入口は四つあるから逃げられる!完璧だ!天才な私の天才的な発想が分かったか、リンカ」
「うん、そうだね!フィリスちゃんやっぱりすごーい!」
「わははは、そうだろうそうだろう!!」
そもそも、私とてあの皿を理由も無しに割ったわけじゃない。
あの店の店主(百歳くらい)が、偶然酒に酔って漏らした言葉を聞いてしまったのだ。
『うへへ〜、おれも将来いい人が.......そうだなあ、リンカちゃんなんて、大人になったら美人になるだろうなぁ〜』
『フィリスも黙ってりゃ美人なんじゃないか?』
『あいつはいらん』
この天才な私をいらない子扱いとはいい度胸だ。
そしてそれ以上に、私のリンカを性的な目で見たことが気に食わん!
というわけで報復として、あの男が大事そうにしていた皿をあの男の前で「このロリコン野郎!」と罵りながら何枚か割ってやった。
外見年齢が人間換算で十四〜三十くらいで止まる吸血鬼じゃ、ロリコンじゃないとやっていけないが、ロリにロリコンと言われる精神的苦痛は凄まじいものだろう。
流石私、嫌がらせひとつとっても天才的発想だ。
※※※
まあというわけで、私は既に十三歳だ。
里を出る予定の歳まで、あと七年。長命種である吸血鬼にとっては、それほど長い年月じゃあない。
「それでねー、私はフィリスちゃんと美味しいもの食べるの!きっと、里では見た事もないような物が出るんだろうなあ.......」
「.......取らぬ狸のなんとやら.......だな」
「もう!夢くらい見させてよー!」
まあ即ちそれは、こいつが私についてくるか否か、その判断を迫られる時も近づいている、ということでもあるのだが。
二十歳の時にまだ、私と一緒に里を出る意思があるなら連れて行く.......というのが、リンカとの約束だ。
まあ正直、二十歳になった時にはこいつは諦めているだろう。
今はまだこいつは子供だ。私のような天才!ならともかく、普通の十三歳は、まだギリギリ現実を見れない時期だ。
私は現実を見た上で里を出ようとしているのだから良いけど。
今でこそこうやって、『里の外に出たら私としたいこと』なんて可愛らしいことを日々夢物語のように語っているが、あと二年もすれば、「やっぱり無理」とか言うに決まってる。私の天才的頭脳に基づく勘がそう言ってる。
「ねえねえ、フィリスちゃんは里を出て、何をしたいの?」
「ん?私か?.......私は、そうだな。色々な種族を見てみたい」
「色々な種族?」
「ああ。エルフ、ドワーフ、竜人、悪魔、魔人.......あとは人間。世の中には、色々な種族がいて、それぞれ違う文化を持ってる。それを私は見てみたいんだ!ここにいては、生涯それを見ることは叶わんかもしれないだろう?.......なら、私の足で出向いて、吸血鬼とは違うやつらを見て回りたい」
「.......凄いなあ、フィリスちゃんは。そんな風に考えてたんだ.......」
「わははは!そうだ、私は凄いだろう!!」
「じゃあさじゃあさ!.......その色んな種族を一つにまとめて、友達になれたら、もーっと凄いかもね!」
「ん?.......そうだな、確かにそれは凄いかもな!色んな種族を一つに、か.......わははは、それが出来るのは、超天才な私くらいかもな!」
「そーだそーだー!フィリスちゃんしかいないぞー!」
「わははは、そうだもっと褒めろ!わははははは!」
※※※
「わはははは.......ん?」
音がしたな。
.......もしや、この秘密基地が気づかれたのか?
「フィリスちゃん?」
「しっ、静かに!.......ふん、見つかってしまったか。だが案ずることはない、例え一つ入口が見つかったところで、その穴を後で塞いでしまえば、また入口はリセットされるのだ。フハハハハ、超天才な私を相手にするのが間違いだったな!さあ、別の出入口から脱出を.......」
と、思ったのだが。
第二出入口からも人の気配がした。
第三、第四出入口も同様だ。
「えっと.......これってもしかして.......もうとっくに出入口は見つかってて、全部見つけて一網打尽にしようとか、そういう考えで.......」
.......。
「ど、どうするのフィリスちゃん」
ま、待て待て。落ち着け私。
そうだ、こういう時こそ冷静沈着を心がけるんだ。それが天才というものだ。
.......そして、閃いた!
「リンカ、穴だ!上に穴を掘って、新たに道を作ってしまえば良いのだ!」
「そっか、流石フィリスちゃん!」
フハハハハ、その通りだ.......
「穴を掘って脱出って発想があるなら、入口いくつも作る意味なかったんじゃないかって思ったけど、やっぱりフィリスちゃんはフィリスちゃんの天才アイディアがあったんだよね!凄いなあ、フィリスちゃんは!」
...................。
.......あれっ、確かにそうだな。
じゃあなんで私、いくつも出入口作ったんだ?
.......なんか、出入口がいっぱいある方がかっこいい気がしたんだよな。
「もももももちろん、私なりの考えあってこそだ。.......さ、さあ、とっとと逃げるぞ!行くぞリンカ!」
「うん!」
「.......やっと広いところに.......ああっ、見つけたぞフィリス!こんなどデカい穴を許可も無く掘りやがって!.......おい、上に穴掘って逃げる気だ、捕まえろ!」
「まずいぞリンカ、早く行こう!」
「うん!」
「待て、待ちやがれ!.......ちょっ、リンカちゃんまで!くそう、待てぇぇえ!」
こうして、私は逃げ切ることに成功した。
ざまあみろ、私がお前ら如きに捕まるか!
.......まあ、この後偶然近くにいた母上に見つかって、どキツイ折檻をされたけどな!!




