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お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話  作者: 湯島二雨
エピローグ

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永遠の愛と新しい命




―――




 ―――6年後―――



俺がこの『ツンデレお嬢様と幸せになる話』の世界に転生してから6年が経った。

転生したばかりの頃と比べると前世の記憶も薄れてきてこの世界にすっかり適応できた。まあこの世界は前世とそんなに違わないので慣れるのにそこまで時間はかからなかったが。


柚希と交際を始めて6年経つが当然今も続いている。というかもうとっくに結婚している。


大学を卒業してすぐに結婚した。

柚希の家に居候という形を長く続けていた俺だが、いつまでもそうしてるわけにもいかないと思い、ちゃんとした家を買って柚希と2人で暮らしている。

……いや、もうすぐ3()()()()()



前世では友達も1人もいなくてほとんど家に閉じこもっていた俺が、今は愛する彼女と幸せに生きている。親に見限られたので俺1人の力で責任を持って柚希を幸せにしている。


この世界に適応したとは言ったがほぼ10割は柚希のおかげだ。柚希がいないと生きていけないと断言する。


6年経っても動物や子供に嫌われたままだし、高校でも結局最後まで嫌われたままガチのぼっちで終わったし。



本来はこの世界の生物ではない俺は、動物や子供に嫌われる体質は治らないのだろう。ライオンを檻に戻せたりとか役に立ったこともあるからいいけどな。


本来は学園ものであるはずのこのラブコメ世界も、柚希を選んだことで学校で起こるはずのイベントとかはほぼ消滅した。もはや学園要素はなかった。

メインヒロインを選ばなかった代償は大きいということだろう。でも俺は微塵も後悔していない。


何があろうとも柚希がいてくれれば大丈夫。柚希がいれば俺に怖いものはない。



 俺は現在、大学を卒業して就職している。

人生2周目のこの世界でも、俺は平社員で前世とあまり変わらない仕事をしている。収入もしょぼいし出世できそうな気配もないけどまあぼちぼちと頑張っている。



仕事中、会社の窓から見えるビルに設置されている大きな広告が目に入った。



『祝! アニメ化決定! ザマス探偵エリー』



『ザマス探偵エリー』は現在人気急上昇中の小説で、コミカライズ化、アニメ化もされることが決まった。

この作品の作者が、木虎桃香だ。


桃香はあれからプロとしてデビューし、あっという間にアニメ化まで果たした売れっ子作家になった。

高校生の頃から推理小説を書いていてザマス口調にもチャレンジしていた桃香は、ザマス口調で話す名探偵の小説を書いて無事にヒットした。


ザマス探偵の主人公は男だし、恋愛要素も薄めでドロドロしてなくて以前俺が読んだ彼女の小説より格段に読みやすくなっている。


ザマス口調で話す釣り目のイケメン主人公が女性読者に好評なようだ。



とにかく、この世界の桃香も無事に売れっ子小説家になってよかった。

俺が転生したせいで万が一桃香の人生が失敗してしまったらどうしようかと思ってたから。


俺は広告を見て活力をもらい、仕事に戻った。




 もうすぐ18時、残業もないしもう帰れる時間。

今日はとても大切な日なのだ。人生で一番と言ってもいい、大切な日。もちろん柚希のことだ。そわそわしながら壁にかけられた時計を気にする。


そして18時になった。


よし! 仕事が終わった瞬間すぐに退社する。申し訳ないが今日は、今日だけは何があろうと絶対にすぐ帰らなければならない。まあ友達がほぼ皆無な俺は飲みに誘われるみたいな人付き合いはほとんどないけどな。寂しい時もあるけど今日に限ってはとても好都合だ。


とにかくある場所に急いで向かう。

急げ、急げ。絶対に行かなければならない場所へ、1秒でも早く行かなくては。


駅に向かって周りに迷惑じゃない範囲で街を急いで走る。



「あのー、ちょっとお兄さん! ウチで遊んでいかない?」



走って街を移動している途中、黒服のお兄さんに声をかけられた。

うわっ、ここ風俗街だった。しかしここを通るのが一番駅までの近道なんだ。こんな時に風俗の客引きかよ。タイミング最悪すぎる、なんでよりによって今なんだよ。


「いや悪いけど今急いでるんで!!」


当然断って走って逃げる。ていうか俺今走ってるだろうが。どこからどう見てもメチャクチャ急いでるだろうが。なのになんで俺に声かけてくるんだよ。言わなきゃわかんねぇのかよ。



「まあそう言わずにさ、ちょっとだけでいいから! 可愛い子いるしサービスするよ?」


黒服のお兄さんはそれでもしつこくつきまとってくる。走っている俺に走ってついてきやがる。なんなんだよこいつ。走って追いかけてまで客引きなんて普通しねぇだろ! なんだよその執念!


「急いでるって言ってんだろ! ついてくんな!!」


「頼むよお兄さん、本当にちょっとでいいから遊んでいって!」


別に風俗で女と遊ぶのが悪いとは一切思わない。俺も()()()()彼女ができない寂しさを埋めるために何度かお世話になった。

でもな、今だけは、今だけは絶対無理なんだ。前世でキモいカスだった俺でも、柚希が大変な時に女遊びするようなクズにはなりたくねぇ!!

いや今じゃなくても女遊びはもう絶対しない! 柚希がいるこの世界に転生してからは女遊びなんて一度もしてないし未来永劫するつもりもない! 他の女と遊ぶヒマがあったら柚希とイチャイチャしたい!



「ホラお兄さん見てよこの写真! 当店一番の女の子だよ! この子つけてあげるからさ!」


無理やり俺に写真を見せつけてくる。その写真を見て俺は身の毛がよだつような恐怖を覚えた。



いや、そいつ……

前世で俺に性病をうつした風俗嬢と同じ顔じゃねぇか……


マジかよ……この女この世界にも存在するのかよ……知りたくなかった。なんでわざわざ知らせてくるんだこの最悪のタイミングで。


前世の俺の末路が、トラウマが脳裏に蘇る。

病院のベッドの上で点滴を受けて酸素マスクをつけて、動けない状態で死んだ記憶。前世の記憶が薄れてきたとはいってもこの最期の記憶だけは鮮明に残っていた。


この大事な時にイヤなこと思い出させやがって、どうしてくれるんだこいつ。この展開誰得だよ。この期に及んで神の嫌がらせかよ。



……まあいい。前世では最悪な結果になったけど今の俺は最高に幸せなんだ。

前世は前世、今は今だ。何ならその風俗嬢に感謝すらしてるほどだ。俺はこうして生まれ変われたんだから。


ポジティブに考えよう。前世の自分に、さようならを告げるいい機会だ。



この辺はあまり人がいないし、もっと速く走っても大丈夫そうだな。

俺はさらに速力を上げて速く走る。しつこくついてくる客引き野郎をグングンと引き離す。



「なっ、速っ……!? ま、待ってよお兄さん!」


待つわけねぇだろ。追われて逃げるのはこれで何度目だろうか……もうすっかり慣れっこなんだ。あんたもなかなかすごい根性だがここまでだ。さらばだ黒服お兄さん。


あれから6年、運動することで引き起こされる頭痛ももうほとんど克服できた。昔よりより速くより長く走れる。俺は誰にも止められない。止めることができるのは世界でただ1人、柚希だけだ。


俺は客引き野郎から完全に逃げ切って、そのまま駅に直行した。




 トラブルもあったが乗り越えて急いで走って急いで走って、ようやくたどり着いたのは病院。大きな病院だ。

柚希がいるんだ。今行くぞ柚希。


俺は急いで柚希がいる部屋に行く。



「―――柚希っ!!」


「柊斗……!!」



俺、到着。お腹が大きくなった柚希が、出産の準備を始めているところだった。

俺たちの子が、ついに生まれる。



「柊斗、まだ仕事終わったばかりじゃない? こんなに早く来てくれたんだね、嬉しいな……」


「何言ってるんだ、いの一番に駆けつけるに決まってるだろ。柚希がとても大変な時なんだから」


「うん、ありがとう……」


辛そうにしながらも笑顔を見せてくれる柚希に、胸がキュッと締めつけられる思いだ。



「柚希、頑張れ」


「うん、頑張る!」



柚希の出産が始まる。俺も瞬きもせずにそばで見守った。




―――




 「おぎゃあー! おぎゃあああー!!」



そして、ついに新しい命が誕生した。

柚希は無事に俺たちの子を出産した。



「やった……! 柊斗、やったよ……!!」


赤ちゃんを抱いて、柚希は笑顔で涙をたくさん流す。

俺も生まれる前からすでに顔面が涙で溢れ返っていた。


「ああ、やった……! やったな……!」



俺は柚希と我が子を抱きしめて泣いて祝福した。

柚希と歓喜の涙を流し続けた。




『お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話』



―――END―――


『お色気要員の負けヒロインを何としても幸せにする話』これで完結になります。


ラブコメで絶対に勝てないようなお色気要員のお姉さんを絶対に勝たせる、ラブコメのアンチテーゼを意識した作品でした。


読んでいただきありがとうございました。


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