表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたを忘れるべきかしら?  作者: 長岡更紗
第二章 アリシア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/88

11.そうですね、恐らくは

ブクマ17件、ありがとうございます!

 王妃マーディアとシウリスをハナイに送り届けて帰ってきた日に、ジャンも戻ってきた。結局なにも証拠は見つからず、ルーシエの予想した通り、警備隊の遺体も敵の遺体も消えていたらしい。


「ご苦労だったわね。しばらくはゆっくり休んでちょうだい」

「王妃様とシウリス様の様子は?」

「そうね、落ち着いてきている……と思うわ。傷が癒えるにはまだまだ時間が必要そうだけど」

「俺のせいだな……もう少し……もう少し早く調べがついていれば……」


 やはりと言うべきか、気落ちしているジャンにアリシアは声を上げる。


「ジャン、自分を責めてはだめよ。あなたがいたからこそ、お二人の命は救えたんだから」

「でも、それでも……」

「もうこの件に関して悩むのは止めなさい。これは命令よ」


 多少強引な言い方に、ジャンは「わかった」と了承してくれた。こんなことで彼の罪悪感を払拭できるとはアリシアも思っていない。が、こうしないとジャンはいつまでたっても立ち直れそうになかったのだ。

 マーディアは長女を失い、シウリスは自分を庇った姉を失った。その二人の心の傷が癒えることは、あるのだろうか。

 誰も傷ついてほしくない。誰も責任など感じてほしくない。


(いつか、みんなで笑い合える日がくればいいのだけれど)


 アリシアはまた息を吐きそうになり、天を仰いだ。




 ***



「筆頭、ただ今戻りました」


 ある日、マックスが任務の完了を伝えにアリシアの元へやってきた。彼には本日、マーディアの様子を伺いがてら、アンナを送り届けてもらっていた。学校が冬休みに入ったので、アンナもしばらくは森別荘で過ごせるのだ。普段の週末も、アリシアが忙しい時にはマックスに頼んでいる。


「ありがとう、マックス。アンナ、喜んでた?」

「はい。少し元気を取り戻したシウリス様を見て、ほっとしているようでした」

「そう、よかったわ。シウリス様も早く元通りになってくださればいいんだけど……」

「それなんですが、筆頭」


 マックスはアリシアの瞳を見ながら、少し険しい顔をする。その顔を見て、アリシアもまた眉を寄せた。


「どうしたの」

「シウリス様が、いつもと違うことを言い出しまして」

「いつもと違うこと?」


 シウリスのいつもの発言とは、基本的にアンナの話である。アンナをもっと頻繁に連れてきてほしい、アンナと一緒に過ごしたい、と、いつもこうなのだが。


「なにをおっしゃってたの?」

「それが……」


 マックスは少し言いにくそうに、言葉を一度切ってから声を発した。


「レイナルド様は、なぜフィデル国やラウ派に復讐しないのか、と」

「……あなたはなんて答えたの?」

「すみません、答えられませんでした。シウリス様なりに必死に考えているのがわかって、誤魔化すこともしたくありませんでした」

「そう。いいのよ、それで。で、シウリス様はなんて?」

「筆頭に聞くからもういいと言われました。なので、次に筆頭が行った時には同じ質問をされるかと」

「わかった、覚えておくわ。ありがとう」


 マックスが下がると、アリシアはシウリスの言った言葉の意味を考える。


 なぜ、復讐しないのか。


 シウリスからすると、不思議で仕方ないのだろう。ラファエラが殺されたにも関わらず、フィデル国に対してなんの措置も取らない父親が。

 自分を庇って殺されたラファエラの死を病死として片付け、ラウ側に対して罰することもしていない。

 まるで何事もなかったかのように……いや、なかったことにしてしまい、森別荘に押し込められた理由がわからないに違いない。

 ラウ側に関しては調査中で、現段階では誰を裁けるわけでもないのだが。


 アリシアはその理由をきっちり説明するために、次の休みにはハナイに向かった。


 ハナイは静かな避暑地だ。今は冬なのでとても寒いのだが。

 人里から少し離れているので、滅多に人には会わない。バルフォア王家の森別荘はそんなところにある。高い外壁は緑の蔦で覆われていて、遠くからでは一見そこに建物があるとはわからない作りになっているのだ。

 アリシアはそこの鉄扉を守る警備兵に声をかけ、中へと入った。そこにはほんの僅かに積もった雪で、雪だるまを作っている子どもたちの姿がある。


「うわぁ、真っ黒の雪だるまになったな」

「明日になったら綺麗な雪だるまが作れますよ、シウリス様」

「よし、明日は雪だるまを作った後に雪合戦だ! わかったな、アンナ!  ルナリア!」

「はい!」

「シウお兄しゃまとゆきがっせん〜!」


 第三王女のルナリアも一緒に遊んでいる。最初は王都にいたのだが、彼女にも危険があるといけないのでハナイで住むことになったのだ。

 仲睦まじい兄妹とアンナの姿を見て、アリシアの頬は自然と緩んだ。アンナと過ごしたこの数日で、シウリスの心は快復している。この時のアリシアは、そう信じて疑わなかった。


「あ、アリシア」

「お母さん!」


 二人の子どもがアリシアの存在に気付き、駆け寄ってきた。


「遅いよ、アリシア」

「申し訳ございません、シウリス様」

「お母さん、年始は一緒に過ごせるの?」

「ごめんなさい、今日だけ泊まって、明日には帰るわ」

「そっか」


 無理に笑顔を作るアンナに対して、明らかに不貞腐れたシウリスの顔。こんな二人の対比が懐かしい、と思えるのは、シウリスが元に戻りつつある証に違いない。


「そろそろ暗くなってきましたので、中に入りましょう」


 そう促し、別荘の中へと入る。中では暖炉が焚かれていて、アリシアは上着を脱いだ。そしてその暖炉の前に腰掛けているマーディアに、挨拶をする。


「マーディア様。筆頭大将アリシア、参りました。その後お加減はいかがでしょうか」


 しかし、いつもと同じように反応はなかった。 マーディアはアリシアの方など見ず、パチパチと燃える炎をぼんやりと眺めている。


「外は雪が降ってきましたよ。シウリス様が雪だるまをお作りになりました。土が混じって黒くなっていましたが、明日には真っ白な雪だるまを作ってくださるでしょう。王妃様もその雪だるまを見に、明日は外を散歩なさってはいかがですか?」


 アリシアは話し続けるも、相変わらずマーディアの反応はない。あれから三ヶ月が経とうとしているが、マーディアの様子はまったくと言っていいほど変わってはいなかった。


「アリシア、聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょうか、シウリス様」


 中に入ってきたシウリスが、マフラーを解いて侍女に渡している。その仕草がなぜか、やけに大人びて見えた。


「お父様はフィデル国に対して、どうしてなにもしないの。お母様や僕が……なによりお姉様が、酷い目に遭ったっていうのに」


 予想通りの質問が出て、アリシアはシウリスの視線と合わせるために片膝を折った。


「シウリス様。レイナルド様とて、なにもしたくないわけではありません。ですが、なんの証拠もなくフィデルを叩くわけにいかないのです」

「証拠があれば、お父様は動いたと思う?」

「そうですね、恐らくは」

「じゃあ、ラウ派の方はどうなの」


 真っ直ぐに、しかし突き刺さるような視線を投げられ、アリシアは真摯に答え返す。


「そちらは現在調査中です」

「ヒルデ王妃が企んだんじゃないの? 僕が死ねば、ルトガー兄様かフリッツが確実に王になれる」

「それは……」

「どうしてお父様は、こんな犯罪を企んだラウ側を放っておくの」


 冷たい瞳。たった十歳の子どもがする目ではない。


「シウリス様、滅多なことを言わないでください。ヒルデ様が企んだという証拠はどこからも出ていません」

「証拠? そんなもの、出るわけないだろ」


 シウリスは、大人が必死になって調査していることを鼻で笑った。

 確かに、証拠を見つけるのは困難だろう。証拠もなく、本当にヒルデが計画したのかもわからない。そんな状態のため、法で裁けるわけもなく、ズルズルと時間だけが過ぎてしまっている。


「証拠を、作ればいいのに」


 ポツリと吐き捨てるように呟いたシウリスの言葉。どういう意味かを尋ねる前に、シウリスはプイと後ろを向いて去ってしまった。アリシアは得体の知れぬ悪寒がして、身震いする。

 今の発言は、本当にシウリスがしたものだったのだろうか。いつも優しく明るかった少年が、大人よりも鋭く冷たい視線と言葉を放った。

 腕に立ってしまった鳥肌を、アリシアは自身の手でさする。


(シウリス様……?)


 その予感がなにかわからずに、アリシアは暖かい部屋の中で震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたを忘れる方法を、私は知らない

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ