【episodeZero】天才
第五章スタート。
ずっと書きたかった魔王過去編です。
―――ドゴオオオオオン!!!
「おい、今の音っ.......」
「ちょっ、山の方よ!?土砂崩れかなにかじゃ.......」
「.......おい待て、フィリスがいないぞ」
「.............またあいつかああああああああああ!!!」
私の超優秀な聴覚は、その声を容易に捉えていた。
今目の前には、私が拳のみで掘り進めた洞窟が、まるで鬼の口のように私を迎えようとしているではないか。
「フハハハハ!とうとう、私の秘密基地が完成した!完璧だ、流石私!流石天才!さて、早速.......」
「おい、いたぞ!ええいこの悪ガキめっ.......その穴なんだ!?」
「おい、こんなもんそのままにしてたら、今度こそ土砂崩れが起きかねないぞ!」
「埋めろ埋めろ!土の元素魔法の使い手を呼んでこい!」
「お、おい、やめろお!私の隠れ家に何をする!ちょっ、あの、やめっ.......あああ、殴った時結構痛かったのにい!」
※※※
ここは、全ての吸血鬼族が住まう吸血鬼の里。
月に愛され、夜を生きる種族である吸血鬼族。
人口は三百人程度で、いくつも存在している魔族の中ではかなり少ない部類だが、一人一人が高いポテンシャルを持ち、月の満ち欠けによって身体能力が増すという、魔族の中でも指折りの強力な力を持つ種族。
そして私は、その里でダントツの天才。最早、吸血鬼とは違う吸血鬼.......ネオ・吸血鬼族と言っても過言ではないと思う。
つまり、天才な私が考え、実行することは大体正しいのだ。
だから、私の友達に嫌がらせをしたガキの口に報復としてカブトムシを突っ込んだのも、朝ご飯に出た玉ねぎをこっそり回収して自然の肥料にしたのも、母上のブラジャーを近所のおっさんに見せびらかして自慢したのも、父上の髭剃りの刃を全部だめにしたのも、そして今回のように秘密基地を作ろうとしたのも、全て私なりの理由があったことであり、大体正しい。
.......なのに、
「.......バカ娘、お前がバカな真似をしたバカそうな理由を聞こうか」
「バカバカ言わないでくれ、私は天才だもん。だから私がすることは大体正しいわけで.......痛だだだだ、あ、ちょ、あの、マジで痛いっ.......あ、ごめ、分かった、ごめんなさい父上!!」
「許可無く里の外に出るなと、何度言ったら分かる!ここか?ここの出来が悪いのか!!ええい、バカな頭を矯正してくれるわっ!」
「ぎゃああああ!痛い痛い痛い!グリグリやめてえ!」
なのに、何で皆は私の天才的な素晴らしい考えが理解出来ないんだ!これも、天才故の苦悩.......なのだろうか。
「ああ、お前は天才だとも。神童だとも。それは認めてやる。.......だが、それはあくまでステータスの話であって、お前のおツムは弱いってことを、いい加減認めろおおお!」
「痛い痛い痛い痛い!ちょっ、いつまでやるのっ.......」
父上のグリグリは、母上のグリグリ程じゃないにしろ、凄く痛いのに!
十歳の娘にすることじゃない!
「フィリス、いい加減にしろよ!?このイタズラ娘、次何かやってみろ、この家を追い出してやるからな!」
「ギャアアアア、痛だだだだだだだだ!!」
※※※
「.......酷い目にあった」
くそう、超天才な私の頭を、あんなにグリグリしやがって。
バカになっちゃったら全生物の損失だというのに!
そもそも、今回は山に穴を開けただけなのに。確かに穴が大きすぎて、自重で山が崩れる可能性はあったかもしれないけど、それは私の天才的アイディアで止める算段があったんだ!
まったくまったく、天才っていうのはいつの時代も孤独.......
「フィリスちゃーん!」
「.......リンカ」
私に駆け寄ってきたのは、里で唯一の同年代で、幼馴染のリンカだった。
私ほどじゃないが、中々に高いステータスを持つ女の子だ。
「フィリスちゃんフィリスちゃん、さっきの凄い音、フィリスちゃんがやったんだよね?凄いね凄いね!」
「フハハハハ、流石リンカだ、私の天才的頭脳を辛うじて理解出来るのは、この里でもお前だけだな!」
この娘の素晴らしい所は、私の天才的行動を理解することが出来るという事だ!
流石は幼馴染、私のことを親よりも分かっているとは。
この私の唯一の理解者たるリンカを、六歳も歳下の分際でからかおうとしたガキに、制裁として口にカブトムシをぶち込んだ事もある。何故かその後、母に頭グリグリお尻ペンペンされたが、リンカが泣いてお礼を言ってくれたから後悔はしていない。
「でねでね、フィリスちゃん。あっちでね、凄く可愛いお花見つけたの!フィリスちゃんにとっても似合うと思うから、行こ行こ!」
「フハハハハ、良かろう。私の凄い力を、お前に貸してやろうではないか!」
「わーいわーい!フィリスちゃんありがとう!」
むふふふ.......天才な私は閃いたぞ。
私の頭をあんなにグリグリした報復として、花の近くにいる虫を捕まえて、父の部屋に放り込んでおいてやろう。
父は虫が大嫌いだから、きっと慌てふためくぞ。それを窓から観察してやるんだ。
「フィリスちゃん、こっちだよー!」
「わっ!ま、待て、引っ張るな.......!」
※※※
「.......可愛い花ってこういうことか」
「え?可愛いよね?」
「うん、まあ、うん.......可愛いな」
私としては、一面の花畑とは言わずとも、群生しているのを想像していたんだが。
まさか、端っこにポツンと咲いている小さな花の事とは。
これでは、虫は近くにいなさそうではないか。畜生。
「えへへ、可愛ーねー」
「.......そうだな」
まあ、いいか。
リンカが楽しそうだし。
「えへへへぇ」
「おいおい、何だ急に。変なやつだな」
「だって嬉しくてー。フィリスちゃんと一緒にいるの、凄く楽しいんだー」
リンカは時々、天才な私でもよく分からんことを言う。
小さな頃からずーっと私と一緒にいるだろうに。
「フィリスちゃんは凄いもんねー。きっと、私なんかじゃついていけなくなっちゃうんだろうなー」
「何を言ってるんだ、私の天才的な考えを理解出来るのは、この里でお前だけなんだぞ!この里で、お前ほど貴重な人材はいない!.......それに、お前は次期族長の最有力候補だろうに」
リンカ・ブラッドロード、それがこいつの本名だ。
こいつの父親は、吸血鬼族の長、吸血鬼王。何の変哲もない一般家庭である私よりも、身分は上なのだ。
まあ、そんなのあってないようなものだが。
「いやいや、次はフィリスちゃんだよー。フィリスちゃんはこの里でも凄く強い方だし、絶対私なんかより向いてるって!」
「.......私のようなイタズラ娘に吸血鬼王の座を渡す奴がいたら、そいつは医者に行くべきだと思うぞ」
天才な私は、自分を客観的に見つめるということも出来るのだ。
傍から見れば、私はただのイタズラ娘に見えるだろう。
まあ、全て私なりの考えありきでやっている事だから、厳密にはイタズラとは言わんのだがな!
「えー?私がそうなら、絶対次はフィリスちゃんを指名するけどなー」
「頭に回復魔法をかけてやろうか?」
「酷い!?」
吸血鬼王は指名制だ。今代の吸血鬼王が次代を決めておき、今代が亡くなると指名されていた次代が吸血鬼王に種族進化し、その者とその家族が、『ブラッドロード』の苗字を名乗れる。
「そもそも私は、吸血鬼王になんかなりたくないんだよ」
「えー?じゃあ、将来の夢とか無いの?」
「夢.......か」
まあ、あるといえばある。
「私は.......この里を出てみたいかな」
「えー!?.......里を出るには、吸血鬼王を超える力を持ってないとダメって話でしょ?」
「そうだ。だから、私は強くなるんだ。.......私は、こんな狭っ苦しい里で千年の寿命を費やすなんて真っ平御免だ!もっと広い世界を見てみたい、色んな種族を見てみたい。.......強いて言うならそれが私の夢だ」
温厚で上昇志向が薄い吸血鬼族は、私と似た考えをする者は殆どいない。
まあ、当然といえば当然。ここにいれば、安心安全で楽な暮らしを送れるんだから。
だから、旅立つのは私一人しかいないだろうな。
そう考えていたのだが、
「そっかあ.......うん、分かった。それなら、私もついて行く!」
何をトチ狂ったのか、リンカがそんなことを言い出した。
「.......いやいや、何をバカなことを言っている。私はかなり特殊なことを言っているぞ?お前はここにいれば、将来を約束されているも同然だろうに」
「えー?だって、フィリスちゃんがいない将来なんてやだもん!だから私も行く!フィリスちゃんと一緒に!だから、ついて行ってもいいでしょ?」
こいつは私に次ぐ天才だと思ってたが、勘違いだったっぽい。
「.......まったく。十年後に同じことを言えたら考えてやる」
「言ったなー!?絶対に言ってやるんだから!」




